2024年1月1日 -- 石川県の能登半島を大地震が襲った。断水や停電などライフラインへの影響が続く中、日本紙パルプ商事のグループ会社で家庭紙・衛生用品等を販売する「JPホームサプライ株式会社」は、同社が保有するデモ用の「トイレトレーラー」を輪島市へ派遣し、併せて飲料水とトイレットロールを届けた。トイレトレーラーとは、災害時の利用を想定して企画・設計された移動設置型水洗トイレだ。JPホームサプライは、トイレトレーラー販売を社会課題の解決につながる事業の一つとして位置付け、全国への普及に向けて取り組んでいる。

長谷川 勝正
Katsumasa Hasegawa

JPホームサプライ株式会社
営業本部 グループマネージャー

※ 所属・役職名は取材時時点のものです

商品開発力をグループ内のシナジーで高め、社会課題の解決を目指す

JPホームサプライは、1985年に日本紙パルプ商事の一部門であった家庭紙の販売事業部門から独立した会社だ。JPホームサプライの特長の一つに、高い商品企画力がある。資源環境に配慮した芯のないトイレットペーパー「ノーコア」の開発で特許を取得して以来、環境に優しい紙製猫砂など家庭紙の枠にとらわれない独自の商品を企画し、その販売を展開している。同じく日本紙パルプ商事グループの一員である再生トイレットペーパーのメーカー「コアレックスグループ(関連記事:地域資源を生かした循環型社会の構築を目指し、共に歩む )」とタッグを組み、商品化したケースもある。

JPホームサプライの活動は、家庭紙関連にとどまらない。人々の暮らしに寄り添うため 、「いつも(日常)」と「もしも(災害時)」の両面において社会課題に対応した事業を行っている。例えば日常面では、化学物質過敏症や香害に悩む人々を支援する「化学物質過敏症支援センター」の活動をサポートするほか、病気や災害などで親を亡くした子どもたちや障がいなどで親が十分に働けない家庭の子どもたちを奨学金・教育支援・心のケアといった三本柱で支える「あしなが育英会」も支援している。そして災害発生時には、JPホームサプライが自社で保有するトイレトレーラーを「災害から命を守り、命をつなぐネットワークの移動式トイレ」として役立てるべく、被災地に派遣している。「震災トイレネットワーク」を構築して自治体が保有するトイレトレーラーの被災地派遣を支えることに加え、「備蓄用トイレットペーパー」の普及活動なども積極的に推進している。

「快適トイレ」として認定されたトイレトレーラー

トイレトレーラー事業は、グループ内の米国事業拠点から日本紙パルプ商事を通じJPホームサプライへ紹介があったことに端を発する。家庭紙関連の事業にJPホームサプライが深く携わっていたため、取り扱いが始まったという経緯だ。2016年に発生した熊本地震では、トイレが使えず困っている人々を支援すべく、同社はトイレトレーラーを現地へ派遣した。

トイレトレーラーは可動式である点が最大の特徴だ。けん引車によって移動させ、現場に着いてから約10分で使用できる。1台に標準で4つの個室を確保し、温水洗浄便座 や便座暖房が付いているものもある。車体上部に設置されたソーラーパネルから内蔵バッテリーに充電可能となっていることから夜も明るく、安心して利用できる。従来の仮設トイレにありがちなマイナスイメージが払拭されたというユーザーの声などが評価され、国土交通省から「快適トイレ」として認められた。

能登半島地震を受け、JPホームサプライは1月8日にトイレトレーラーを現地へ派遣したが、そこに同行したのが同社の長谷川だ。長谷川は2022年にJPホームサプライへ出向となり現在に至るが、同社に異動するまでトイレトレーラーの存在を知らなかったという。JPホームサプライは自治体向けにトイレトレーラーの販売を展開しているが、これまで民間企業との取引しか経験がなかった長谷川にとって、自治体との契約にまつわるさまざまな手続きに慣れる必要があった。無事に契約を結んでからもラッピングデザインの選定や車庫証明等登録の手続きなど、付帯業務がある。トイレトレーラー販売における一連の流れを一年かけて理解し、ペースをつかみかけたところで、能登半島地震が起きた。

