初めて見たのにずっと前から知っていたような、どこか親しみのもてるノートやファイルボックス。
「さりげなく・頼もしく・使いやすい」特長をもつ、これらの文具はどのようにして生み出されたのか。
知ってしまえば驚くほど身近にその原形があった。
これらの文具はシリーズ名を「EX-(エクス)」という。EXには英語で「元○○」の意味があり、例えば「EX BOSS」なら「元上司」を指すそうだ。
EX-の文具は、何十年と使われてきた業務用の定番品から、特徴的な書式やロゴなどのグラフィックを取り去って製品化したもの。それがEX-というシリーズ名の由来である。色づかいや構造、材質などは元のまま、書式やロゴをなくすという引き算のデザインを施すことで、業務用として培われた機能性と品質の高さを維持しつつ、製品に新しい魅力や用途が備わることを期待されている。
企画とデザインを手掛けたのは佐々木拓さん。コクヨ株式会社内のクリエイティブチームであるヨハクデザインスタジオに所属するアートディレクター兼プロダクトデザイナーだ。
「売り文句としては “ふだん当たり前で気に留めることのなかった道具の本質が浮かび上がる”という言い方をしていますが、見慣れたグラフィックを消し去ることで、かえってその製品のアイデンティティーが際立つ場合があります。それを製品の魅力にしようと思いながらアイテムを厳選し、デザインを進めました」(佐々木さん)
その意図が最もよく反映されているのが、「EX-GUEST CHECK BOOK」だ。これはカフェやレストランで注文をとるときに使用する「お会計伝票」を原形としてリ・デザインしたものであり、製本クロス、表紙、中ページに、それぞれ色合いの異なるグリーンが用いられている。しかし、このように色彩学の法則性によらず、任意で少しずつ色相(色味)を変えた配色は調和しにくいとされている。
「新しく製品をデザインするとしたら、この配色を採用することはまずないと思います。だけど、 EX-ではその微妙な配色が製品の個性として活きている。一方で、機能性はよく練られていて、左上に空いた穴は本来、伝票をレジ横のホルダーに引っ掛けるためで、伝票部分に薄い紙を使っているのはページをちぎりやすくするためだと思いますが、どちらも家庭に持ちこんでも便利に使えそうですよね。個性的な配色とあいまって、機能性とかわいらしさ、どちらも感じてもらえる製品になったと思います」(佐々木さん)
グラフィックを消し去ることで、製品が使われる場面を業務用途に限定せず、家庭をはじめとしたさまざまなシーンに広げたいというのも、EX-の企画当初からの意図だった。
「過剰に使い手に寄り添ってデザインをあれこれ足すより、モノがもっている力強さを活かして、使い手が工夫できる余地を残したいのです。EX-シリーズはアイテムによって文字を箔押ししたり、クリップを付けたりするカスタマイズができるので、今後はカスタマイズのしかたを伝える場を設けるなど、使う人が工夫して製品を楽しむきっかけ作りも行っていきたいと思います」と、佐々木さん。
特に人気のあるカスタマイズは自分の名前を箔押しするサービスだという。使い方やカスタマイズ法をあれこれ考え、気軽に実行に移せるのも、EX-シリーズが身近な素材である「紙」でできていることと無縁ではないだろう。
モノの本質、言い換えれば紙の本質が浮かび上がるEX-シリーズは、「あなたはこの紙を何に使いますか?」と、ときには無邪気に、ときには真剣に問いかけてくるようでもある。長い間、紙の文具を使い続けてきた私たちは、その答えを考える楽しさをよく知っているのではないだろうか。
ライター 石田 純子
このコラムに掲載されている文章、画像の転用・複製はお断りしています。
なお、当ウェブサイト全体のご利用については、こちら をご覧ください。
OVOL LOOP記載の情報は、発表日現在の情報です。
予告なしに変更される可能性もありますので、あらかじめご了承ください
日本紙パルプ商事 広報課 TEL 03-5548-4026