夜空を彩る花火は日本の夏の風物詩だ。
だが、今年は見物客が密集するのを避けるため、花火大会の中止が相次いでいる。
楽しみにしていただけに中止は残念だが、その淋しさを慰め、室内空間に華やぎをもたらす紙の花火が登場した。
CDジャケットほどの大きさに折り畳まれたカードを開くと、横につらなる鮮やかなオレンジ色の輪がすっくと立ち上がる。繊細なカットと複雑な3次元構造で表現された花火は、見事の一言に尽きる。
「かみはなび」の名前をもつこの製品はペーパークラフトによるシリーズで、ポップアップカードとモビールをラインアップしている。
モチーフにしたのは、日本三大花火のひとつに数えられる新潟県の長岡花火だ。そこで実際に打ち上げられる花火「フェニックス」を再現したポップアップカードは、ペーパークラフトという言葉から連想されるイメージを超えたダイナミックな迫力がある。一方で細部は、繊細なカットと何枚もの紙を組み合わせた立体構造が目を引きつけ、存在感のあるインテリアとして楽しめそうだ。
企画したのは地元のメーカーやデザイナーが参加する団体「長岡産業デザイン研究会(以下、研究会)」である。毎年約100万人の見物客が訪れる長岡花火に際し、お土産になる製品を創出するため、メンバーが長年にわたって煮詰めてきた企画が「かみはなび」に結実した。
デザインを担当した黒崎英也さんは、当初、このような精緻なデザインではなく、素朴な造形の花火をイメージして試作を行っていたという。しかし、研究会のメンバーから寄せられた意見を取り入れてブラッシュアップを重ねるうちに、現在のような繊細で複雑な構造の花火へと変化していった。
とはいえ、いざ量産となると、精度とスピードを両立させながら設計した通りに紙をカットするのが難しく、おおいに手こずらされたというが、その状況が紙のレーザーカットを得意とする株式会社第一印刷所(新潟市)との出合いによって一変した。同社が研究会のメンバーに加わり、ともに製品開発の意見を出し合いながら製造も担当することで、このペーパークラフトの魅力である繊細なカットが実現した。
量産が可能となり、2019年より試験販売を行った初期製品では、花火のパーツに発色の良いマットな質感の色紙を使用したが、2020年7月から本格販売する製品ではそれを変更し、花火の微細な粒子をカラー印刷で表現したパーツに切り替えた。それによって、より立体感の感じられる仕上がりとなった。
また、モビールタイプはパーツの色調にグラデーションを取り入れ、さらに裏と表の色を変えてあるため、モビールが風に揺れるたび、色合いの変化が楽しめる。
「もともとお土産をつくろうとして始まったプロジェクトですが、製品が完成し、いざ試験販売をしてみると、長岡花火を見たことがない人にも、造形の美しさで興味をもってもらえることがわかりました。なかには花火と思わず、『これは何? 素敵ね』と、声を掛けてきた方もいるほどです。お土産だけにとらわれず、インテリア用品としてもアピールしていきたいと思います」(研究会メンバー、第一印刷所・山口さとみさん)
例年8月初旬に開催される長岡花火は、今年は中止が決定している。大空に高々と上がる花火を見ることができないのは残念だが、地元のメンバーがつどい、熱意をもってつくり上げた紙の花火は、室内空間に明るい華やぎをもたらしてくれるだろう。いつもの夏とは違う花火を、今年は紙で楽しんでみてはいかがだろうか。
ライター 石田 純子
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