日本紙パルプ商事の仕事は、単なる国内製紙メーカーの代理店(一次卸)事業だけにとどまらない。新たな紙の可能性の実現や、地方の紙流通ネットワークを支え、維持する機能も併せ持っている。

今回の舞台となる東北において、商売の要となるのは「卸商」と呼ばれる二次卸だ。紙流通における卸商とは、各地域において在庫・配送機能を持ち、印刷会社・出版社・一般企業や自治体などへ、印刷用紙・板紙・情報用紙などを販売する業者を意味する。印刷会社や出版社などが使用する紙は用途や体裁がさまざまであり、日本紙パルプ商事などの代理店が製紙メーカーから仕入れた荷姿のままでは、納入できないケースが多い。そこで、卸商が顧客の要望に合わせ、断裁加工、小ロットでの搬送などきめ細かいサービスを担っている。東北地区の卸商の特色としては、いわゆる紙のみを取り扱うところは少なく、オフィス用品なども併せて販売するケースが多い。

これまで、日本紙パルプ商事 北日本支社 東北営業部の商売は、卸商をはじめとする地域の顧客と一体となって共に歩んできた歴史を持つ。これからも、ビジネスのカギとなるのは地域の顧客であることに変わりはない。

日本紙パルプ商事のスローガンには、「Paper, and beyond」とある。紙とともにその先へ向かうという姿勢がこのフレーズに表れている。重要なのは未来だが、未来は現在、そして過去によって支えられている。地域の顧客との間に連綿と培われてきた信頼関係を重んじなければ、今後の商売も成り立たない。とは言え、これまでの商習慣だけでは生き残れないことも明白だ。循環型社会を見据えつつ、何か新しいことを――東北の紙流通を支え続けるため、東北営業部は今、変革のときを迎えている。

若⽬⽥ 耕
Ko Wakameda

日本紙パルプ商事株式会社
北⽇本⽀社 東北営業部 部⻑

川渕 智貴
Tomoki Kawabuchi

日本紙パルプ商事株式会社
北⽇本⽀社 東北営業部 営業一課

※ 所属・役職名は取材時時点のものです

東北地区の紙流通は今

東北に拠点を開設したのは1961年。今も重要な得意先である岩手県盛岡市に本社を構える卸商 赤澤紙業の仙台支店の一角を借り、営業を開始した。「卸商とのコラボレーションこそ、東北営業部の原点です」と語る若目田。そのスタートから今日に至るまで、東北地区における商売の要が卸商であることになんら変わりはない。

そんな東北の地に若目田の配属が決まったのは、2011年に発生した「東日本大震災」の前日だった。日本全体の中でも、ひと際人口減が進む東北で、この思わぬ災禍が大きな痛手となる。若目田の赴任当時、東北地区の紙需要の比率は全国代理店実績の2%程度だったのに対し、現在は1.6~1.7%程度にとどまる。「2011年3月10日までは順調な売り上げだったと聞いています。そこで震災が発生し、東北地区は大きな被害を受けた。それから以前の勢いが回復しないまま、デジタル化などの進展による紙需要の減少が追い打ちをかけた感があります(若目田)」。

そして、コロナ禍がさらに追い打ちを掛ける。「仙台七夕まつり」や「青森ねぶた祭」などに代表される祭り関連の紙需要があることも東北地区の特徴だが、各地のイベントが次々と中止になることで、紙の販売量は激しく落ち込んでいく。

他にも地場の仕事の減少などさまざまなネガティブな事象が続く一方で、若目田はポジティブな姿勢をのぞかせる。「印刷用紙の販売以外にチャンスを求めざるを得ないという表現が正しいのかもしれませんが、私は『新たなスキーム作りに集中できる環境がある』という風に捉えています(若目田)」。東北には歴史ある卸商が多い。連綿と続くその流れを絶やさないためにも東北営業部は一丸となり、これからも精力を注ぐ覚悟だ。

