日本紙パルプ商事グループはグループ内の高い技術力を支えに、社会課題の解決に取り組んでいる。まず特筆すべきは、コアレックスグループが有する古紙処理技術だ。再生紙の原料としては利用することが難しいとされていた難再生古紙(※1)からパルプ繊維を取り出し、トイレットペーパーやティシューペーパーを製造している。この古紙処理技術は国内のさまざまな企業や行政機関においても注目を集めている。
コアレックスグループは独自の技術を生かし、資源循環に貢献してきた。その一例として、同社グループの一つで静岡県富士市に本社を構える「コアレックス信栄株式会社」がある。Jリーグクラブチーム「清水エスパルス」を運営する「株式会社エスパルス」と足並みをそろえ、地域資源を生かした循環型社会の構築を目指し共に歩む姿を紹介する。
(※1) アルミ付き紙パックや、フィルムなどが貼合されている紙、複写伝票、汚れた食品容器など
静岡本社 営業部
事業本部 教育事業部
事業本部 教育事業部
紙づくりが環境保全活動を支え、ひいては社会貢献活動につながっていく
半世紀以上の歴史を持つコアレックスグループだが、再生紙メーカーとしては後発の部類に入り、古紙回収事業においても古紙の調達が難しいことから回収する古紙の品目を広げてきた歴史がある。そこで生まれたのが、焼却処理されてしまっていた紙資源をリサイクルするという発想である。それが結果的に、高度な技術革新をもたらした。以来、コアレックスグループは「緑の地球を子どもたちへ」を永遠のテーマに、紙の再生技術で真に社会から必要とされる企業を目指し、挑戦し続けている。
2023年7月には、従来のオンラインストアを一新。背景の一つに、一般顧客の動きの変化がある。オンラインストアからの注文を踏まえ在庫管理や製品発送などを行っていたコアレックス信栄の鈴木も、その変化を感じていた。「コロナ禍を機に生活スタイルが変わり、Webサイトからトイレットペーパーなどを購入する層が増えてきました。より快適にオンラインショッピングをご利用いただきたいという当社グループの思いも、サイトの一新を後押ししました(鈴木)」。オンラインストアで取り扱うのは、古紙100%のトイレットペーパー。人にも地球にもやさしい紙づくりが、森林保全や環境負荷低減の実現に寄与する。そして、自社で培った環境保護の意識を地域にも広げていくことを、コアレックスグループは社会貢献活動の一環として位置付けている。
エスパルスとの協業もさらに強化
鈴木は現在、エスパルスとの協業に関連したプロジェクトに携わっている。エスパルスは2007年に「地球にやさしいサッカークラブであるために。次世代に快適にサッカーのできる環境を引き継いでいくために。」をコンセプトに掲げ、以来「エスパルス エコチャレンジ」を継続的に実施してきた。近年はパートナー企業等との協働でゼロカーボン推進に拍車を掛け、さらにはサポーターや地域住民を巻き込んで行動変容を促している。
その一例が、清水エスパルスの本拠地「IAIスタジアム日本平(以下「アイスタ」)」から出た使用済み紙コップを再資源化し、トイレットペーパーとしてアイスタに戻す取り組みだ。エスパルスが2021年にコアレックス信栄とクラブパートナー契約を結んで以降、この動きはさらに加速している。
「アイスタで回収する紙コップの重量は、2021シーズンが130kg、2022シーズンが400kg、2023シーズン(9/11現在)には500kgと、右肩上がりで推移しています。新型コロナウイルス感染症対策に基づく行動制限があった時と比較して入場者数が増えていることも一因ですが、取り組み続けてきたことで、リサイクルの意識がサポーターの皆さまへ浸透している表れと捉えています(鈴木)」。
サポーターや地域住民と共に、
環境問題に取り組む
コアレックス信栄は近年、外部との協業を一段と強化させ、環境負荷低減に向けた取り組みの輪をより一層広げている。エスパルスとも、アイスタでの回収活動とは別の形で紙資源のリサイクルをさらに拡大させていく意向があった。その思いを具体化させるため、エコチャレンジの一環として2023年4月から開始したプロジェクトが「SDGs環境教育プログラム『雑紙を集めてトイレットペーパーにリサイクル!』」である。エスパルスが運営するフットサル施設「エスパルスドリームフィールド(以下「SDF」)」において、従来はごみとして焼却していた難再生古紙すなわち「雑がみ」(※2)の回収が新たに始まった。
静岡県内に5カ所(駿東・富士・清水・静岡・藤枝)あるSDFで回収された雑がみは、8,210kg(2023年4~7月末現在)。これらをすべて焼却処分した場合、約10,410kgのCO2が排出される。しかし、これらをすべて溶解しトイレットペーパーにリサイクルした場合、CO2の排出量は約4,014kgとなる。SDFに通う子どもたちとその家族、SDFのスタッフなど、各家庭で雑がみを分別し回収に協力した成果として、約6,396kgのCO2削減につながる(※3)(算出根拠は左図参照)。この削減量は、自動車で北海道から鹿児島を8往復するCO2排出量と同程度となる。
