カジュアルな装いの主役ともいうべきジーンズ。
洗うほどに体になじむデニムの感触はジーンズの最大の特徴でもある。
そのジーンズを綿布の代わりに「和紙織物」で仕立てたものがあるという。
和紙でジーンズを制作したのは、アパレル・テキスタイル分野のプランニングなどを手がけるクレール株式会社(岐阜市)。8年ほど前、地場産業の活性化につながる製品を生み出せないかという発想の元に企画を練り始め、着目したのが地産の美濃和紙の織物だった。
「和紙の糸を使って織物をつくる技術は古くからありました。中国では宋時代から、日本では江戸時代、そして大正後期から昭和初期にかけて、和紙織物を生産した痕跡が認められているそうです」(クレール社長・進藤昌和さん)
その古来の技術を現代のニーズに合わせるために、考え出したコンセプトは、「伝統技術とテクノロジーの融合」「生活のベースを担う製品作り」「手作りの面影を残す暖かみ」の三つ。それらを満たす製品として、美濃和紙の織物でジーンズを作るというアイデアが浮上した。
「ジーンズは、いわば第二の肌。デニムというしっかりした布でできているけれど、素肌に触れても気持ちいい。そのジーンズに求められる心地よさに、和紙の軽くてドライな感触がうまくマッチすれば、新しいものが出来上がるんじゃないかと思ったのです」(進藤さん)
インテリア用品などではすでに製品化されていた和紙織物を、ジーンズに加工する上で焦点となったのは、デニムのような伸びの良さをどうやって出すか、という点だった。織物が伸びなければ、身につけたときのフィット感を持たせることができず、進藤さんが重視している「第二の肌」らしさが損なわれてしまう。
そこでまず、それまでの単糸(たんし・素材から紡ぎ出された状態の糸)で織り上げるやり方を改め、双糸(そうし・単糸二本を寄り合わせた糸で伸縮性に富む)を使うことにした。また、和紙の糸だけで織物を織るのも可能であるが、この場合は綿を併用した方が「らしさ」が出ると判断し、横糸に和紙の糸、縦糸に綿糸を使って織り上げている。そのようにして、ジーンズに近いフィット感を和紙織物に持たせることに成功したのである。
出来上がった和紙のデニムは、見た目は綿100%のデニムとほぼ同じ。しかし触ってみると、思いがけずしっとりと柔らかな感触であることに驚かされる。聞けば、美濃和紙の織物はけばが出ないため、肌当たりがよいのも特徴の一つであるという。
さらにこの和紙デニムには、綿の約6倍もの吸湿性があり、また多孔質の糸が空気をたっぷり含む構造になっているので、通気性と保温性が両立する。つまり、夏はサラッとしていて涼しく、冬は暖かい、理想的な着心地を実現することができるのである。
現在、この美濃和紙織物のジーンズは試作を終えて、生産体制と販路の確立を目指す段階にある。日常着としてすっかり定着しているジーンズも、和紙織物という古くから培われた技術を融合させることで、新たな表情が加わったといえる。
クレールではこれまでも、ファブリックやタオルなどインテリア用品のカテゴリーで美濃和紙織物の製品を世に送り出してきた。日常的に着用できる衣服への和紙織物の利用はこのジーンズが初めてだが、綿布にはない独特の肌触りは、快適な着心地を求める人々に受け入れられやすいのではないだろうか。
ライター 石田 純子
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