ニーズに応える商材提案、メーカーとの連携

東北においても、日本紙パルプ商事の重要な役割は紙の安定供給と同時に、新商材の紹介や販売方法の提案などといった紙需要の掘り起こしである。近年の脱プラスチックの潮流を踏まえ、川渕は日本製紙の「ラミナ®」に着目。ラミナ®の原反はロール状の巻取であることから、東北では数少ない巻取紙の裁断が可能な卸商にラミナ®を紹介し、協働で紙の潜在需要を掘り起こすことに成功した。

ラミナ®以外にも、川渕は再生可能で生分解性のある素材を積極的に提案している。中でも王子エフテックスの紙製バリア素材「SILBIO BARRIER(シルビオバリア)」は包装分野における脱プラスチックに貢献できることに加え、酸素や水蒸気などの漏れをおさえる点でも注目していると語る。

そして川渕は、メーカーとの連携についても決して気を抜くことはない。精度を高める目的で、社内外のあらゆる方面から情報を集めて詳細に把握し、正しいと判断した内容だけをメーカーに提供するよう心掛けている。担当エリアである東北地方のみならず、製紙会社の本社がある東京から発信されることの多い最新の情報に対しても常にアンテナを張る構えだ。

卸商をさまざまな⾯からサポート
それが我々の役⽬

東北の祭と紙消費が密接に関連することは前述の通りだが、青森で有名な「ねぷた」に使われる障子紙の約8割を供給するのが、青森県弘前市に本社がある鳴海紙店だ。鳴海紙店は2021年8月に日本紙パルプ商事グループの一員となったが、これまでに東北営業部が日々積み重ねてきた信頼関係の好例と言える。「東北営業部で鳴海紙店さんを担当された諸先輩方のおかげで、今の形があると認識しています(若目田)」。先人が築いた礎の上に、今後も成長を続けること――東北営業部に課せられた使命は大きい。鳴海紙店がこれまで第一に力を注いできたことは、地域密着型サービスだ。鳴海紙店がグループに加わることにより、同社が持つ青森県西部・津軽地区で確立された強固な販売網と、日本紙パルプ商事グループが有する幅広い取扱商品や企画力が渾然一体となることで、新たな可能性が開かれるだろう。期待を確信に変えるため、東北営業部としても複雑化する取引先からの要望に応えていくと同時に、地域の紙流通ネットワークの維持にこれからも貢献し続ける。

また、全国的に紙需要が減少傾向にある中、東北の各卸商も例に漏れず、紙以外の商材に活路を見いださざるを得ない状況にある。そのため、川渕は日本紙パルプ商事のグループ企業であるアライズイノベーションの「AIRead」も提案。AIReadは帳票のデータ化からシステムの連携までを行うツールだが、アナログからデジタルへの移行によって業務効率化を促進する他、卸商にとっても新たな商材となる点を川渕は強調する。もはや一部の業務のペーパーレス化は不可避であると川渕はみなし、DXに通じる人材となってさらに貢献度を高める姿勢だ。

課題解決への取り組み

業界全体の大きな課題となっている物流問題の解決に向けては、地元の卸商からも期待が寄せられている。「各卸商が所有する倉庫の多くは、東京のそれとは比較にならない規模です。一方、紙需要の減少や配送形態の変化も相まって、物流機能を維持することが厳しくなっています。そこに、共同配送や共同保管といった新たな仕組みを構築することができれば。競合関係にある卸商さんとの間に当社が絡み、互いに協力し合って業界共通の課題を解決できれば、これ以上うれしいことはないです(若目田)」。

以前から若目田が抱いていたビジョンが現実になる日は、そう遠くはなさそうだ。日本紙パルプ商事グループの物流会社で、共同配送のパイオニアであるJPロジネットとのコラボレーションも、若目田は検討している。同業他社との共同配送の実現で、コストや時間のロスを軽減し、効率化を目指す考えだ。「少子高齢化を背景として人口減少がより進むことで、人手不足もさらに深刻化するでしょう。こうした社会問題を解決するためにも、新たな物流の仕組みが急務です(川渕)」。川渕はまた、断裁作業をさらに効率化すべく「共同断裁」についても模索中だ。

