紙を切って組み立てる工作「ペーパークラフト」は、気軽に楽しめる趣味として語られることが多い。
そのペーパークラフトにいま熱い視線が注がれている。
趣味の世界とはひと味違う、本格的な装飾品として、商業施設のインテリアを彩るペーパークラフトを紹介しよう。
壁から下を見下ろすさまざまな動物たち。そのたたずまいはクールでモダン、そしてどこか愛らしい。角ばった形と独特の質感が特徴のこの動物たちは、すべて紙をカットして組み立てたペーパークラフトである。
「木製に見えるとか、陶器だと思ったと言われたこともあります」と、このペーパークラフトをデザインした田沼恵司さんは語る。落ち着いた光沢のある紙を使い、しっかりとした造りにしているため、木や陶器と見間違えても不思議はない。
田沼さんが社長を務める株式会社ボグクラフト(東京都台東区)では、これらのペーパークラフトを家庭で作れるようにキット化し、販売している。キットは動物モチーフの商品が豊富に揃い、アイテムは今も増え続けている。
デザインにあたっては二つのルールを設けている。一つは「印刷による着彩は行わず、紙そのものの色を活かすこと」。たくさんの種類を並べても統一感があり、落ち着きを感じられるのはそのせいだろうか。もう一つは、「なるべく少ない面で、その動物らしく見せること」。それによってこのペーパークラフトの特徴である造形の大胆さが生まれ、また組み立てやすくもなっている。
最近では、ショップとのコラボ製品を考案したり、ペーパークラフトを使用したホテルのロビーやレストランなどのディスプレイを行うことも増えた。
名古屋にあるホテルでは、夏季に涼しげな金魚のペーパークラフト、クリスマスシーズンはトナカイのペーパークラフトを用い、季節やイベントに合わせたディスプレイを制作した。華やかな空間演出ができるのはもちろん、紙製で軽いため、画びょう一つで壁に固定でき、万一はずれて落下しても危険がない。また、シーズンが終わって不要になれば、取り外して畳み、リサイクルに回すなど処分もしやすいことが、こうした公共性の高いスペースの装飾に重宝される理由のようだ。
このように華やかで安全な室内装飾を求める商業施設は多く、製品を見て「他の動物は作れないか」「人目を引くレイアウトにしてほしい」といったオーダーが寄せられることもあるという。
「そうやって宿題を投げかけてもらうのはいいヒントになります。既製品を売るだけではなく、そうした声にもどんどん応えていきたい」と、田沼さん。
新しいオーダーを前向きにとらえられるのは、紙の造形の自由さが後押しをしている面もあるようだ。
「ペーパークラフトの原形は、型を使わずレーザーカッターで切り抜いているので、設計変更が比較的簡単なんです。一つ原形を作ればその拡大・縮小もすぐできますし。金型を使う樹脂の造形などとは異なる自由さ、手軽さがありますね」(田沼さん)
最近では海外観光客のお土産用に、「日本らしさ」を感じさせるペーパークラフトのオーダーが増えている。それに応じて、最初は壁掛けの動物でスタートしたラインアップに錦鯉や金魚、だるまなどが加わった。
実は田沼さん、ボグクラフトを立ち上げる前は、美容師を経て玩具メーカーに転職し、おもちゃやカプセルトイの商品開発を担当していたという異色の経歴の持ち主だ。お客のヘアスタイルを整える、おもちゃを開発する、ペーパークラフトをデザインする、ペーパークラフトで室内を楽しく演出する……そのどれもが「人が喜ぶものを形にしてみせる」という点でつながっているように思える。
人のために喜びや楽しみを創り出す。その尊い気持ちを紙が支えている。
ライター 石田 純子
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