トイレトレーラーの普及が、社会課題を解決する

能登半島地震を受けて各自治体が連携し、被災地へと向けて各地からトイレトレーラーは派遣された。同社保有のトイレトレーラーが最初に向かったのは、輪島市。長谷川も使用方法を説明するために、トイレトレーラーを追う形で一人現地入りすることになった。道路に亀裂や陥没があるため迂回を余儀なくされ、カーナビは全く通用しないという状況の中、案内標識を頼りにやっとのことで指定された避難所までたどり着いたが、既に設置されていた仮設トイレはほとんど和式で、「狭い」「暗い」「汚い」「臭い」という過酷な状態だった。トイレを我慢することで体調を崩して病気になり、ひいては災害関連死を招くおそれがあるだけに、トイレトレーラーが到着した際は被災者や支援者などに大変喜ばれたという。「それまで私は、マラソン大会などのイベントでトイレトレーラーを使った方々から『広い』『明るい』『キレイ』『臭くない』というたくさんの喜びの声を聞いていましたが、それ以上にトイレ問題は人命にまで直結することを強く実感しました。災害時のトイレ問題という社会課題の解決にトイレトレーラーが実際に役立つ姿を目の当たりにしたのは、これが初めてでした(長谷川)」。さらに、トイレトレーラーの個室は広い作りとなっていることから、介助を必要とする子どもやお年寄りでも安心して利用できることを長谷川は再認識した。

  • 能登半島地震に伴い、トレーラーに給水する自衛隊員

能登半島地震の被災地支援として、長谷川は3度足を運んだ。最初に輪島市に向かうことが決まった際は不安で眠れないこともあったと長谷川は語るが、その後に派遣が決定した七尾市や珠洲市へは、自らの意志で赴いた。「向かうたび『無事にお届けする!』という意識が強まりました。そして、現地でトイレトレーラーを待っていた皆さんの明るい笑顔に元気をいただくとともに、こちらが励まされる気持ちになりました。被災されたにもかかわらず、自らボランティアとして同じ地区の住人を世話する方々も見受けられ、そうした姿には本当に頭が下がりました(長谷川)」

七尾市へは、埼玉県朝霞市からトイレトレーラーが派遣された。朝霞市のトイレトレーラーは市内企業の「株式会社丸沼倉庫」が所有し、協定により朝霞市が運用している。朝霞市はこれまで、防災フェアなどの各種イベントでトイレトレーラーを展示することで非常時の備えについて啓発してきたが、今回初めてトイレトレーラーを被災地へ送り出すことになった。朝霞市危機管理室 副審議監兼危機管理室長 の小野澤氏はこう語る。「長谷川様から現地でトイレトレーラーの使用方法についてわかりやすいご説明をいただくことができたため、スムーズに対応することができました。実際に使用された方々からも好評で、『ありがとう』とおっしゃっていただいた時にトイレトレーラーを派遣して本当に良かったと感じました(小野澤)」

約3万人が身を寄せる能登地域の各避難所には、JPホームサプライを通じて各自治体に納入されたトイレトレーラーが全国各地から続々と派遣され、2月8日時点で計26台が支援に活用されている。こうしたことも、長谷川の意識に変化をもたらした。「私はこれまで、トイレトレーラーを滞りなく納車できた時に大きな達成感を得ていました。しかし、今回の被災地派遣を経験し、実際に皆さんのお役に立てたことを何よりのやりがいとして感じています(長谷川)」

  • 災害派遣出発式の様子。長谷川は右から2人目

経済価値と社会価値をともに実現するために

“災害時のトイレ” としてトイレトレーラーの認知度がさらに高まっていることも、長谷川は実感している。「問い合わせが増えつつあることを受け、年内にできるだけ多くの地域に届けたいという思いが強まりました。これまでは市町村単位での導入が中心でしたが、今後は、国・県レベルでの導入に期待しています(長谷川)」。JPホームサプライが目指すのは単に台数を増やし、全国に普及させるだけではない。トイレトレーラーを適時・適切な場所に派遣し、滞りなく運用させるスキームを構築することを視野に入れている。それには、自治体や諸団体との密な連携が欠かせない。また、台数が増えていけば当然、その分のメンテナンスも必要となる。点検や車検、整備などを全国でカバーできる体制づくりも整えていく方針だ。

トイレトレーラー事業に関連する自治体職員とのやり取りを通じ、長谷川は良い刺激を受けているようだ。「自助・共助を真剣に考える職員の皆さまとの会話を通して、トイレトレーラー事業こそ地域の自助・共助を支え、地域社会に貢献するビジネスであることを強く感じています。そして、JPホームサプライが注力するサステナビリティへの取り組みは、日本紙パルプ商事グループ全体としての活動につながるものと理解しています(長谷川)」。日本紙パルプ商事グループは経済価値と社会価値をともに両立し、持続可能な事業活動の実現に重大な影響を与える社内外の要因として12項目のマテリアリティを特定しているが、その中の一つ「地域社会」とトイレトレーラー事業はまさに合致している。

