災害は起こってほしくない。だが、備えは必要だ。
さまざまな備えがある中、折り方を工夫して使い勝手を向上させた紙の災害用品がある。
防災マップと避難所などで使用する間仕切りがその代表だ。
準備中に感じた不安や非常時のストレスを軽減するため、紙にどんな工夫をほどこしたのか。
その試みを紹介しよう。
「ミウラ折り」という言葉を聞いたことはないだろうか。畳んだ素材を小さな力で大きく開くことができる折り方で、宇宙空間で使用する太陽光パネルに採用されたことから一躍有名になった。「ミウラ折り」の名は、宇宙構造工学研究者の三浦公亮氏が考案したことに由来する。
ミウラ折りにはさまざまなパターンがあり、その一つが携帯用の地図に展開されている。ポケットサイズに折りたたまれた地図は、大きな紙を縦方向に蛇腹折りしてから横に蛇腹折りにしたようにも見えるが、細部に目をやると折り目がずらしてあり、単純な蛇腹折りではないことがわかる。
この折り方にすると、紙の対角のコーナーを持って左右に引けばサッと広がり、畳み直すのも簡単なので、大きな地図でも楽に広げられる。また、畳んだときに折り目が重ならず余計な力がかからないので、破れにくい。こうした利点が評価されて、観光マップに用いられるほか、近年ではミウラ折りの防災マップも増えてきた。
「大きな紙に刷られた防災マップは、家庭で壁に貼るといった使い方になりがちです。しかし災害はいつ起こるかわからないので、帰宅路や避難ルートを確認するためには持ち歩いたほうがいいですよね。そこで自治体や学校、企業などが、小さく畳んでも開きやすいミウラ折りを防災マップに採用するようになったのです」と説明するのは、ミウラ折りのライセンスを持ち、関連商品の生産・販売を行う株式会社ミウラ折りラボ(東京都新宿区)代表取締役の菊間博之さんだ。
同社では1996年の創業時からミウラ折りの地図を生産してきたが、折り方の独自性ゆえに機械折りが難しく、手作業に頼ってきた。しかし、2018年にようやく念願の機械化が実現し、生産スピードが大幅に短縮されたという。そうした経緯も後押しし、新製品の開発にも意欲的だ。
ミウラ折りには開きやすく畳みやすいという特徴のほか、折り目を入れることによって素材の強度を向上させることができるという特徴もある。それを応用したのが、避難所の間仕切りなどに使用する段ボール製の「アコーディオンブース」だ。こちらは2019年に発売したミウラ折りラボのオリジナル製品で、広島市などで導入されている。
地図とは異なる折り方だが、こちらもやはり広げやすく畳みやすい構造で、広げて数カ所を折り、2つのパーツをマジックテープで留めれば完成する。工具もはさみもいらず、約3分で組み立てられる簡便さは、混乱しがちな避難所で重宝するに違いない。
「段ボール製の間仕切りは各社から出ていますが、当社のアコーディオンブースはミウラ折りによって強度が備わるので、薄い段ボールを使用しているのが大きな違いです。段ボールが薄いと畳んだときにコンパクトになり、重量も軽いので、保管しやすいのです」(菊間さん)
「軽くコンパクトで保管しやすい」という特徴は、一定の数の災害用品を確保しておかなければならない自治体や学校、企業にとって朗報に違いない。
災害は起こってほしくないが、起こったときを想定し、備えを万全にすることの重要性は誰もが感じている。そこで頼りになる紙があることは、私たちの日々の暮らしに安心をもたらすだろう。
ライター 石田 純子
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