秋は陽射しと風が心地よい季節だ。
遠出とまではいかなくても、自宅の庭やベランダなどのちょっとした屋外スペースで、アウトドア気分を楽しむのはいかがだろう。
炭火でバーベキューができる段ボール製のグリルが、そんな場面に彩りを添えてくれる。
火に弱いはずの段ボールをどうやってグリルに仕立てたのか、その成り立ちを探ってみた。
紙は火に弱い。しかし、工夫次第でバーベキューグリルのような火を使うための道具にもなる。それを証明しているのが、デンマーク・カサスグリル社の「クラフトグリル」だ。
これはA4サイズよりも少し大きめのコンパクトなバーベキューグリルである。パッケージを兼ねた段ボールの箱には白い火山石とリング形の竹炭が収まり、付属の段ボール製の脚を組み立て、竹製の焼き網を載せて使用する。四隅の竹炭に着火すると5分ほどで火力が安定するので、炭おこしに慣れていない人でも簡単に扱える。使えるのは1回きり、燃焼時間は約1時間ほどで、手軽にバーベキューを楽しみたい人向きだ。
グリルを構成する素材は段ボールのほか、竹、竹炭、火山石のみ。段ボールと竹は焼却可能で、竹炭と火山石を含め、自然由来の素材だけを使用している。
もともとはアルプスに登山に出かけた開発者が、アルミ製の使い切りグリルがそのまま捨てられているのを見て心を痛め、環境負荷の少ないグリルとして生み出したという経緯がある。
「海外の展示会で目にしたときは半信半疑でした。なぜ段ボールなんだろうと」と語るのは、永松忍さん。この製品を輸入販売している株式会社エープラス(長野県伊那市)の営業担当者である。
永松さんの知る限り、使い切りのグリルはこれまでもあったが、いずれも本体は金属製で、このように熱源を段ボールに収めた製品は初めてだという。
それを可能にしたのは、竹炭の加工法によるところが大きい。一般的な炭は食材の脂が落ちると勢いよく炎が上がるが、クラフトグリルに用いられている竹炭は炎が立たないように、特殊な加工を施している。さらに竹炭を火山石で取り囲むことにより、段ボールや焼き網の過熱を防いで、燃焼に耐えるようにした。
また、炎が立たないことでバーベキューにありがちな「外側が焦げて中は半生」という失敗もしにくくなり、遠赤外線を利用して食材をじっくり焼き上げるという、グリル本来の機能も向上した。
2017年より国内で販売されているが、このところの外出自粛の影響で販売台数は伸びている。手軽に扱えて後片付けもしやすい仕様が好評で、遠出を控えたぶん、自宅の庭やベランダでアウトドア気分を味わいたいと考えるファミリー層やカップルに受け入れられたためだ。なかには「グリルはこれしか使わなくなった」と、リピート買いする人もいるという。
最近では大手小売チェーンが、自社のSDGs(持続可能な開発目標)に合致する商品としてこのクラフトグリルを仕入れ、国内約100店舗とオンラインによる販売を開始した。
「人々が地球温暖化という大きな問題を、ごく身近なものとしてとらえるようになってきたことの表れかもしれません」と、永松さん。
グリルを紙でつくるという驚きの発想は、環境保全への願いから生まれ、その意図が国境を越えて伝わっている。便利さと環境保全を両立させる難しさを克服したことが、国や文化の違いを超えて人々に評価された結果といえるだろう。
ライター 石田 純子/写真提供 株式会社エープラス
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