この先を見据えて……

川渕をはじめ、若手営業部員の現場対応力を若目田は頼もしく感じつつも、まだまだ伸びしろがあると見ている。「一人ひとりが地域にとってかけがえのない存在、頼れる存在になることを期待しています(若目田)」。名実ともに、東北地区における最強のチームに育て上げる狙いが、若目田にはある。地域の紙流通網を維持し、紙のすばらしさを社会に提供できる組織を作り上げること――それが、若目田の究極の目標だ。

古くからの流れを絶やしてはならない。とは言え、未来に欠かせないものは新しいことへのチャレンジである。これまでのビジネスモデルだけでは生き残れないことは、より一層浮き彫りとなっている。「変わる」ことへの抵抗感や反発が存在することは否めない事実だが、プラスアルファの工夫や諦めない粘り強さ、そして相手もうなずく提案力が現状打破への突破口となるだろう。東北地区に限らず国内全体が厳しい状況にあるが、卸商・エンドユーザー・コンバーターに寄り添い、東北営業部はワンチームとなって、これからもしなやかに挑み続ける。

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予告なしに変更される可能性もありますのであらかじめご了承ください。
[掲載日] 2022年5月25日

日本紙パルプ商事は2つのECサイトを運営している。

そのひとつ「Paper & Goods(https://www.paperandgoods.com/ 以下P&Goods)」では、店舗、工場、事務所などを主なターゲットに、オンデマンド・デジタル印刷用のメディアを扱っている。現在の取扱アイテム数は、8,000点以上。プリンタ用紙なら、一般的に使われるレーザープリンタ・コピー用紙からプロ向けの大判プリンタ用紙までが揃う。さらに、ラベルシール、フィルム、不織布、インクやトナーなどもラインナップ。その他にも、紙雑貨やパーテーション、抗菌製品など衛生グッズに至るまで、品揃えは実に豊富だ。

また、2019年には、環境配慮型製品の販売・紹介を通じて関連情報を集積・発信し、環境配慮型製品の使用促進に貢献する新たなECサイトとして、「Paper & Green(https://www.paperandgreen.com/ 以下P&Green)」を立ち上げた。紙、パルプ、木材を原材料にした製品に限らず、バイオプラスチックを活用した環境配慮型製品などを掲載しており、こちらも取扱アイテムは幅広い。

これらのサイトに関わってきた床嶋と山下に、立ち上げの経緯や特徴、紙の専門商社だからこそ提供できる価値や今後の展望などを聞いた。

Paper & Goods 担当
床嶋 展
Hiromu Tokoshima

日本紙パルプ商事株式会社
機能材営業本部 機能材3部 デジタルソリューショングループ

Paper & Green 担当
山下 猛
Takeshi Yamashita

日本紙パルプ商事株式会社
国際営業本部 サステイナブルソリューショングループ

※ 所属・役職名は取材時時点のものです

サイトを立ち上げたのは、今から20年以上前

P&Goodsの立ち上げは、2001年に遡る。会社として初めての取り組みであることに加え、当時、社内にECビジネスに長けた社員はおらず、手探りの状態でスタートを切った。2015年に床嶋が前任者よりEC事業を引き継いだが「SEO対策(※)やコンバージョン(購入)率の改善なども、最初は感覚的に行っていました(床嶋)」。トライ&エラーを繰り返す中で、徐々にサイトは成長していく。2016年にはECサイト「松本洋紙店」と資本業務を提携。2017年11月にはAmazon Businessへの出店を果たし、幅広い顧客層の取り込みも強化された。


※SEOとはSearch Engine Optimization(検索エンジン最適化)の略。
検索エンジンによる検索結果で、サイトをより上位に表示し、サイトに訪れる人を増やすための取り組みを総称してSEO対策という。

一方、2017年当時、新規製品や用途開発を担当していた山下は、サステイナビリティの観点から、プラスチックを紙素材で代替する案件を多く手掛けるようになった。「高まる環境対応ニーズに応えることはもちろん必要ですが、そもそも日本紙パルプ商事は、自ら主体的に環境配慮型製品を広く伝えていく使命を持っています(山下)」。そんな日本紙パルプ商事だからこそ、環境配慮型製品をビジネスとして、さらに周知・販売するために、ECサイトのチャネルを増設することを決めた。

