紙でできた「米袋の口を閉じるバンド」には
機能性を重視した質実剛健なイメージがある。
その紙のバンドが、器やバッグなどの
暮らしを彩るグッズの素材になるという。
5kg、10kgという分量の米を入れる袋は、ビニールのほかにクラフト紙がよく使われる。その米袋の口を閉じるのに使われるのも、やはり紙でできた丈夫なひもだ。この紙ひもは「織布(しょくふ)バンド」と呼ばれ、細い紙を糸のように撚ったものを接着して作られる。幅18ミリで90kgの重さに耐えるというから、その耐久性はかなりのものだ。
この織布バンドの優れた耐久性と加工の自由さに着目して作られたのが、バッグやフルーツ用の器、照明カバーやスツールなどで構成される「キオラ」の製品シリーズだ。いずれも古紙配合の紙を原料にしているのが意外なほど、カラフルでポップに仕上がっている。
フルーツ用の器は、底から上に向かって織布バンドをくるくると巻き上げて成形する。防水性を高めるためにウレタン塗装してあるので、水拭きも可能だ。
またバッグ類の素材は、織布バンドを平行に並べて間にテープ状の細い革を入れ、両者を編み込んで一枚のシートにしたもの。それを裁断してミシンで縫い上げる。こちらも耐水性を考慮して塩化ビニル液で接着し、表面をコートして仕上げているため、雨に濡れても使用に差し支えない。
これらを考案したのは有限会社クルツ(東京都千代田区)の島村卓実さんだ。インダストリアルデザイナーとして、キオラ全製品のデザインを担当しただけでなく、素材開発や生産体制の整備にも関わってきた。
「キオラはこれまで何度か国内外の見本市などで発表しましたが、海外の方が総じて反応は大きい。エコロジー製品を積極的に生活に取り入れようとする意識が強いから、古紙のリサイクルでこんなカラフルなグッズが作れることに興味を持つのでしょう。また、海外にもペーパーヤーン(紙製の糸)はありますが、たいていは造りが粗く、織布バンドのように、緻密で一本一本の太さが均一なものはなかなかありません。だから量産品を紙で作るという発想は出にくい。そんな中でキオラには目新しさがあったのかもしれませんね」と島村さん。
しかし、その品質が安定した織布バンドでも、「紙を接着する」という工程では少々工夫が必要だった。例えばフルーツ用の器を試作した際、巻き上げ時に0.5ミリ、0.3ミリというわずかなズレが生じただけで、柄のストライプが歪んで見えることがわかった。そこで器の型をつくり、それに合わせて巻き上げる機器の制御を調整し、ズレを抑えるように工程を変更した。
そのフルーツ用の器は、量産品でありながら、特注で好みの色のストライプのオリジナル製品を作ることもできる。製造元にストックしてある何色もの織布バンドの中から好きな色を選んで指定するという方法で、1個でも対応するという。
「特注にフレキシブルに対応できて、デザインの自由度も高い。色を付けたり革と組み合わせたり、素材自体をいろいろ工夫できる。紙の面白さはそんなところかもしれませんね」
そう話す島村さんは、カーデザイナーの出身。過去に乗用車やバスのような重量感のある製品を多数デザインしてきた。そのため、よけいに紙の手軽さが新鮮に感じられたのかもしれない。
ものづくりに携わる人のインスピレーションを喚起する--ここでは紙がそんな役目を果たしたようだ。
ライター 石田 純子
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