JPホームサプライは、トイレトレーラーの意匠権を取得していることから主導的地位にある。だが、本事業を拡大していく上で、競合が出てくるのは必至だ。その際に「選ばれる企業」となるためには、社会課題にも呼応している企業であることがより一層求められる。長谷川は熱を秘めながら締めくくった。「だからこそ、この事業の意義は大きく、社会に対してさらにアピールできればと考えています(長谷川)」

OVOL Insightの情報は、掲載日現在の情報です。
予告なしに変更される可能性もありますのであらかじめご了承ください。
[掲載日] 2024年5月29日

日本紙パルプ商事グループはグループ内の高い技術力を支えに、社会課題の解決に取り組んでいる。まず特筆すべきは、コアレックスグループが有する古紙処理技術だ。再生紙の原料としては利用することが難しいとされていた難再生古紙(※1)からパルプ繊維を取り出し、トイレットペーパーやティシューペーパーを製造している。この古紙処理技術は国内のさまざまな企業や行政機関においても注目を集めている。

            

コアレックスグループは独自の技術を生かし、資源循環に貢献してきた。その一例として、同社グループの一つで静岡県富士市に本社を構える「コアレックス信栄株式会社」がある。Jリーグクラブチーム「清水エスパルス」を運営する「株式会社エスパルス」と足並みをそろえ、地域資源を生かした循環型社会の構築を目指し共に歩む姿を紹介する。

            (※1) アルミ付き紙パックや、フィルムなどが貼合されている紙、複写伝票、汚れた食品容器など
            

鈴木 秀章
Hideaki Suzuki

コアレックス信栄株式会社
静岡本社 営業部

若杉 亮介
Ryosuke Wakasugi

株式会社エスパルス
事業本部 教育事業部

波多野 響子
Kyoko Hatano

株式会社エスパルス
事業本部 教育事業部

※ 所属・役職名は取材時時点のものです

紙づくりが環境保全活動を支え、ひいては社会貢献活動につながっていく

半世紀以上の歴史を持つコアレックスグループだが、再生紙メーカーとしては後発の部類に入り、古紙回収事業においても古紙の調達が難しいことから回収する古紙の品目を広げてきた歴史がある。そこで生まれたのが、焼却処理されてしまっていた紙資源をリサイクルするという発想である。それが結果的に、高度な技術革新をもたらした。以来、コアレックスグループは「緑の地球を子どもたちへ」を永遠のテーマに、紙の再生技術で真に社会から必要とされる企業を目指し、挑戦し続けている。

2023年7月には、従来のオンラインストアを一新。背景の一つに、一般顧客の動きの変化がある。オンラインストアからの注文を踏まえ在庫管理や製品発送などを行っていたコアレックス信栄の鈴木も、その変化を感じていた。「コロナ禍を機に生活スタイルが変わり、Webサイトからトイレットペーパーなどを購入する層が増えてきました。より快適にオンラインショッピングをご利用いただきたいという当社グループの思いも、サイトの一新を後押ししました(鈴木)」。オンラインストアで取り扱うのは、古紙100%のトイレットペーパー。人にも地球にもやさしい紙づくりが、森林保全や環境負荷低減の実現に寄与する。そして、自社で培った環境保護の意識を地域にも広げていくことを、コアレックスグループは社会貢献活動の一環として位置付けている。

エスパルスとの協業もさらに強化

鈴木は現在、エスパルスとの協業に関連したプロジェクトに携わっている。エスパルスは2007年に「地球にやさしいサッカークラブであるために。次世代に快適にサッカーのできる環境を引き継いでいくために。」をコンセプトに掲げ、以来「エスパルス エコチャレンジ」を継続的に実施してきた。近年はパートナー企業等との協働でゼロカーボン推進に拍車を掛け、さらにはサポーターや地域住民を巻き込んで行動変容を促している。

その一例が、清水エスパルスの本拠地「IAIスタジアム日本平(以下「アイスタ」)」から出た使用済み紙コップを再資源化し、トイレットペーパーとしてアイスタに戻す取り組みだ。エスパルスが2021年にコアレックス信栄とクラブパートナー契約を結んで以降、この動きはさらに加速している。
「アイスタで回収する紙コップの重量は、2021シーズンが130kg、2022シーズンが400kg、2023シーズン(9/11現在)には500kgと、右肩上がりで推移しています。新型コロナウイルス感染症対策に基づく行動制限があった時と比較して入場者数が増えていることも一因ですが、取り組み続けてきたことで、リサイクルの意識がサポーターの皆さまへ浸透している表れと捉えています(鈴木)」。