こうして、2018年末、サステイナブルソリューショングループが誕生する。そして、今までよりもダイレクトにニーズを掘り起こし、広く環境配慮型製品をアピールするために、2019年9月、P&Greenが立ち上がった。

専門商社ならではの高い専門性と
きめ細かい対応

2つのサイトが提供している価値とは何か。

P&Goodsを訪れたユーザーは、豊富なラインナップの中から、紙を始めとするメディアはもちろん、インク、トナー、家庭紙、オフィス用品までをP&Goodsから一括して発注できる。プリントメディアが多様化する昨今、複数の異なる業者に発注しなければならないケースも増えており、当サイトのユーザーの利便性は高い。

「紙専門商社のECサイトだけあって、寸法や厚み、色味、ロットと、多様化するビジネスニーズに対応できます(床嶋)」。サイトに寄せられる問い合わせにも、ときにはサンプルを送付するなどきめ細かく応じている。

また、製紙・素材メーカーと直接取引しているからこそ、メーカーから得たフレッシュな製品情報を、ユーザーに直接届けることもできる。「直接エンドユーザーに販売でき、反応もすぐにわかるので、既存得意先より自社開発製品のネット販売の申し出を受け、一緒に紹介ページの内容を考えて掲載するなど、協業することもあります(床嶋)」。

日本紙パルプ商事から見れば、さまざまなお客様に幅広くリーチできるというメリットがあり、購入回数の多いユーザーには直接コンタクトし、訪問することもある。

丁寧な説明で一般製品との
差別化を図る

「専門商社の目で厳選した製品を、ユーザー主体で選択、判断、購入できるECサイトという場で提供していることは、P&Goodsと同じです」。P&Greenの提供価値について、山下はそう話す。日本紙パルプ商事として、さまざまなお客様にアプローチできることも同様だ。「従来の営業ルートでは届かなかった方も含めて、多くのユーザーに見ていただくことができます(山下)」。

環境配慮型製品を扱うサイトならではの価値もある。「環境配慮型製品は開発品的なものもあり、すぐに市場を獲得するのが難しい場合も多くあります。情報を広く周知していきたい製品について、『P&Greenで紹介したい』と仕入先からご依頼いただくケースも増えてきました(山下)」。

反面、環境配慮型製品を扱うからこその工夫も必要だと言う。「環境に配慮された素材や製法の製品は、単純に機能だけを比べた場合、既存製品に劣ってしまう場合もあります。だからこそ、それぞれの環境配慮型製品が埋もれないように、サイト上では、丁寧な説明を心掛けています(山下)」。

グループの枠や国境を超えた展開も見据える

P&Goodsは、最近ではメルマガ配信やブログ更新などの発信にも力を入れている。また、世の中の変化に合わせ、インクジェット用紙、レーザープリンタ用紙(コピー用紙)などの主力アイテム以外に、「測量野帳」や「和紙ぞうり」といった一般的に注目されていない製品にも焦点を当てる。

進化を続けるP&Goods。床嶋はどんな未来像を描いているのだろう。「ひとつは、日本紙パルプ商事グループ全体のEC販売、マーケティングのプラットフォームになることですね(床嶋)」。オンライン上で直接ユーザーとつながることができる価値を活かし、日本紙パルプ商事グループ全体で連携していくことをP&Goodsは目指す。

さらに、グループの枠を超えた展開も見据える。「当社と取引のある全国の卸商さんなど得意先の取扱製品も掲載することで、得意先のビジネス多様化の一助になればと思っています。そして、近い将来、海外の需要をも取り込めるような、越境ECもやってみたいですね(床嶋)」。

紙の新たな可能性を示す、その一翼を担っていきたい

一方のP&Green。環境配慮型製品を長く扱ってきた山下は、最近、ある変化を感じていると言う。「社会的に、『地球の生態系を守る』など大きなテーマだけではなく、より現実的なテーマが取り上げられることが多くなりました。多くの人が、自分自身で、できることから、環境活動に取り組むようになってきた印象を持ちます(山下)」。

