冬の風景を真っ白に塗り替える雪。
目には美しいけれど、スリップなどの原因になるだけに、
車を運転する人にとっては少々やっかいな存在だ。
そんな雪道の不安をなくす便利な道具があるという。
雪道で起こりがちな運転トラブルの一つに、深く積もった雪にタイヤをとられて動けなくなる、いわゆるスタックがある。いったん動けなくなってしまうと、いくらアクセルを踏もうが、タイヤが空転するだけでなかなか脱出できないものだ。そうなると、タイヤの下の雪をスコップで根気よくかき出すか、あるいは応援を頼んで別の車に牽引してもらうといった、大がかりな作業が必要になってくる。
近年の雪国では除雪、消雪のシステムが整い、冬のドライブも快適になりつつあるが、それだけにタイヤチェーンを常備するといった雪道対策が手薄になり、慣れない道を走るときなどに、こうしたアクシデントに見舞われやすくなっているという。
その不測のアクシデントに備えるグッズとして注目されているのが、安達紙器工業株式会社(新潟県長岡市)が製造している紙製の脱出具「スグラ」である。これは非常に硬い厚手の再生紙を網状に加工したもの。商品名は「雪をしっかりとつかむ」という意味の英語「snow grabber」からきている。タイヤと雪の間に差し込んでアクセルを踏むと、その間に生じる摩擦が大きくなるため、名前通りの感触とともに、スタックから脱け出すことができる。
同じような使用法の道具には、金属やプラスチック、ゴムなどを加工して網状にしたり、凹凸をつけたマットなどがある。しかし、タイヤが回転したときに思わぬ方向に飛ぶことがあるため、重量のある金属では不安が残るし、プラスチックは割れやすく、またゴムマットは滑りやすく性能が劣るといった難点がある。
「その点、紙製のスグラは滑りにくく、軽いので女性が一人でも手軽に扱えます。試作時にはさまざまな車種の乗用車で実験しましたが、そのすべてでスタックからの脱出に成功しました。また、紙製ですが、使い捨てではなく繰り返し使うこともできますし、万一どこかに飛んでしまって回収できなくても、土に返る素材なのでゴミになりにくいんです」と、開発にあたった同社営業部の田澤広之さんは語る。
そもそも田澤さん自身が、かつて妻の出産に駆けつけようと車を走らせていたときに、人通りのない雪道でタイヤをとられ、立ち往生した苦い思い出があるという。その経験が長い時を経て、この製品の開発へとつながった。
いざ市場に出してみたところ、こうした便利な製品のニーズは高く、出荷される数量は年を追うごとに増え続けている。ホームセンターや生協などで個人が購入するほか、法人が顧客へのお歳暮用として大量購入するケースも少なくないという。
「雪道の不安をやわらげる保険のようなものでしょうね」と、田澤さんは笑う。
同社が位置する新潟県内はもとより、北海道、山陰地方などでも「スグラ」の需要は多い。現在は欧州での販売も検討中だが、他素材の製品と比べて軽いため、輸出コストが少なくて済むというのも、プラス要因として働きそうだ。
ライター 石田 純子
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