広い会場にさまざまな商材を一同に集めて展示する見本市。
そこではときに、ハッとするような展示空間に出合うことがある。
なかでも紙を使ったブースは、親しみと意外性が同居する面白さがある。
ありそうでなかった、広い空間を魅力的に見せる紙の新しい使い方とは?
2013年に東京・台場で開催されたインテリアの見本市「インテリアライフスタイル展」。そこでひときわ注目を集めたのが、特別展示の「ジャパンスタイル」だった。巨大なテントのような構造で、放射状に張りめぐらされた色とりどりのテープの向こうに、さまざまな展示品と行き交う人々が透けて見える。その躍動感に満ちた空間は、東日本大震災を経て徐々に元気を取り戻し始めた日本の今後を示唆するかのようであった。
この展示空間をデザインしたのは、インテリアデザイナーの橋本夕紀夫さんである。「スーパーエンニチ」というテーマのもと、縁日の楽しさとにぎわいを表現したという。
素材として用いたのは織布(しょくふ)バンドという、米袋を結ぶのに使われる紙製のひも。きわめて丈夫で、手芸材料にも転用されるため、カラーバリエーションが豊富なのが特徴だ。それを金属製のフレームに張って、空間を構成していった。
「構想段階ではにぎやかな印象にするためカラフルにしたいと思う半面、大きな面積に強い色を使うのは難しいとも感じていました。しかしテープ状の紙であれば、隙間を空けて張っていくことで軽やかさも出せるし、テープ同士の色の重なり、あるいはテープと床の色の重なりによって、深みが出せる。10色以上の紙テープを使いましたが、うまく調和させることができました」(橋本さん)
ところで、橋本さんが展示空間の主素材に紙を用いたのはこれが初めてではない。
2009年のインテリアライフスタイル展では、出展社の一つ、日本各地の伝統産品を扱うブランド「YOnoBI(用の美)」の展示ブースをデザインしている。そこで展示された数々の商品とともに、見る人に強いインパクトを与えたのが、白い紙で覆われた巨大な行燈(あんどん)のような展示空間であった。紙という素材特有の温かみ、そしてランダムに空いた隙間からもれる光が美しい、幻想的なブースである。
このときは「紙吹雪が舞い散る瞬間を切り取ったようなイメージ」を元に発想を広げていったという。
「各地の伝統産品を扱うYOnoBIのブランドコンセプトに合わせ、テーマは『日本』にしようと決めていました。しかし、ありきたりのイメージを踏襲するのでは面白くないので、日本的な『現象』を元にして新しい形を作ってみようと。そこでコンサートホールや結婚式で見かける、紙吹雪が舞い散る瞬間をデザインに反映させることにしたのです」(橋本さん)
紙吹雪のイメージは、10センチ四方ほどの紙片を隙間を空けてつなぎ、シート状にすることで表現している。施工は手作業で、急遽集められたパート主婦たちが紙片をホチキスでパチンパチンと留める人海戦術で進められた。そのいわば「素人の手作業」が幸いし、手仕事のニュアンスが残る味わい豊かなブースになった。見本市会場での公開はわずか3日間ほどであったが、その間多くの人々の目に触れ、記憶に残ったに違いない。
「恒久的な建物ではないからこそ、思い切った空間を作りたいと考えたとき、それに応えてくれる素材の一つが紙ではないかと思います。インテリアの中で使われる紙というと、照明のシェードや障子などが主で、応用範囲が限定されているように感じますが、そうした固定観念をいったん取り払ってみれば、可能性はもっともっと広がるはず。紙で空間を丸ごと作ってしまうことだってできるかもしれません」(橋本さん)
日々当たり前のように触れている紙も、こうして大きな空間に使われているのを目の当たりにすると、その見え方が違ってくる。慣れ親しんだ紙の新たな価値に気づかせてくれるクリエイションに再び出合う日は、そう遠くないのかもしれない。
ライター 石田 純子
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