サポーターや地域住民と共に、
環境問題に取り組む

コアレックス信栄は近年、外部との協業を一段と強化させ、環境負荷低減に向けた取り組みの輪をより一層広げている。エスパルスとも、アイスタでの回収活動とは別の形で紙資源のリサイクルをさらに拡大させていく意向があった。その思いを具体化させるため、エコチャレンジの一環として2023年4月から開始したプロジェクトが「SDGs環境教育プログラム『雑紙を集めてトイレットペーパーにリサイクル!』」である。エスパルスが運営するフットサル施設「エスパルスドリームフィールド(以下「SDF」)」において、従来はごみとして焼却していた難再生古紙すなわち「雑がみ」(※2)の回収が新たに始まった。

静岡県内に5カ所(駿東・富士・清水・静岡・藤枝)あるSDFで回収された雑がみは、8,210kg(2023年4~7月末現在)。これらをすべて焼却処分した場合、約10,410kgのCO2が排出される。しかし、これらをすべて溶解しトイレットペーパーにリサイクルした場合、CO2の排出量は約4,014kgとなる。SDFに通う子どもたちとその家族、SDFのスタッフなど、各家庭で雑がみを分別し回収に協力した成果として、約6,396kgのCO2削減につながる(※3)(算出根拠は左図参照)。この削減量は、自動車で北海道から鹿児島を8往復するCO2排出量と同程度となる。

(※2) 一般的に回収されている新聞・雑誌・段ボール・牛乳パックなど以外の、日常生活で使用されるほとんどの紙(使用済みティッシュペーパーやあぶらとり紙など、汚れの付いた紙は除く)

(※3) 紙パックを例として試算(出典:環境省請負調査「平成16年度 容器包装ライフ・サイクル・アセスメントに係る調査事業 報告書」)
            

日を追うごとに回収重量は増加し、その回収物に雑がみが含まれて出されることも多くなった。要因の一つとして、子どもたちが楽しく参加できることが挙げられる。SDFの5カ所で回収量を競うスタイルを採用した他、エスパルスの公式サイトなどを通じて定期的に回収量を報告するなど、参加者の競争心や開催拠点ごとの一体感を高めた結果だ。また、年長児および小学1・2年生の親子を対象としたイベント「ゼロカーボンサッカークリニック」を企画。どのようなものが紙資源としてリサイクルできるかといったクイズなどを通して、低年齢層の子どもでもリサイクルの一端を楽しく学べる場とした。

上記のようなエンターテインメント性を加味したことで、紙資源リサイクルに対する意識付けがうまく機能しているとエスパルスの若杉は語る。ゲーム感覚で始めた雑がみ回収が生活の一部として取り込まれ、雑がみの分別・回収が当たり前になっている家庭が加速度的に増えているという。
「コアレックス信栄様とは、企画から実施に向けて入念な打ち合わせなどを何度も重ねてきました。当初は紙が集まるだろうかという不安があったものの、回収開始からすぐに解消されました。雑がみを各拠点に持って来てくださるリピーターの方々は今、着実に増えています。鈴木さんたちの熱意と行動力がこの企画に参加してくださる皆さんの意識を変え、ゼロからスタートした雑がみ回収の存在を定着させていると言っても過言ではありません(若杉)」。

  • ゼロカーボンサッカークリニック

  • ダンススクール生によるパフォーマンス

コアレックス信栄とエスパルスとの連携はさらに深まっている。
コアレックス信栄が地域住民向けに開催してきた「展示即売・古紙交換会」に設けられたステージで、「エスパルス ダンススクール」は継続してパフォーマンスを披露してきた。「エスパルス ダンススクール」とは、4・5歳の「Kidsクラス」からエスパルスオフィシャルチアリーダー「オレンジウェーブ」の一員を目指す「選抜クラス」まで、各レベルに応じ「ダンスで笑顔に」をモットーにレッスンを行うスペースだ。
2023年9月、コアレックス信栄は「エスパルス ダンススクール まなび支援パートナー」として契約を締結した。
本事業を担当するエスパルスの波多野は、ダンススクールの教育的側面を強調する。単にダンス技術の向上を図るだけでなく、リーダーシップや協調性を身に付け、大勢を前にしても輝くことのできる人材育成が目標だと語る。

