数字の目盛りではなく、色で寒暖を表してみたら……?
そんなアイデアを形にした温度計がある。
木の葉を模した紙でわかりやすく温度を知らせる仕組みは
さりげなくエコロジーを促そうという発想から生まれたものだった。
樹木から摘み取った青葉のような、あるいは枯れた落ち葉を拾い上げたような、何ともリアルな木の葉である。間近で見れば紙製だとわかるものの、細かな陰影で再現された葉脈といい、自然な緑色のグラデーションといい、フェイクの一言で片付けるにはしのびない仕上がりだ。
葉っぱの色が少しずつ違うのは、それだけ種類があるのではなく、周囲の温度によって色が変わるから。そう、これは木の葉の形をした紙の温度計なのである。温度が低ければ枯葉のような焦げ茶色、20~25℃の適温ではきれいな緑色、それを超えると秋の紅葉のような黄色へと徐々に変わっていく。数字ではなく直感的に気温を教えてくれるアナログさが、かえって新鮮に見える。
1枚でももちろん機能は果たすが、壁に何枚も貼り付けて壁面装飾のように使っても面白い。裏に再剥離できるシールがついているので、模様替えも簡単だ。
デザインしたのは株式会社T3デザイン(東京都渋谷区)の熊谷英之さん。2011年の東日本大震災の後、節電志向が強まる中で、何か役に立つものができないかと考えたのがきっかけだった。
「室内の空調が効きすぎていることってありますよね。夏なのに寒すぎる、あるいは冬なのに暑すぎるとか。節電を機にそのギャップを解決する方法を提示しようと思いました。気温を視覚化して、おのずと室温に意識が向くようにできれば近道なのですが、既存の温度計のように数字できっちり表されるものを部屋の中に置くのがあまり好きではないんですね。それでもっと感覚的に気温がわかる仕組みをつくってみようと思ったんです」(熊谷さん)
そこで温度によって色の変わるサーモインキを利用した紙の温度計のアイデアを思いついた。最初は一定の温度になると、花の絵が現れたり消えたりするパターンも考えたが、いろいろ検討するうちに、木の葉の色の移り変わりを再現するスタイルに落ち着いた。
「色の変化が自然に見えるようにするのがいちばん難しかったです。サーモインキを扱っている印刷会社数社から見本を見せてもらいましたが、どうも発色がよくない。何社か当たってようやくイメージに近いインキを扱っている会社を探し出しました」(熊谷さん)
印刷にあたってはインキの種類だけではなく、色の見え方にも注意を払っている。木の葉の焦げ茶、緑、黄色の階調が滑らかなグラデーションになるように、熊谷さん自身がパソコン上で何度もシミュレーションを繰り返し、適したインキの組み合わせ方を考え出した。
苦心した甲斐あって、出来上がった温度計「Leaf」は、少しの温度変化にも忠実に反応する。一枚の葉の中でも、エアコンの風が当たる側や、日射しを受けた側から徐々に色が変わるので、本物の木の葉さながらのリアルな色ムラが表れる。
ちなみに熊谷さんの同僚は、室温の目安としてパソコンのフレームにちょこんと1枚貼り付けて使っている人が多いそうだ。
「パソコンの放熱に反応するので、本来の室温より高めに出てしまうんですけどね(笑)」と、熊谷さん。
また、紙でできているため、メッセージを一言書き込んでカード代わりに使う人もいるという。
気負わず人それぞれで自由な使い方ができるのも、紙の気軽さゆえだろうか。オフィスのところどころに貼られた紙の温度計は、無機質になりがちな空間に潤いをもたらし、エコロジーにもさりげなく貢献してくれることだろう。
ライター 石田 純子
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