新たな土地に居を構えることになった会社が
自社のスペースを地域に開放し、
段ボールと色紙を使った楽しいワークショップを開催した。
親子で参加できるこの催しは大盛況だったという。
今年一月のとある日曜日、約30組の親子が、白い外壁と大きなガラス窓を持つ開放的なビルの2階に集合した。ここで開催されるワークショップ「みんなの家」に参加するためだ。これは、板張りの床にテープで区切られた「敷地」の中に、段ボールや色紙を使ってめいめいが自由に家を作り上げるもの。主体は3~8歳くらいの小さな子供たちで、両親はその付き添いとして参加する。
賑やかに盛り上がる雰囲気の中、でき上がったのはケーキの形の家や、ちぎり絵の要領で色紙の華やかな飾りを施した家など、ユニークなものばかり。池や舟まで作った子供もいた。どの家にも、小さな子供らしい大胆な創造力がみなぎっている。
このワークショップを主催したのは株式会社広告製版社である。東京・芝浦に長年居を構える印刷関連会社で、2009年に工場の一部を両国に移転した。移転先は2階建てのビルで、1階に印刷機を設置したところ、2階がまるまる余ってしまった。そこでそのスペースを、地域の人々に開放することを思いついたという。
「芝浦の本社では、地元のお祭りに40年以上にわたって参加しており、サービスでポスターを印刷するなどお手伝いをしてきました。そこで、新たに工場を置いた両国でも、何か地域に根ざした活動をしようということになったのです。せっかく印刷機があるのだから、ものづくりと関連させて地域の方たちとのつながりを作っていきたいと思いました」(広告製版社・副社長 伊東勝さん)
そこで始めたのが「するところ」と名付けた地域共生プロジェクトである。工場2階の広々とした空きスペースを使い、親子で参加できるワークショップと作品展示を定期的に開催することにした。テーマは「建築」、「現代美術」、「所作」など文化に根ざしたもので、ひと月ごとに内容を変更する。その2回目として行われたのが、冒頭で説明した「みんなの家」だった。ワークショップ当日は、この日のために同社で印刷した大きな色紙と十分な量の段ボール、クラフトテープや段ボールのこ(カッターよりも刃先が丸く、ケガをしにくい段ボール用ののこぎり)を用意して開催に臨んだ。
ワークショップの講師を務めた近藤哲雄さんは、「一応『家をつくる』がテーマなのですが、子供たちはいい意味で自由気まま。こちらの思惑が覆されることばかりで驚きました」と微笑む。近藤さんはこの会場「するところ」の設計も手がけた建築家。しかしこのようなワークショップに携わるのは初めてで、それだけに新たな発見も多かったという。
「段ボールを目にしたとたん、そりにして遊び始める子もいましたね(笑)。家の作り方も十人十色で、粘土で作るときと同じように発想したのか、段ボールをグニャグニャに折り曲げてから作る子もいれば、まずお父さんの似顔絵を紙に描いて、それを飾る場所を作っていった子もいる。かと思うと、本物の建築物のように、まず構造を作ってそこに外壁を貼り付けていく子もいて。段ボールや色紙は、子供にとってよそよそしさのない身近な素材ですよね。しかも好きなだけ使っていいとなると、どんどん発想が広がっていくんじゃないでしょうか」と、近藤さん。
このワークショップを通じて伝えたかったのは「建築の面白さ」だという。扱いやすく変幻自在な「紙」を素材にしたことで、子供たちはその入り口に立てたのではないだろうか。
ライター 石田 純子
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