「イベントの主旨を理解し、自ら積極的にステージ上から古紙交換や雑がみ回収を呼び掛けるスクール生の姿をコアレックス信栄の方がご覧になり、『ぜひ一緒に紙資源の回収に取り組んでいきましょう』とのお声をいただき、まなび支援パートナー契約がかないました(波多野)」。
こうして新たに加わったパートナーを、コアレックス信栄の鈴木は心強い存在と捉えている。「弊社はあくまで紙資源のリサイクルを行う企業です。ですから、エスパルス様のサッカーとダンスで “魅せる” 力、言い換えるとエスパルス様の高い発信力をお借りし、サポーターや地域住民の皆さまに楽しく、身近なところからできるリサイクルについて知っていただけるのは、ありがたい限りです。スクール生の皆さんには引き続き雑がみ回収にご協力いただくと同時に、地域住民の皆さまや子どもたちへもさらに環境関連の意識啓発ができたらと考えています(鈴木)」

「地球のため」という共通の目的を持ち、共に歩む

エスパルスとの協業による雑がみ回収は、意識を少し変えるだけで誰にでも取り組むことのできるSDGs活動の一例だ。2023年4月から始まった「雑紙を集めてトイレットペーパーにリサイクル!」で周知を図った結果、人々の行動変容を促すことにつながった。「適切な紙資源の分別について皆さんにご理解いただく機会があれば、その後は無理なく続けてもらえることをエスパルス様との取り組みを通して実感しました。この成果を土台に、他の企業や団体との協業にも生かしていけたらと思います(鈴木)」。

もちろんエスパルスとしても、リサイクルの輪がより一層広がることを願っている。「SDGsやCSRにまつわる活動に高い関心は持ちつつも『何から始めたらよいか分からない』とお悩みの企業や団体は少なくないと聞きます。弊社とお付き合いのある企業や団体様へ個別に声掛けを行う中、興味を示していただくところが増えつつあると感じます。この流れが続けば、サポーターや地域住民、スクール生以外のところでも、紙資源のリサイクル活動の輪がさらに拡大し、充実するでしょう。雑がみ回収を一つのきっかけとして、地域社会へ貢献できることは今後もたくさんあると思います(若杉)」

「地球のため」という同じ目的を持ち、「地域資源を生かした循環型社会の構築」という一つのゴールを目指して、両社は共に歩み続ける。

OVOL Insightの情報は、掲載日現在の情報です。
予告なしに変更される可能性もありますのであらかじめご了承ください。
[掲載日] 2023年11月15日

日本紙パルプ商事グループでは、社員一人ひとりが当事者意識を持ち、社会課題の解決にグループ一丸となって取り組むとともに、紙の限りない可能性を追求し、新たな価値の創出に挑戦する姿勢で日々の業務に携わっている。

関西支社 機能材部 紙製品課に所属する井上と小山は、日々の営業活動の中で、紙を原料とした機能的な素材「紙糸」と出会い、大いなる可能性を見出した。画期的な世界初の紙糸量産装置(特許6822708号)を開発したITOI生活文化研究所と日本紙パルプ商事の協働によって、今後どのようなイノベーションを起こしていけるのか。紙糸の将来性に着目すると同時に、日本を代表する和紙布研究家である同研究所 糸井代表が仕掛ける「和紙布」によるプロダクトが新たな価値を創造し、社会に変革をもたらすことに期待を寄せている。

井上 智一
Tomokazu Inoue

日本紙パルプ商事株式会社
関西⽀社 機能材部 紙製品課 課⻑

小山 貴広
Takahiro Koyama

日本紙パルプ商事株式会社
関西⽀社 機能材部 紙製品課

糸井 徹
Toru Itoi

株式会社ITOI生活文化研究所
代表取締役

※ 所属・役職名は取材時時点のものです

日本紙パルプ商事の中で唯一「紙製品」の名が付く課

井上と小山が所属している「紙製品課」は、日本紙パルプ商事の中で唯一「紙製品」の名が付いている課である。大阪にはノートや封筒などの「紙」でできている製品にまつわる顧客が多いことの表れだ。最終製品が多種多様であるため、顧客の要望も多岐にわたり、営業部署の中でも特にバラエティに富んだ商材を取り扱う。そのラインアップは幅広く、出版物などの用途で使用される印刷用紙や、オフィスで消費されるノーカーボン紙・コピー用紙などの情報用紙に加え、パッケージに用いられる紙器箱・弁当容器等の耐油耐水紙や段ボール原紙、さらにはノートや封筒などの紙製品用の原紙などが含まれる。また、紙以外にも樹脂やフィルムといった化成品関係や電力なども販売している。

