身の回りの紙を丁寧に扱い、繰り返し利用する。
それはかつて日本で当たり前に行われていたこと。
そんな古い習慣を発掘し、
現代の暮らしに合うように再構築した紙の雑貨が現れた。
ちりめんのような皺と光沢をもちながら、いままでにない柔らかくもコシのある質感。ペンケースやポーチに加工されているこの素材が、布ではなく、合成素材でもなく、「紙」だと聞けば、たいていの人は驚くのではないだろうか。
紙を手で揉んでから糊を塗り、乾かしてまた糊を塗る。それを繰り返すと、ありふれた紙に、手に馴染む柔らかさと日用品として使える耐久性が備わる。その揉み紙を素材とするブランド「OKIMAK(おきまく)」は、2011年にベクトカルチャー株式会社(東京都中央区)からリリースされた。モダンな表情とどことなく懐かしい風合いを合わせ持つ素材だが、そのルーツは日本古来の「紙衣(かみこ・紙でできた衣類)」にあるという。
アイデアの原形は、ベクトカルチャー取締役でデザイナーの伊藤太一さんが同社の起業前に作り上げた。いつの間にかたまってしまう紙袋を再利用する方法はないかと考えていたとき、ネット検索で紙衣のことを知り、製法を調べて工夫しながら自分で試したのが始まりだった。
「使い捨てではなく長く使え、今まで誰もやってないこと。それらを満たすものを探すうち、紙に糊を塗って強度をもたせ、再利用を可能にした紙衣に行き着きました。商品化にあたって、ブランド名はKAMIKOを逆さ読みしたOKIMAKにし、和紙だけでなく洋紙や段ボール、企業とのコラボでロゴ入りの紙袋も取り入れるなど、いろいろ試して今の時代に合うものを生み出すようにしています」(伊藤さん)
材料の紙は既製のものを使うが、紙揉みや糊の塗布、縫製などはすべて人の手で行い、少量生産ならではの多彩な商品展開を行っている。一方で、今後は機械生産を取り入れたアイテムも構想しており、商品ラインを「手作り」と「機械生産」の2軸で展開していきたいという。
最近では、手作りの面白さや紙の意外性を体験してもらおうと、紙揉みのワークショップを行った。参加者は思ったより力のいる紙揉みにとまどいながらも、「まるで子供に返ったよう」と、その工程を楽しんでいたという。こうした体験型イベントに込めた自身の思いを、同社代表取締役の山本宏明さんは次のように説明する。
「2011年にこの会社を設立し、以来『人・もの・ことの可能性を追求する』のを理念としてきました。ワークショップでは、紙を揉むという体験や、揉むことで変化していく紙の様子を実感することで、紙に対する見方が変わり、視野を広げた人もいるのではないかと思います。常識にとらわれず、自分自身のものの見方や考え方を深めるきっかけになればいいと思っています」(山本さん)
どうやらOKIMAKの最終目標は「買ってもらう」だけではなく、むしろ「ものを作る人と使う人の関係を築く」「ものを媒介にして考えを深め、楽しさを見出す機会を作る」ことにあるようだ。今後は海外販売も視野に入れ、日本の文化を発信するものとしてもOKIMAKを広めていきたいという。
日本の文化に根ざし、誰もが安心感と親しみをもって触れることができる。紙のそんな特徴が、紙衣の現代版となるこの製品の展開を、より多面的なものへと導いている。
ライター 石田 純子
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