紙ふうせんといえば、ふくらませると丸くなる、レトロな玩具を思い浮かべる。
しかし富山では、四角い紙ふうせんがポピュラーだという。
ここで紹介するのは、富山の置き薬の「おまけ」に起源をもつオリジナルデザインの紙ふうせん。
ずっと手元に置いておきたくなる、優しい表情が魅力だ。
コロンとした四角い紙ふうせんは、富山県では日常的に目にする存在だという。会社名のロゴや観光地のイラストを入れて、PR用品やノベルティとして盛んに用いられてきた。
古くは富山の薬売りが、薬のおまけとして子供たちに紙ふうせんを置いていったのが始まりと伝えられる。それを現代の生活に合うインテリア用品としてデザインし直したのが、「cusuri 紙ふうせん」だ。
「cusuri」は紙製品ブランドの名称で、「薬」と、ほほえむときの「クスリ」を掛けている。目にした人が思わず笑顔になるものを生み出したい、そんな意味が込められている。
デザインは多彩だ。招き猫やダルマ、小判などの縁起物や、鯉のぼりなどの行事にちなんだもの、富山の地域性にインスピレーションを受けた柄など、さまざまなアイデアと感性が紙ふうせんに投影されている。
それらのモチーフは、用いられている紙の性質により、印刷すると落ち着いたマットな風合いになるが、それが薄手の紙の味わいと相まって、軽やかで優しい印象を生み出している。
図柄の印刷は通常の印刷機を使用するが、のり付けして成形する10ほどの工程は職人の手作業となる。なかには90歳を超えた職人もいて、その手さばきを映像で記録し教育に用いるなどして、後継者を育てながら日々の製造が行われている。
この「cusuri 紙ふうせん」を製造販売しているのは、医薬品パッケージをメインとした総合印刷メーカーの富山スガキ株式会社(富山市)である。紙ふうせんを初めて披露したのは2017年2月に行われた展示会だが、企画・デザインの担当部門に所属する名越恵美さんによれば、発表するまで「富山では見慣れていて、おまけでもらうものというイメージの強い紙ふうせんを商品化して、はたして受け入れてもらえるだろうか」という不安があったという。
しかし、いざ発表してみたところ、総じて反応はよく、取扱店からの注文が着々と入るようになった。ミュージアムショップや、観光客が立ち寄る都心のセレクトショップなどでとくに好評で、美しいデザインと、コンパクトに畳んだ状態でパッケージされ、持ち帰りや保管が容易に行える実用性が評価されたようだ。
4月からは新たに「モビールキット」も売り出された。これはふくらませた紙ふうせんを吊してモビールとして楽しむための工作キットである。それまで店頭販促用としてPOP代わりに作成していた紙ふうせんのモビールが好評であったこと、また、鯉のぼりのデザインの紙ふうせんをつないでモビールにするワークショップの反響が大きかったことなどから、商品化に踏み切った。
「紙ふうせんは実用品ではないので、単体だと何に使えばいいんだろうと迷う人もいると思います。そんなときに、モビールというひとつの具体的な形を見せることで、インテリアとしての楽しみ方を提案できればいいですね」(名越さん)
薄手の紙に優しい絵柄をあしらった紙ふうせん。それがモビールになってふわふわと風に揺れるさまは、生活空間に新しい表情を与えてくれそうだ。
人を元気にするのは、薬のように直接的な作用があるものだけではない。この紙ふうせんに込められた豊かな感性や温かなメッセージは、私たちにクスリと笑みを浮かべるちょっとした余裕を思い出させ、日々の暮らしに彩りと元気をもたらしてくれるだろう。
ライター 石田 純子
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