銀行の帳簿用に開発された「バンクペーパー」という紙がある。
さらさらとした心地よい書き味で保存性にも優れ、裏移りもない。
そのバンクペーパーを中紙にしたノートが、「日本の粋を集めた」存在として海外で注目されている。
バンクペーパーの誕生は1960年、銀行の帳簿用に開発されたのが起源となる。上質感のあるアイボリーの用紙は、薄くてもインクが裏移りしにくく、万年筆やペン、鉛筆など、どんな筆記用具でも心地よい書き味を得られるのが特徴だ。
今では銀行の帳簿の需要もずいぶん少なくなったが、業務用として培われたこの紙の質の高さは、誕生から半世紀以上を経てもなお人を引きつける魅力がある。
このバンクペーパーを中紙に使い、すべてのページを袋とじにしたのが、ここで紹介する「袋とじノート」である。ページの綴じ目の側にミシン目があり、そこを切り離して折り目を開くとページが横長に広がる。
これはこのノートをデザインしたTUBU design(ツブデザイン)の久永 文(ひさなが あや)さんが考案した仕様で、小ぶりのノートでも紙面を広く使えて、アイデアスケッチなどをどんどん書き込んでいける良さがある。
袋とじのまま使うなら、袋にチケットや写真などをはさむ用途もある。ページが適度に透けるので、はさんだ中身もわかりやすい。
「料理の写真をはさんでレシピを書き込むレシピブックや、チケットをはさんで旅のノートにするなど、オリジナルな使い方をしているという声をいただいています。いわば『自分ノート』ですね」と説明するのは、このノートの企画製造元である三洋紙業株式会社 新規開発室・室長の矢田部秀和さんだ。
同社はもともと、複数枚の紙を貼り合わせる「合紙(ごうし)」や、ジグソーパズルで用いられる型抜きなど、紙の加工を得意としてきた。このノートも表紙に合紙した厚手の紙を用いているが、それを薄くデリケートなバンクペーパーの中紙と綴じ合わせ、使いやすく耐久性のあるノートにするために、協力会社とともに苦心を重ねたという。
また、「ドイツ装」という、ノートにはあまり使われない製本形式をあえて採用することで、厚手の表紙でも開きのよいノートを実現した。
そうして完成した現在の袋とじノートは、苦心の甲斐あって、オブジェのような端正なたたずまいと使いやすさが両立する製品に仕上がっている。表紙は厚紙の間に別の色の紙をはさんで合紙し、表面に切り込みを入れて紙の層を見せているが、そのラインもアクセントとして効いている。また、合紙の表紙は硬さがあり、手に持って書くのにも便利だ。
2014年の発売後、テレビ番組や雑誌で取り上げられることもあったが、矢田部さんの印象に残っているのは海外からの反響だという。
「海外の方は日本のノートを手にすると、その紙質の良さに驚くようです。にじまないし、ペンの走りもいい。それを気に入って定期的に仕入れる店舗も現れるようになりました」(矢田部さん)
その結果、国内だけでなく、ニューヨーク、シンガポール、ドイツなどにも袋とじノートが置かれるようになった。いずれも個性派の書店やミュージアムショップなど、品質重視の店舗だという。
「海外ではノートに対する見方が日本と異なるのも面白いところですね。たとえばオフィスや家庭で使うノートをインテリアの一部としてとらえ、『部屋に合う色のノートがほしい』などと言われます。現在の袋とじノートの表紙の色はブラックとホワイトの2色だけですが、こうした要望を受けて、今後はカラーバリエーションを増やすことも検討しています。紙にはいろんな色がありますから、バリエーションも自由に発想できそうです」(矢田部さん)
合紙した厚手の表紙と、繊細なバンクペーパーの中紙が出合って生まれた唯一無二のノート。そこには使う人がその良さを発見していける可能性と自由さが潜んでいる。
ライター 石田 純子
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