(※2) 一般的に回収されている新聞・雑誌・段ボール・牛乳パックなど以外の、日常生活で使用されるほとんどの紙(使用済みティッシュペーパーやあぶらとり紙など、汚れの付いた紙は除く)
(※3) 紙パックを例として試算(出典:環境省請負調査「平成16年度 容器包装ライフ・サイクル・アセスメントに係る調査事業 報告書」)
日を追うごとに回収重量は増加し、その回収物に雑がみが含まれて出されることも多くなった。要因の一つとして、子どもたちが楽しく参加できることが挙げられる。SDFの5カ所で回収量を競うスタイルを採用した他、エスパルスの公式サイトなどを通じて定期的に回収量を報告するなど、参加者の競争心や開催拠点ごとの一体感を高めた結果だ。また、年長児および小学1・2年生の親子を対象としたイベント「ゼロカーボンサッカークリニック」を企画。どのようなものが紙資源としてリサイクルできるかといったクイズなどを通して、低年齢層の子どもでもリサイクルの一端を楽しく学べる場とした。
上記のようなエンターテインメント性を加味したことで、紙資源リサイクルに対する意識付けがうまく機能しているとエスパルスの若杉は語る。ゲーム感覚で始めた雑がみ回収が生活の一部として取り込まれ、雑がみの分別・回収が当たり前になっている家庭が加速度的に増えているという。
「コアレックス信栄様とは、企画から実施に向けて入念な打ち合わせなどを何度も重ねてきました。当初は紙が集まるだろうかという不安があったものの、回収開始からすぐに解消されました。雑がみを各拠点に持って来てくださるリピーターの方々は今、着実に増えています。鈴木さんたちの熱意と行動力がこの企画に参加してくださる皆さんの意識を変え、ゼロからスタートした雑がみ回収の存在を定着させていると言っても過言ではありません(若杉)」。
-
ゼロカーボンサッカークリニック
-
ダンススクール生によるパフォーマンス
コアレックス信栄とエスパルスとの連携はさらに深まっている。
コアレックス信栄が地域住民向けに開催してきた「展示即売・古紙交換会」に設けられたステージで、「エスパルス ダンススクール」は継続してパフォーマンスを披露してきた。「エスパルス ダンススクール」とは、4・5歳の「Kidsクラス」からエスパルスオフィシャルチアリーダー「オレンジウェーブ」の一員を目指す「選抜クラス」まで、各レベルに応じ「ダンスで笑顔に」をモットーにレッスンを行うスペースだ。
2023年9月、コアレックス信栄は「エスパルス ダンススクール まなび支援パートナー」として契約を締結した。
本事業を担当するエスパルスの波多野は、ダンススクールの教育的側面を強調する。単にダンス技術の向上を図るだけでなく、リーダーシップや協調性を身に付け、大勢を前にしても輝くことのできる人材育成が目標だと語る。
「イベントの主旨を理解し、自ら積極的にステージ上から古紙交換や雑がみ回収を呼び掛けるスクール生の姿をコアレックス信栄の方がご覧になり、『ぜひ一緒に紙資源の回収に取り組んでいきましょう』とのお声をいただき、まなび支援パートナー契約がかないました(波多野)」。
こうして新たに加わったパートナーを、コアレックス信栄の鈴木は心強い存在と捉えている。「弊社はあくまで紙資源のリサイクルを行う企業です。ですから、エスパルス様のサッカーとダンスで “魅せる” 力、言い換えるとエスパルス様の高い発信力をお借りし、サポーターや地域住民の皆さまに楽しく、身近なところからできるリサイクルについて知っていただけるのは、ありがたい限りです。スクール生の皆さんには引き続き雑がみ回収にご協力いただくと同時に、地域住民の皆さまや子どもたちへもさらに環境関連の意識啓発ができたらと考えています(鈴木)」
「地球のため」という共通の目的を持ち、共に歩む
エスパルスとの協業による雑がみ回収は、意識を少し変えるだけで誰にでも取り組むことのできるSDGs活動の一例だ。2023年4月から始まった「雑紙を集めてトイレットペーパーにリサイクル!」で周知を図った結果、人々の行動変容を促すことにつながった。「適切な紙資源の分別について皆さんにご理解いただく機会があれば、その後は無理なく続けてもらえることをエスパルス様との取り組みを通して実感しました。この成果を土台に、他の企業や団体との協業にも生かしていけたらと思います(鈴木)」。
もちろんエスパルスとしても、リサイクルの輪がより一層広がることを願っている。「SDGsやCSRにまつわる活動に高い関心は持ちつつも『何から始めたらよいか分からない』とお悩みの企業や団体は少なくないと聞きます。弊社とお付き合いのある企業や団体様へ個別に声掛けを行う中、興味を示していただくところが増えつつあると感じます。この流れが続けば、サポーターや地域住民、スクール生以外のところでも、紙資源のリサイクル活動の輪がさらに拡大し、充実するでしょう。雑がみ回収を一つのきっかけとして、地域社会へ貢献できることは今後もたくさんあると思います(若杉)」
「地球のため」という同じ目的を持ち、「地域資源を生かした循環型社会の構築」という一つのゴールを目指して、両社は共に歩み続ける。
OVOL Insightの情報は、掲載日現在の情報です。
予告なしに変更される可能性もありますのであらかじめご了承ください。
[掲載日] 2023年11月15日