おとぎ話の世界に迷い込んだのかと思わせる大輪の紙の花々。その美しさに惹かれて手づくりを始め、「創造の喜び」に目覚める人があとを絶たない。可憐な姿の花々には、地震からの復興を目指す決意と、事業拡大の大きな夢が込められていた。
大輪の紙の花は「スーパーフラワー」という。もともと花の手づくりキットとして開発され、完成した花を店舗ディスプレイや写真撮影用のデコレーションに用いたところ、インパクトの強さとディテールまで美しいその姿が話題となり、SNSや口コミで一気に広まった。
スーパーフラワーを生み出したのは、熊本の女性起業家集団、一般社団法人スーパーウーマンプロジェクト(以下、SWP)と、洋紙や文具の販売を手がける熊本市発祥の企業、株式会社レイメイ藤井である。
両社は2017年に開催されたビジネスプランコンテストで出会った。前年の熊本地震によって経済的にも大打撃を受けたSWPメンバーの、「助成金や補助金で一時しのぎをするのではなく、県外にも進出して仕事を受注し、永続的な経済復興につなげたい」という意志を、コンテストの協賛企業であるレイメイ藤井が受け止めたのが始まりである。
さっそくレイメイ藤井が自社のオンラインショップ構築をSWPに依頼したところ、SWP代表理事の宮田幸子さんから、「紙をそのまま売るだけでは競争力に欠ける。他社にない付加価値をもった商品が必要では」との返事が返ってきた。Webサイト制作者として長年仕事をしてきた宮田さんの経験にもとづく意見である。
それを受けて一同が企画を出し合う中、多くのメンバーの賛同を得たアイデアが「紙で大輪の花をつくれるキットをオンラインショップで販売すること」だった。すぐに開発がスタートし、キット化する花々のデザインが次々と決まっていった。
目標としたのは、間近で見ても美しいと思えるクオリティの高い仕上がりにすること。スーパーフラワーの開発中に見かけた、海外生産の写真撮影用の紙製デコレーションが、写真映えはするものの、じかに目にするとディテールが粗く、用途が限られてしまうのが気になったからである。
そのために花のフォルムを整えることはもちろん、紙選びにも手間を掛けた。レイメイ藤井が持つ紙の知識をフル活用して、それぞれの花に使用する紙の色や質感を吟味し、花の種類によって色はもちろん、紙の銘柄も変えるというこだわりようだ。
手作りキットの完成後、スーパーフラワーはまたたく間に人気となり、ディスプレイ活用や個人客への物販用などとしても安定した受注を得るようになる。さらに、当初の予想を超える広がりも生まれた。
何度か開催したスーパーフラワー制作のワークショップが好評であったことから、定期開催で始めた手づくり教室が拡大し、地元・熊本を皮切りに、鹿児島、福岡、大分でも教室を開講することになったのである。
教室ではキットを用いた花づくりを趣味として習う人から、インストラクターを目指す人までそれぞれに向けたコースを設け、インストラクター養成コースには紙の知識を学ぶ座学も組み込んだ。紙を折る・カールさせるといった加工を施す上で、紙の目や厚さ、コシなどへの理解が不可欠だからだ。
「紙の知識があれば、他の人に自信をもって教えられるし、オリジナルの花を自分で考案するときも役立ちます。現在インストラクターを務める人の中には、長い間主婦をしていて名刺も持ったことがなかったけど、スーパーフラワーを教え始めてから県外出張までこなすようになった人もいます。紙の扱いに習熟することは、個人の自信と自立につながる重要なステップなのです」(宮田さん)
講座の受講者には医療や介護に携わる人も少なくない。リハビリなどに従事する理学療法士の受講者は、半身が麻痺した患者のために「片手でつくれるスーパーフラワー」を考案したという。誰もが目を見張る美しい花を自らの手で生み出し、周囲から褒められることで喜びが増す。障害を負ったことで損なわれがちな自尊心が満たされ、心のケアに役立つからだ。
コロナ禍がひと頃よりも沈静化した2022年初夏には、大阪と東京でも相次いで講座を開講した。また、ディスプレイ事業も順調で、東京・銀座にある百貨店の売り場ディスプレイが、今後スーパーフラワーで継続的に彩られることも決まったという。
「講座が大阪・東京への進出を果たし、銀座の百貨店のディスプレイにも採用されて、まさに夢が叶ったという気持ち。ここまできたら、いっそ次は海外進出を目指したいです」と宮田さん。
地震からの復興という重大なテーマを背負って生まれた紙の花が、つくり手を新しい世界へといざなう。美しい紙の花が切り拓く道は、おとぎ話の世界だけでなく、希望に満ちた現実にもつながっていた。
ライター 石田 純子
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