さらに、紙に対するニーズも細分化されており、顧客それぞれの製品に合わせた紙を用意するため、個別の注文に応じて紙を抄(す)く「別注品」の取り扱いが多いことも特徴のひとつだ。「別注品」は、メーカーや当社が常に在庫しているような幅広いユーザー向けの一般的な紙とは異なり、代替品で対応することが難しいため、メーカーへの発注や在庫管理など常に細部にわたる気配りが欠かせない。また、前述のように一つの課で扱うにはかなり幅広いアイテムがあることから、「紙のプロフェッショナル」として取引先に認められるため、各商品知識に精通し、幅広い情報を常にアップデートしていくことが求められる。

2000年以降での紙製品課を取り巻く社会の動きとしては、インターネットによるオフィス用品の法人向け通販事業が普及したことなどが影響し、廃業を余儀なくされる取引先もあった。近年では、新型コロナウイルス感染症対策から学校が軒並み休校したり、企業でのテレワークも進んだことなどが、ノートやコピー用紙等の紙製品の需要減に拍車を掛けている。コロナ禍が終息したとしても、児童・生徒の減少(少子化)とペーパーレスの浸透(デジタル化)を背景に、紙製品市場は長期にわたって縮小していくというのが業界の一般的な予想だ。

紙糸の魅力を知り、手応えをつかむ

紙製品課も逆風にさらされる中、あるとき井上と小山は取引先から「紙糸」について問い合わせを受ける。これまで数多くの紙製品を取り扱ってきた百戦錬磨の二人でさえも初めて耳にする商材だったが、社内で情報収集したところ、薄い紙が紙糸の材料になるという紙糸の仕組みを学ぶとともに、紙糸原紙をつくる製紙メーカーの存在を知った。「紙糸原紙は10g/㎡台ほどの米坪(※)の紙です。これほど薄い紙は扱ったことがなく、率直に言って戸惑いました。薄い紙がどうやって紙糸になるのか? その後、どうやって布になるのか? と(井上)」。数々の疑問が湧いたが、一つ一つ製紙メーカーに尋ねながら、少しずつ理解を深めていった。


※1平方メートルあたりの紙1枚の重量のこと。重量単位にはgを用い、g/㎡で表す。同じ銘柄の紙の場合、米坪が小さくなるほど薄い紙といえる。
関連リンク:OVOL LOOP「紙の単位(坪量、連、連量)」

結果として、取引先からの要望に応えることができ、現在も商品開発に向けての取り組みを進めている。一方、継続的に紙糸原紙をつくる製紙メーカーとやりとりを重ねるうち、当社と「ぜひ一緒に取り組んでいきたい得意先がある」として新たに紹介を受けたのが、ITOI生活文化研究所だった。早速二人は、同研究所で代表を務める糸井氏の自宅兼事務所へ足を運ぶ。糸井代表が最初に口にしたのは、和紙の糸でできた靴下の話だった。「サンプルをいただき、実際に履いてみたところその心地よさに驚きました。まさに『快適』の一言に尽きるのですが、私自身の肌感覚と、和紙が持つ『多孔質』という性質ゆえにサラサラの状態が保たれるというエビデンスが矛盾なく合致したのです(小山)」。紙業界に落ちる影とは対照的な光が、そこにはあった。この先を照らすような手応えを感じた、井上と小山は語る。

紙糸を含む紙文化の盛り立て役として、
日本紙パルプ商事がある

いわゆる伝統工芸としての切り口から語られることの多かった紙糸が、工業製品として消費者にとって身近なものへと変わろうとしている。チャンスは着実に生かしたいところだ。「ここ1年でも、紙糸を用いた新商品の記事などを目にする機会が増えました。ポテンシャルが高い商材ですので、今後ますます伸びていくとみています。需要の増加が確実となれば、それに対応できる生産体制の強化が急務となるでしょう(井上)」。特筆すべきはITOI生活文化研究所が開発し、特許を得た「Direct Washi」という紙糸を量産する装置だ。一般に紙糸は独特の硬さを持つことで知られているが、同装置が生み出す紙糸には、軟らかさのほか「伸び」がある。また、手すきの原理を生かした機械すき和紙の原紙をスリットしながらダイレクトに撚糸(ねんし)機へと運ぶこの装置は、紙糸の量産化を可能にしている。「この装置が普及すれば、さらに多くの和紙布製品が流通するでしょう。和紙布はまさに、日本紙パルプ商事が今後手掛けていくべき商材です。当社の役割は紙糸原紙を仕入れてITOI生活文化研究所様に卸すことですが、今後はそれだけにとどまらずITOI様と一体となり、紙糸の良さを世の中に広める取り組みを進めていきたいと考えています(井上)」。

