ワンプレート冷凍食品、テイクアウト用のランチボックスなどで、最近見かけることが増えている、ナチュラルな風合いの「バガスパルプモウルド容器」(以下、パルプモウルド容器)。サトウキビの搾りかす(バガス)を原料とする「バガスパルプ」を成型したものだ。農業廃棄物を有効活用して製造されるアップサイクル製品であり、耐水性・耐熱性にも優れていることに加え、紙容器では難しい深い仕切りを設けた加工ができるため、プラスチック製弁当容器等の代替品として注目度が高まっている。
日本紙パルプ商事は2022年から、このパルプモウルド容器を中国から輸入し、冷凍食品容器として国内の容器メーカーに販売している。この事業を担うのは、産業資材営業本部 直需部 直需三課だ。
産業資材営業本部 直需部 直需三課 課長
産業資材営業本部 直需部 直需三課 マネージャー
パルプモウルド容器事業をきっかけに
設立された直需三課
直需三課は、ヨーグルト、アイス、冷凍弁当・惣菜、機内食など、さまざまな用途の食品容器を扱っているが、立ち上げの発端は、課長の杉村がパルプモウルド容器の取り扱いを始めたことにある。「2015年頃から、食品容器を製造・販売しているお客様が先行して取り組んでいらっしゃったんです。プラスチックの代替品としてその将来性は高いと見込んで、上層部に掛け合いました。社内承認のハードルは高かったのですが、最終的に認められ、直需三課が立ち上げられたのです(杉村)」
社内で慎重な声が多かったことには、それだけの理由がある。食品に直接触れる「口唇接触製品」であること、また、素材ではなく加工済み容器の海外輸入という商流は、日本紙パルプ商事の従来の事業からすると異例ずくめだったのだ。口唇接触製品を扱った過去事例は少なく、レピュテーションリスク、トラブル発生時の回収リスク、カントリーリスクなど、実際にさまざまなリスクが存在した。「とはいえ、業界を取り巻く環境を踏まえると、各リスクにきちんと向き合い、対策したうえで複合素材やマーケットインなど、新しいことに挑戦していく必要がありました(杉村)」
パルプモウルド容器の可能性を確信していた杉村は、リスクを一つひとつ地道に最小化し、周囲の理解を獲得していった。
サプライヤーに品質管理を徹底して求める
パルプモウルド容器は中国のサプライヤー(成型メーカー)から輸入している。食品容器に関する規制が日本とは異なるため、品質管理についての考え方の違いから、最初は衝突することもあったが、杉村は根気強く求める基準を説明し続けた。初回の訪問はコロナ禍の2022年で、中国で10日間隔離を経験したというエピソードもある。それ以降も工場に頻繁に足を運び、訪問回数は19回にのぼる。「サプライヤーは成型機を100台近く保有しているため、安定供給面での心配はほぼありません。品質についても格段に改善しており、今では同社が中国内で強みとしているほどです。また、バガスのもととなるサトウキビを生産している農家にも訪問し、収穫作業や製糖工場への輸送作業に立ち会ったこともありました(杉村)」
2022年のスタート当初は不安定だった品質も徐々に改善し、2023年下期には販売数量も増え、収益も改善していった。ビジネスが軌道に乗ったのもこの頃だ。品質管理については販売先の容器メーカーと共に取り組んでおり、当初は日本で検品を行っていたが、現在は中国内の日系企業に委託し、スピーディーな対応を実現している。最近はAIカメラを導入し、さらなる精度の向上に努めている。
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中国のサプライヤーから輸入しているパルプモウルド容器 -
直需三課ではさまざまな形状のパルプモウルド容器を取り扱う
需要拡大に向けサプライヤー開拓を継続
現在は上述の中国サプライヤーから1ヵ月に150〜200万枚のワンプレート容器を輸入し、国内の容器メーカーに販売。主に大手食品メーカーの冷凍食品容器に採用されている。ワンプレート冷凍食品は、主食・主菜・副菜から成る一食分が一つの容器に盛り付けられており、調理の時短・省力化が求められる中、今後も大きな伸びが予想されている。パルプモウルド容器は、専用の型に原料を流し込んで成形するので、深みを持たせることも、仕切りをつけることも可能。電子レンジ加熱、冷凍保存にも対応していることに加え、廃棄も容易なため、ワンプレート冷凍食品との親和性は、非常に高い。
直需三課では、需要の拡大を見込み、サプライヤーの開拓を継続している。現在のサプライヤーとは良好な協業関係を築いているが、1国・1社に依存するのは、やはりリスクが高いためだ。「韓国とベトナムを中心に探しています。安定供給、安定品質、安定価格の3点を満たすことが条件です。韓国は品質と供給は問題ないのですが、コストが折り合わず、ベトナムはコスト面の魅力はあっても、品質と供給に課題があります。このギャップを埋めていくことが、これからの課題です(杉村)」
幅広いフードサービス事業者への供給拡張を目指す
同時に、冷凍食品メーカーへの拡販など、販売先の拡大にも積極的に取り組んでいる。ワンプレート市場は、家庭用だけでなく、業務用でも需要が伸びていくと見ている。「宅配、社内置配、介護食などのニーズが今後さらに拡大すると考えられるので、どんどん仕掛けていきたい」と、2025年から直需三課に加わり、拡販に取り組む中井も意欲を示す。
採用の妨げになっていたプラスチックとのコスト差も急速に縮小している。スタート時こそ、コストはプラスチックの約3倍だったものの、不良品発生率の低減等に取り組み、最近ではコスト差は1.5倍から2倍程度に抑えられている。足元の経済環境の悪化で、環境よりもコストを優先する企業もあるが、環境対応に積極的な企業、ブランドイメージを重視する企業は好意的だ。同様に、環境意識の高い消費者、パルプモウルド容器を「かっこいい」「風合いがいい」と捉える消費者の支持も後押しになる。
さらに、バガスパルプは、食品容器以外でも、PPWR(包装・包装廃棄物規制)が施行されるEU向けの梱包資材の原料としてのポテンシャルもある。
将来的には、国産パルプモウルド容器の開発・導入も視野に入れている。「国内生産、使用済み容器の回収、リサイクルなどを推進して、循環型のビジネスモデルが確立できれば、究極のエコ素材となり得ます(中井)」
挑戦で得られた知見を社内に蓄積
パルプモウルド容器という新しい製品に挑戦したことの意義は非常に大きい。加工済み製品を輸入・販売するという点では、原料、成型方法、生産工程などをメーカー並みに把握する必要があった。だが、こういった試行錯誤から得られた知見は直需三課のみならず、日本紙パルプ商事全体にとっても貴重な財産となり、事業領域を伸ばすことにつながった。
また、新たな事業に挑戦する姿勢を示す実例にもなった。中井は直需三課への異動の理由を「杉村課長が既存のビジネスの枠を超えて、新規事業に挑戦していることに、会社の将来、そして自分の進路の希望を見出して、自ら異動を希望しました」と語る。
日本紙パルプ商事にはその土壌があるということだ。
「グローバルな調達・情報ネットワークがあること、既存ビジネスが堅固なことは、この会社の強み。こういったところを活かして、特に若い人にはどんどん新しいことにチャレンジしてもらいたい(杉村)」
さらに杉村は、多様な人材が活躍できる機会があることにも触れた。 「これまでは売ることに注力していたが、今後はどういうものを作ればいいかを考えられる人、企画力や商品開発力がある人も必要です(杉村)」日本紙パルプ商事にとって、直需三課と同課が手掛けるパルプモウルド容器事業は、新分野を切り拓くモデル事例になるだろう。
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[掲載日] 2026年7月22日







