8ミリフィルム、ビデオ、DVDと、映像を記録するメディアは、その姿を変えるたび、より手軽で扱いやすいものへと進化してきた。扱いやすいものは浸透するのも早い。ここ1、2年ほどで、DVDは急速に普及し、一般家庭においても、DVDメディアがもはや常備品になりつつある。
さて、そのDVDメディア、通常は収納にプラスチックのケースや不織布の封筒が用いられるが、そのパッケージを「紙」で作ったらどうなるか、という課題に挑戦し、成功した例がある。
今秋に開催されたパッケージの見本市「東京パック2006」において、紙製のDVD収納ケースが発表された。制作したのは高桑美術印刷株式会社(石川県野々市町)。段ボールを主素材とし、上蓋と留め具のみにプラスチックを利用したものである。DVDメディアの形に沿う曲線を生かしたフォルムは機能美にあふれ、DVDを一枚一枚取り出すためにスライドさせたときの形状の変化も楽しめる
この製品の開発にあたった川島秀次さん(同社パッケージ開発室)によれば、きっかけはやはり環境への配慮だったという。
「もともと当社では、CD用の紙製収納ケースや日本酒の化粧箱など、パッケージ類の製造ノウハウがあったのですが、それを利用してDVDをたくさん収納できる紙製のケースが作れないか、と考えました。プラスチックよりは紙、紙の中でも古紙を原料とする段ボール、また利用する紙の量も少なくて済むように、DVDメディアより一回り大きい形に留め具を通す部分をつなげただけの、極力シェイプアップした形にしました。だからこの形態は、装飾性を重視したのではなく、必然性から生まれたデザインなのです」と、川島さんは語る。
実際の製造にあたって最も苦労させられたのは「紙のそり返り」だった。もともと紙は水分を吸収したり、逆に乾燥することによって、伸縮や変形を生じやすい性質がある。DVD収納ケースの素材となった段ボールは特にそりやすく、このように十数枚もの段ボールをぴったり重ねる構造の製品では、その性質が製造上のネックとなる。
それを解決するため、貼り合わせの接着剤や、段ボールの種類を吟味し、試行錯誤を重ねながら、満足できるものに仕上げていったという。その結果、40枚程度のDVDを収める構造にしても問題がないレベルにまで到達した。
同製品は現在、普及に向けて販路開拓の段階にあり、本格的な生産がスタートするのはまだ少し先になるそうだが、見本市での反響は上々。さらに日本包装技術協会が主催する日本パッケージングコンテストでは、「日用品・雑貨包装部門賞」と「POP・店頭販売包装部門賞」の2つを同時受賞した。機能性、操作性、そしてインテリアにもなじむデザイン性が評価されての受賞である。
渋めの赤、青、黄というカラーリングは「単品でも美しく、また2、3色を組み合わせてもきれいに見えて、分類にも役立つ色。主張はするけど邪魔にならないデザインを目指しました」と、川島さん。
その思惑通り、このDVD収納ケースが普及したあかつきには、静かな主張をもって、家庭の中の何気ない一風景を変えていくことだろう。
ライター 石田 純子
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