住まいの中にいかにして集中できる場を作るか。
コロナ禍による外出制限やリモートワークに際し、関心を集めたテーマの一つである。
それに応える紙のワークブースが人気だ。
優れた機能と、欲しいと思わせるたたずまいは、どのようにして生み出されたのだろうか。
クールな存在感で住まいの一部を特別な空間にするのは、「Think Lab HOME」という製品である。紙でできたコンパクトなワークブースで、使用した人々からは「仕事に集中できる」「趣味に没頭できる」と好評だ。
構造材には「角紙管」という、文字通り断面が四角い紙管が使われている。角紙管はもともと梱包材としてブラインドをはじめとする製品に用いられていたが、樹脂や金属の代替になるほど丈夫で、ソリやゆがみが出にくい特性を生かし、数十年前から紙管ラックに転用されるなど、インテリア素材としての歴史もある。
パーティーションと天板は段ボール。天板は内部にハニカム構造の紙の芯材を入れて補強し、30kgの耐荷重をもたせているため、パソコンを置いてもびくともしない。
工具不要で3分ほどで組み立てられるといった手軽さも手伝って、2020年9月に発売してからしばらくの間は、出荷するたびすぐ売り切れる人気ぶりだった。
企画販売元の株式会社Think Lab(東京都千代田区)がこうしたワークブースの開発に乗り出したのは、新型コロナ対策によるリモートワーク需要をにらんでのことだった。当時は株式会社JINSの中の一プロジェクトであり(のちにこの成功により分社する)、かけた人の集中の度合いが計測できるメガネ型デバイスの開発を通じて「集中」に関する知見があった。それをもとに飯田橋などで会員制のワークスペースを展開していたため、このワークブースにおいても、その知見を存分に活用しての開発となった。
例えば、前面や両側面の視界をさえぎるパーティーションの色合いは、黒よりわずかに明るい「墨色」だが、これは集中力を高めやすい色として採用された。柄があったり、白色など明るい色にすると集中が削がれ、逆に真っ黒だと緊張しすぎて、ほどよい集中から遠ざかってしまうという。
製品の、幅77.6cm、奥行65.3cm、高さ126cmというサイズも、「集中できる」サイズとして割り出されたもので、5cm違うだけで集中の度合いが明らかに低下するそうだ。
株式会社Think Labの石井建司さんによれば、ワークブースの素材を紙にすることはごく早い段階で決まっていたという。
「サスティナブル、スピード感、値ごろ感。紙であれば、私たちが重視していたこの3つの条件が実現できるという判断がありました。角紙管と段ボールは古紙由来で環境負荷の低い素材ですし、設計や製造をスピード感をもって行えたり、コストを抑えることも、紙であれば可能になります。発売後はユーザーから軽くて扱いやすいという声をいただくことがあり、万能な素材だと実感しました」と、石井さん。
また、穴をあけてケーブルを通したり、ピンで紙を留めたりできる、紙であるがゆえの「カスタマイズ性」も、設計時に意図した特徴だが、実際に製品がユーザーの手に渡ってみると、フックを吊るしたり、着色したりと、石井さんの予想以上に幅広いカスタマイズをユーザーが楽しんでいることがわかった。
「Think Lab HOMEのプロジェクトを通して、紙の応用範囲の広さを改めて知りました。今後は『集中』に関連して、防音材を紙でつくれないだろうか、あるいは他の商品でも配送箱を紙に変更すれば、さらに環境負荷を下げることができるのではないか、などと、いろいろ考えるようになりました」と、石井さん。
一口に「紙」といってもさまざまな種類があり、角紙管のように意外な使い方ができる素材もある。サスティナビリティとの相性のよさも手伝って、知れば知るほど魅力が増す紙という素材に、改めて目を向ける人々が増えている。
ライター 石田 純子 / 取材協力 日本化工機材株式会社
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