そんな今だからこそ、循環可能な素材である紙は、改めて注目を集めるようになっていると、山下は言う。「もともと紙が使われていたもので、プラスチックなどに代替されてきたものはたくさんあります。それをもう一度紙に戻すことは、生産・製造のスキームを大きく変えず、コストもあまりかけずに実現可能です(山下)」。また、今まで使われなかった分野に、紙製品が使われていく機会は、今後も増えていくと予想される。「P&Greenも、新しい製品の紹介などを通じて、紙の新たな可能性を社会に示す、その一翼を担っていければと思います(山下)」。

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[掲載日] 2021年6月30日

紙流通のビジネスにあって、印刷会社、出版社、一般企業、官公庁など紙のユーザーへ、印刷用紙、板紙、情報用紙などを販売しているのが、「卸商」と呼ばれる二次卸である。
印刷会社や出版社などが扱う紙は用途や体裁がさまざまであり、日本紙パルプ商事などの代理店(一次卸)が製紙メーカーから大ロットで仕入れた荷姿のままでは、納入できないケースが多い。そこで、卸商が顧客の用途に合わせ、断裁加工、小ロットでの搬送などきめ細かいサービスを行うのだ。
都内、関東圏の卸商向けに、紙を提供しているのが卸商営業本部である。卸商部部長の古川に、紙卸売ビジネスの基本から、課題、その解決に向け日本紙パルプ商事が取り組んでいることなどを聞いた。

古川拓央
Takuo Furukawa

日本紙パルプ商事株式会社
卸商営業本部 卸商部 部長

入社数年後に卸商部に異動し、営業担当から管理職までを経験。卸商部に14年間在籍した後、当時連結子会社であった卸商へ出向、再建に携わる。帰任後は経営企画部へ。経営企画在籍中の6年間、印刷・情報用紙需要の漸減傾向は続き、「今後一番苦しくなる部門は国内卸売部門」と、ずっと古巣を気にかけてきた。2018年、卸商部の部長として営業の現場に復帰。

※ 所属・役職名は取材時時点のものです

確実に紙を流通させるため、
卸商をバックアップ

紙の代理店の機能は、何より、製紙メーカーが製造した紙を確実に流通させることにあり、そのための流通体制を構築、維持するため、代理店は、顧客である卸商をさまざまな面からサポート、バックアップしている。

もちろん日本紙パルプ商事グループも例外ではない。システム子会社であるJP情報センターを通じ、卸商の経営をサポートする紙流通に特化した基幹システムを構築、提供しているのはその一例だ。

「こうした取り組みを実現できるのも、卸商と関係の深い当社ならではでしょう」と古川は言う。卸商との歴史ある取引は、今も日本紙パルプ商事の売上の多くを支えている。携わる社員は社内でも比較的多く、きめ細かな営業活動で信頼を積み重ねている。

安定的に紙を仕入れ、供給し続ける責務

代理店は、製紙メーカーと、卸商の顧客である印刷会社や出版社をつなぐ役割も担う。「卸商と代理店の相互関係により紙の安定供給が実現するといえます」。印刷会社や出版社に対しては、製紙メーカーの生産計画や業界トレンドなどを伝え、製紙メーカーには、印刷会社や出版社の紙の使用予定や在庫状況の情報を提供する。近年多発している自然災害や突発的な事故などで紙の供給不安が起こった際には、あらゆる手段を尽くして印刷物や出版物の発行が止まらないようにする。

「やっているビジネス自体は、昔も今も大きくは変わりません」と古川。ただ、近年の少子化や電子化などの要因に加え、昨今のコロナ禍で、他の産業と同様に紙業界も苦戦を強いられている。働き方の変化や新しい生活様式により、印刷物の使われ方が変わってきている。今後は、さらなる需要の縮小も予想され、製紙メーカーのマシン停機や銘柄の統廃合が進んでいる。そのような状況でも、代理店は安定的に紙を卸商に供給する責務を負い続ける。「それを果たし、販売先を確保しなければ、私たちは生き残っていけないと思います」。

