オーダー品とは言わないまでも、ありきたりでない個性的な実用品が欲しい。
そんな望みを叶える「苗字封筒」が話題を呼んでいる。
12種類の苗字パターンを揃えたお札サイズの封筒は、
伝統的な和紙と洒落の利いた図柄の組み合わせが新鮮だ。
イニシャルを刺繍したシャツのように、「自分のもの」と一目でわかる印のついた品は、所有欲をくすぐる何かがある。普段使いの小物でも、そこに自分の苗字が丁寧にデザインされていたら、きっと愛着がわくに違いない。
そんなふうに思わせるのが、この「苗字封筒」だ。
柄は全部で12種類。それぞれ「佐藤」「田中」など、日本人に多い苗字をモチーフにしている。「鈴木」なら鈴が木になっている様子を図案化し、「山田」なら「山」と「田」の漢字を地紋風に並べてブランドアイコンのようにアレンジしたりと、洒落の利いたデザインが楽しい。
この苗字封筒は、和紙の産地として知られる富山県八尾町(やつおまち)にある有限会社桂樹舎が製造販売を行っている。この地で産する八尾和紙は、江戸時代に薬包紙や膏薬紙、あるいは薬売りが使う鞄の素材などとして発展した。丈夫で色鮮やかな染め紙も多く漉かれ、当時から袋ものや貼り箱などの工芸品への加工に積極的だったという。
苗字封筒も、もちろんその八尾和紙から作られている。丈夫で繰り返し使えるので、知人同士のお金の受け渡しなどに利用すると便利だ。苗字に合わせた封筒を使えば、「これは○○さんから受け取った」という目印になり、実用性も実感できる。
企画とデザインを行ったのは、有限会社スタイルY2インターナショナル(東京都渋谷区)の有井ゆまさん・ユカさん姉妹である。
カレンダーや貼り箱などの和紙小物を主力製品とする桂樹舎からの依頼は、「従来と異なる商品で新しい顧客を掴みたい」というものだった。それを受けて、「紙製品や文具の店だけでなく、例えば洋服やバッグを扱うセレクトショップに置いてもお客の目に留まるような商品」を目指した。そのためにはサイズの小さな紙製品を、店頭で埋没させないことが重要になる。
そこで導き出されたのが「SNS(フェイスブックやツイッターなどのソーシャルネットワーク)で拡散しやすい商品」だった。
なるほど、苗字をアレンジしたカラフルな封筒は、小さな画像でも「面白そう」と目に留まり、話のたねになりやすい。
「SNSでの予備知識があれば、店頭で見かけたときに素通りせず、『あ、これ見たことある』と気づくはず。それが商品を手にとってもらう第一歩になると考えました」と、有井ゆまさんは説明する。
その思惑は的を射ていたと見え、2012年の発売後は売れ行きも好調、メディアにたびたび登場する桂樹舎のヒット商品となった。最近ではネットを利用した共同購入の仕組みを導入し、要望の多い苗字を新たにデザインして苗字封筒のラインナップに加える企画も進行中だ。
伝統の中に現代に生きる人のニーズを取り込み、生活に役立つ「紙の良さ・面白さ」を実感させる。それは作る人にとっても、使う人にとっても、有益で楽しい試みに違いない。
ライター 石田 純子
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