木ではなく竹から作られた紙でできたノートがある。
竹の成長の早さに着目した原料調達法かと思いきや、
その陰には竹の産地で切望される
「日本の里山の原風景を取り戻したい」という壮大な夢があった。
紙は木から作られるもの――そんな常識をくつがえすのが、100%国産の竹で作られた「竹紙」、そして竹紙ノートである。木材の代わりに竹をチップにしてパルプを作り、それを一般的な紙と同じ抄紙機に通して紙にする。
できあがった竹紙は触れると適度なコシがあり、原料の色をそのまま生かした薄茶色が、時を経て飴色になった竹細工の品々を連想させる。もちろん、一般の印刷・筆記用紙と同じように扱える。
竹紙を開発した中越パルプ工業株式会社(東京都中央区)によれば、竹から紙を作るというユニークな発想が生まれたのは、増加しつつある放置竹林の問題を解決したかったからだという。
「当社の工場の一つが、鹿児島県の薩摩川内市にあるのですが、鹿児島県は竹林が多くタケノコの産地として有名です。ですが、近年は竹製品の需要の減少や人口の流出によって、竹林が整備されず荒れたままになっているのが目立つようになってきました。しかしそのまま放置しておくと、繁殖力の強い竹林が周辺の森林を侵食してしまい、環境保全上よくない。この地に拠点を置く企業として、何かできないかと考えたのが発端です」(中越パルプ工業営業企画部長・西村修さん)
そこで同社の事業である紙の製造に「竹」を組み込む試みが始まった。目的は適度な間伐を行うことで竹林の活性化を図るとともに、その事業を経済的にも軌道に乗せて持続可能なサイクルにすることである。
しかしその実現にあたっては苦労も多かった。木材と比べて硬い竹は、チップ化に手間がかかるうえ空洞が多く運搬効率に劣る。各農家でそれぞれ所有している竹林の竹をどのように集めるかという集荷システム作りも課題となった。
結局、農家側で自前の軽トラックに収穫した竹を積み、集荷所にめいめい運んでもらうというやり方に落ち着いた。
「竹を提供してもらうのは農家の方からみて特別ワリのいい仕事ではありません。また、当社も竹のチップ化など、木材よりコスト高でもあえて実施していることもあります。しかしそれでも続けていけるのは、定期的に間伐を行うことで荒れた竹林が蘇り、昔のような美しい景観が戻りつつあるのを実感できるからではないでしょうか」(西村さん)
身近な竹林から竹を調達して紙を作る試みは、初めは鹿児島県内のみだったが、その後九州全域、鳥取にも広がっている。竹を有効活用することで竹林の整備を進めるという考え方は、竹と共に生活してきた人々にとって、受け入れやすいのだろう。
このような取り組みは1998年から行われているが、さらに多くの人たちに竹紙の存在を知ってもらうため、最近になって中越パルプ工業は、日本紙パルプ商事のグループ会社、株式会社ヤマト(東京都中央区)とともに竹紙ノートを商品化した。同社は、紙卸商のネットワークを生かし有名文具店等へ販売、新ビジネスにも積極的に挑戦している。店頭では、脇に添えられたPOPを見て竹紙の意義を知る人も多く、環境保全に関心の高いお客様のほか、外国人観光客がおみやげとして購入する姿もみられるという。
日本の竹を使い、地域のつながりの中で作られる竹の紙は、目新しさだけでなく、そこに包含されるメッセージとともに、人々に温かく迎え入れられているようだ。
ライター 石田 純子
このコラムに掲載されている文章、画像の転用・複製はお断りしています。
なお、当ウェブサイト全体のご利用については、こちら をご覧ください。
OVOL LOOP記載の情報は、発表日現在の情報です。予告なしに変更される可能性もありますので、あらかじめご了承ください
日本紙パルプ商事 広報課 TEL 03-5548-4026