Direct Washiの開発に携わった糸井代表は、同装置による量産化を「和紙糸紡績の幕開け」と表現し、小山も同様に大きな期待を寄せている。「紙には『伝える』『包む』『拭く』という役割がありますが、そこに人の生活と密接に関わる『着る』という役割が新たに定着すれば、糸井代表が望んでおられる産業構造の変革も夢ではないと感じています(小山)」

糸井代表の熱量と和紙布の魅力に感化されたという井上と小山は、「我々こそ、紙糸を含む紙文化の盛り立て役にふさわしい」と語る。その理由は、日本紙パルプ商事が有する知見だ。紙に関する知識は当然のことながら、紙業界の商習慣や動向、人脈に関する情報など、そこには紙の価値と可能性を追求し続けてきた先人たちの努力と、一つ一つ誠実に取り組まれてきた数々の結果が反映されている。「当社の知見は紙業界一であるという自負があります。誇れる紙文化を次世代へつないでいくことこそ、われわれの使命(紙命)です(小山)」

紙製品課という名を、これからも引き継ぐために

ITOI生活文化研究所が手掛けた和紙布のアイテムはすでに数多く市場で展開されており、新たにデニム向けの用途開発も進められている。さらには、アパレルの垣根を越えた高い汎用性も期待されているという。「市場を開拓していく担い手として当社が動いています。これからも引き続き、紙に関する最先端の情報をITOI生活文化研究所様へ共有させていただく所存です。また、糸井代表は2025年の大阪万博で和紙布の魅力を世界に向けて発信するというビジョンを描いています。その実現に向け、当社としてもお手伝いができればと考えています(小山)」。

紙糸は21世紀における紙製品課の名にふさわしい素材だと、井上と小山は口をそろえる。「紙糸が紙製品課の新たな柱となる」そんな未来図を井上と小山は描き、紙糸による新たな価値の創出に挑戦している。とりわけ井上には、紙製品課という名を後世に残す責務がある。「時代の変遷とともにさまざまな部署名も変わってきているが、関西支社の『紙製品課』という名は先々に残したい」。井上が紙製品課に着任した際、かつての上司が吐露した言葉だ。「日本紙パルプ商事の長い歴史の中で残り続けた紙製品課という名は、これからも引き継がなければと思っています(井上)」。紙糸を軸に、課名の存続を守る――こうした志こそ、持続可能な社会を支えていくのかもしれない。

OVOL Insightの情報は、掲載日現在の情報です。
予告なしに変更される可能性もありますのであらかじめご了承ください。
[掲載日] 2022年11月28日

出版物の発行、学習塾などの教育サービス、保育用品などの製作販売を行っている学研グループ。近年では、サービス付き高齢者向け住宅や認知症グループホームなどの介護施設・子育て支援施設運営にも事業領域を広げている。
その中にあって、学研プロダクツサポート(以下GPS)は「グループ各社へ良質なサービスを提供する」をミッションに、グループが扱う商品の製作マネジメント、著作権管理、経理、人事、総務、オフィス管理、情報システム、広報、法務他の業務の受託などを行っている。同社製作資材部は、用紙調達と印刷製本の進行管理が主な業務である。
このGPSに、日本紙パルプ商事は、グループの出版物、塾の教材、通販カタログなどで使用する王子製紙を筆頭とした各製紙メーカーの印刷用紙を販売している。

吉田 信一郎
Shinichiro Yoshida

日本紙パルプ商事株式会社
新聞・出版営業本部出版一部 部長

山口 敏宏
Toshihiro Yamaguchi

株式会社学研プロダクツサポート
製作資材部副部長 業務課課長

※ 所属・役職名は取材時時点のものです

実に日本紙パルプ商事らしい提案

2011年、学研グループは中期経営計画「GAKKEN2013」を打ち出した。そこには、従来の出版事業を軸としつつ、塾事業や介護事業などに経営資源を投入していくとある。「出版不況と言われる状況が続く中、出版用紙調達を主な機能とする製作資材部は危機感を持っていました(山口)」。何か新しいことをやらなければ。しかし、なかなか具体策が描けない。
日本紙パルプ商事から提案があったのはそんなときだ。王子製紙と同じグループである王子ネピアの紙おむつを、介護事業を行っている学研ココファンへ、GPS、王子ネピア、日本紙パルプ商事が一緒になって販売するというものである。