コロナ禍で顕在化した卸商の課題

紙の使われ方において多品種少ロットが主流となる中、断裁加工、配送など顧客に合わせてきめ細かい対応を行う卸商の機能は、今後も必要とされると古川は言う。

しかし、世の中全体のコストダウン要求が厳しくなる中で競争は激化し、卸商の経営環境は厳しい。また、紙流通に限った問題ではないが、日本の物流網を支えるドライバーの不足は年々深刻化する一方だ。
そこに、コロナ禍による需要の激減が重なった。「物流の課題を指摘する声は以前からありましたが、都内だけでも100社近くが競合する環境ということもあって、どの卸商も改善に向けて動き出せなかった。それが、このコロナ禍で一気に顕在化した感じです」。

また、物流の課題もさることながら、首都圏における卸商業界では、多くの会社で事業継承や事業としての収益性の低さに悩まされていた。後継者不足も加わって、事業の継承・継続を如何に進めていくか課題を抱えている。収益性の低さについては、マーケットに対してプレイヤーが多いことで競争が激化したことが原因であると考えられるが、得意先ごとの取引の採算性が把握しにくい仕組みにあったことも理由の一つだ。それは、卸商に出向し、その課題に真っ先に取り組んだ古川だからこそわかることである。

卸商の付加価値向上、物流の効率化に取り組む

「需要構造が劇的に変化している今だからこそ、新たな価値の創出や、さらなる合理化に取り組む必要があります」。急激な需要減によって、残念ながら事業継続をあきらめる卸商も少なからずあるだろうと覚悟はしている。事業統合や大幅なリストラを検討する経営者も出てくるだろう。頑張っている人が損をするような業界にしたくない。そう話す古川を始め、日本紙パルプ商事は動き出した。
これまでに、日本紙パルプ商事は、卸商が個社で行っていた物流、保管、断裁加工などを共同で行う「JP共同物流」を立ち上げ、物流サービスを担うグループ会社のJPロジネットとともに、卸商の業務効率化をサポートしてきた。最近は、さらなる合理化を進める手段を、JP情報センターとともに情報技術の観点から模索している。また、卸商とは、紙の付加価値を向上させる方法をともに探ると同時に、卸商の持つ物流、保管、断裁加工機能の価値を、卸商自身が見直すことを話し合う。「卸商の経営者の皆さまには、『あらためて紙を丁寧に売っていきませんか』と声をかけています」。卸商の機能や内情を知る古川だからこそ、卸商各社の企業体質の強化を目指し発信するのは自分の使命だと強く感じている。

「Paper, and beyondとなる武器」を提供し、顧客をサポート

別の取り組みも加速させようとしている。卸商に、厳しいビジネス状況の突破口となる「Paper, and beyondとなる武器」、即ち紙以外の商品も提案するというものだ。

例えば、官庁の事務処理作業を自動化するパッケージソフト。あるいは、減プラ・脱プラに貢献する素材でつくられた食品・化粧品トレー。そして、印刷工場や倉庫の水銀灯に替わる無電極ランプなどなど。日本紙パルプ商事グループの総合力を活かし、国内外の商材やサービスを幅広く提供する。紙にこだわることなく、卸商のビジネスを拡大させる可能性のあるものなら何でもありだ。

「私たちは、以前から先輩に『紙じゃないことでも、困ったときに最初に声をかけてもらえる人になれ』と言われてきました。当社には、それにお応えするだけの事業の幅と奥深さがあります」。

厳しい状況は続く。「お取引先様に『大変ですね』と声をかけるより、何か新しい提案をし続けることが大事だと思っています」。古川が再び卸商部に戻ったのは2018年。その矢先のコロナ禍。未曽有の状況に、最初は頭を抱えたと言う。「けれど最近では、この局面、この立場で卸商部に戻ったのは運命だと思うようにしています」。だって、これを乗り切ったら、きっといい業界に変わっていますよと笑う古川。最近、少しずつだが、前向きな自分に気づき始めた。

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[掲載日] 2021年1月4日