正座する、足を崩す、あぐらをかく……。
たとえ部屋にソファが置かれても、「床に座る」スタイルは私たちの暮らしに深く根を下ろし、切り離すことはできない。
そんな現代の暮らしのスタイルに寄り添い、新しい座り心地を提案する「紙のクッション」を紹介しよう。
床に置いておくとちょっとしたオブジェのようにも見えるのは、座る姿勢を楽にする「Paper made paper cushion(以下、ペーパークッション)」という製品だ。クッションといっても、綿を布でくるんだフカフカのものとは異なり、適度な硬さと弾力がある。腰を下ろすとしっかりと体を受け止め、動きに寄り添うような快適さが感じられる。
素材はバルカナイズドファイバーという厚紙。剣道の防具や楽器のケースなどに使われる、強靱で耐久性に優れた紙だ。それを十字形に裁断し、4本の脚に曲げ加工をして底面をつなぎ合わせると、ほどよい弾力をもったクッションになる。
製造元の安達紙器工業株式会社(新潟県長岡市)は、技術を要するバルカナイズドファイバーの加工を長年手がけてきた。このペーパークッションは、バルカナイズドファイバーの特性を生かして、床に座る生活を楽しめるようにと考案されたもの。年配者や訪日外国人など足に負担をかけたくない人や、宴席など座敷に長時間座る場面での使用を想定した。
試作段階では座り心地のよさとともに、年配者が望む「楽に立ち上がれること」も重視して改良を重ねたという。また安全に使えるように、強度を持たせるための工夫もしている。
「このような形状ですと、数枚のパーツを組み合わせる設計にした方が、製造時の作業効率は上がります。しかしそれでは強度が下がってしまうので、少々手間がかかっても、一枚に切り出した紙を曲げ加工して成形する方法を採りました。 また、底面のつなぎ目も、4本の脚部を重ねてリベット(鋲)で留めてしまえば簡単なのですが、それでは段差ができて座ったときにぐらついてしまう。そうならないように、紙の断面同士をつなぎ合わせて底面が平らになるようにしています」(同社営業部・小林弘さん)
こうした工夫は素材の長所をうまく引き出し、適度な弾性による独特の座りやすさ・立ち上がりやすさを生み出した。そのため結果的にスタイリングはシンプルでミニマルなものとなり、どんなインテリアにも合わせやすいモダンな表情を醸し出すことにもつながっている。
2018年2月には、このペーパークッションをドイツ・フランクフルトで開かれる大規模な消費財見本市「アンビエンテ」に出展し、注目度の高い「トレンド」に選出されるという快挙も成し遂げた。同年7月からはフランス・パリに出店した新潟県産品の物産館「キナセ」で販売されるようになり、日本の「床に座る生活」を異国で体感してもらうのにも役立っている。
カラーバリエーションは黒、赤茶、白の3色。ナチュラルで日本の住空間になじむ色を厳選したのかと思いきや、意外にも「もともとバルカナイズドファイバーの素材色が4色しかなく、うち3色を製品化したまで」(小林さん)だという。ちなみにもう1色はグレーだそうだ。
素材としてのバルカナイズドファイバーには実に100年以上の歴史がある。その歴史の中で私たちの暮らしに寄り添う色合いと品質が絞り込まれ、磨き上げられていったのだろうか。
床に座る生活を楽しむために生み出されたペーパークッションは、心地よい弾力が癖になるのか、腰を下ろすだけでなく、椅子の背もたれに置いて使う人もいるという。しっかりとした造りと温かみのある素材感はどんな使用シーンにもよくなじむ。今後もさまざまな生活空間に融け込み、使い手とともに長い時間を過ごし、いつしか一生ものになっていくのかもしれない。
ライター 石田 純子
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