駅、デパート、公共施設など、人の集まる場所でAED(自動体外式除細動器)を見かけることが増えてきた。
この「もしものとき」に備える医療機器を日常空間に取り込み、使いやすくする紙製のボックスが、クチコミなどで広まっている。
AEDが私たちの生活空間に入り込むようになったのは、そう古いことではない。2004年に市民によるAED使用が法律で認められ、以来さまざまな場所への設置が進んだ。誰もが目にするようになったのはここ数年のことではないだろうか。
そのためか、AEDを購入してはみたものの、「収納する」という点まではなかなか気が回らず、また収納用品を選ぼうとしても、仕様のバリエーションが少なく、選択肢が限られるようだ。
埼玉県草加市に工場を持つ森紙器株式会社(本社:東京都足立区)が、職場にAEDを導入したのは2年前のこと。しかしその際に、勧められた収納ボックスが金属製で、扉を開けるとサイレンが鳴るなど職場内では不要な機能が付加され、結果的にボックスだけで20万円弱と、非常に高価なものになっていることに違和感をもったという。
「だったら自分たちで作ればいいじゃないかと思い、設計部門に頼んでスタンド型のAED収納ボックスを1台だけ作ることにしました」と語るのは、同社代表取締役の森勇一さん。
段ボールなどを用いて大型の箱や什器を製造するのは、紙器会社である同社の得意とするところである。しかも当時は「リボード」という非常に丈夫で耐久性に優れた紙素材を扱い始めた頃でもあり、ほどなくして設計部門からリボード製のAED収納ボックスが出来上がってきた。扉付きの白いスタンド型のボックスに、「AED」の文字とハート形を赤で表示したものだ。
「AEDをむき出しのまま棚などに置く場合もあるようですが、やはり緊急時に使うものなので、誰にでもわかるように目につく場所に設置することが重要です。そのためにはボックスに収めて存在感をもたせたほうがよいと思ったのです。スタンド型にしたのもそのためです」(森さん)
それを事務棟の入り口に置いたところ、同社の訪問客がまず目を付けた。
「これいいね、と。リボードは段ボールを積層した素材ですが、インクジェット印刷を行って樹脂フィルムでラミネートすれば、美粧性が向上し、耐水性も備わります。一方で、軽くて非常に丈夫。製造工程がシンプルで一点だけのオーダーに対応できるという利点もあります」(森さん)
その訪問客にリボード製のAED収納ボックスをプレゼントしたところ、喜んだ訪問客が写真とともにSNSで紹介し、それをきっかけに森紙器のAED収納ボックスが知られるようになっていった。
その後、各地の消防・救命関連施設や、AED製造の大手メーカーから受注があり、森紙器のAED収納ボックスは一躍ヒット商品となった。軽く丈夫で扱いやすく、従来品より安価なことが、支持される理由だという。市販はしておらず受注生産のみであるが、それだけに顧客の要望に合わせた仕様設計に配慮している。
「AEDの設置や収納に対する考え方はさまざまです。『ショールームに置くから周囲になじむデザインで』という要望もあれば、逆に『50メートル先から見てもAEDだとわかるように目立たせてほしい』と言われることもあります。あるいは『社名のロゴを入れたい』だとか。それらに合わせて形状やグラフィックデザインを変え、必要な数だけ製造できるのは、紙、あるいはリボードという素材だからできることではないでしょうか」(森さん)
昨今の人々の危機管理意識の高まりを考慮すると、AEDを置きたいという潜在ニーズはまだまだありそうだ。使いやすく比較的安価な紙製のAEDボックスは、そうした要望に寄り添い、AEDの導入を後押ししてくれるのではないだろうか。
ライター 石田 純子
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