GPSにとって事業領域拡大につながることはもちろんだが、学研ココファンにとっては、王子ネピアの高品質の製品を入居者に提供することでサービス向上が実現する。王子ネピアも拡大しているサービス付き高齢者向け住宅でどのような製品、サービスが求められているか、包括的なマーケット調査や取組みが行える。「弊社としても、出版用紙以外の取引につながるメリットがありました(吉田)」。
まさに「四方よし」。製紙メーカーやユーザー企業などを結び、どの企業にもベネフィットをもたらす活動を担う、実に日本紙パルプ商事らしい提案である。

3社は「運命共同体」

しかし、すぐに事業化された訳ではなく、日本紙パルプ商事はGPSとともに方法を探り、提案し続けた。「紙おむつビジネスを知っていただくため、また、当社からのネピア製品購入の必要性を認識していただくため、王子ネピアの工場見学を実施したり、GPSの経営陣にも紙おむつを装着していただき、ご利用者の視点で製品を感じてもらいました(吉田)」。
印刷用紙の営業としては、GPSと王子ネピアを引き合わせるだけで手を引くこともできただろう。しかし、そうしなかった。「それじゃ面白くない。何より、GPSさんと一緒に始めたことですしね(吉田)」。新しい取組に前向きで、最後まで顧客に伴走する。この姿勢も、実に日本紙パルプ商事らしい。

これまで学研ココファンの介護施設で使用されるおむつは、利用者の家族が持ち込みで使用することが多く、当初、施設側は一括購入の必要性を感じていなかった。そこで、日本紙パルプ商事は、GPSや王子ネピアと日本全国の介護の現場を根気強く回り、王子ネピアの製品の品質、アフターサービスの充実などをていねいにアピールしていった。
「GPSは学研ココファンとの窓口、王子ネピアはメーカーとして情報や商品知識を提供、日本紙パルプ商事は提案の取りまとめと、一応、役割分担はあったものの、3社は『運命共同体』。一緒に営業をしていった感じです(山口)」。

成功のその先へ

2016年に15事業所、約150人への提供から始まったこの事業は、2020年1月時点では100事業所、約2,000人に製品を提供するビジネスへと成長している。
介護施設の入居者は、高品質の王子ネピア製品を使えるだけでなく、買い物に行く手間も省けるようになった。「品質がいい」「アフターサービスのスタッフ向け講習会がとても勉強になった」と介護現場の評価も高く、管理面や集中購買によるコスト削減という効果も生み出している。王子ホールディングスとしても、王子ネピアの販売増だけでなく、グループ全体の取引を拡大させることができ、より一層の関係強化が実現した。
GPSはグループへの貢献度向上が何よりの成果である。学研グループの展示会で、日本紙パルプ商事のブースを通じておむつやティッシュを展示すると、ほかの取引先に介護事業という新しい取組をアピールできた。

プロジェクトを通じて、GPSと日本紙パルプ商事の関係はより強固となった。それに伴い、日本紙パルプ商事がGPSにそれまで取引してきた印刷用紙での販売量も増加。日本紙パルプ商事は事業領域と販売量の拡大に成功した。
山口は言う。「お取引先様に日本紙パルプ商事様と今回の新規事業プロジェクトの話をすると、これまでのお取引内容を超えた新しいご提案をいただくことが多くあります」。これまでの紙業界のビジネスのやり方にも、一石を投じることになったようだ。
日本紙パルプ商事社内では成功事例として共有された。日本紙パルプ商事には、もともと新しいことを自由にやらせてみる風土がある。「刺激を受けた社員も多かったようです(吉田)」。また、新しいプロジェクトが始まるかもしれない。
山口も吉田も、そろそろ新しいことをしたいという想いを持っている。日本紙パルプ商事は、印刷用紙の供給という原点に返りつつ、新商品やPB開発などを模索している。GPSは、このプロジェクトで得たノウハウとスキームを横展開し、保育園や幼稚園など大人から子供へターゲットを広げていく予定だ。
成功のさらに先へ。GPSと日本紙パルプ商事の挑戦は続く。

お客様名
株式会社学研プロダクツサポート
本社所在地
〒141-8418 東京都品川区西五反田二丁目11番8号
ウェブサイト
https://gakken.co.jp/
※ 学研グループのウェブサイト

OVOL Insightの情報は、掲載日現在の情報です。
予告なしに変更される可能性もありますのであらかじめご了承ください。
[掲載日] 2020年6月12日