「鳴子のマッチ箱」、「気仙沼のマッチ箱」……
箱にはそう書かれているけれど、中に収められているのは
マッチではなく、観光用の小さなガイドブック。
思わず「かわいい!」と声の上がりそうなグッズ誕生のいきさつを、企画者に聞いた。
マッチ箱のような小さな箱に入っているのは、宮城県内の見どころを紹介する、これまた小さなガイドブック。同封されたこけしの付箋やカラフルな紙製クリップのかわいらしさが、旅の気分をいっそう盛り上げる。
このミニガイドは「マッチ箱マガジン」といい、2012年12月に宮城県のこけしの産地を取り上げた「鳴子」「作並」「秋保」「遠刈田」「白石」の5種類が発売された。翌年、第2弾となる海沿いの街をテーマにした「気仙沼」「南三陸町」「石巻」「松島」「しおがま」の5種類が加わり、計10種類が発売されている。
企画したのは仙台市内に住む佐々木英明さんである。創業80年を越える老舗、株式会社佐々木印刷所の代表取締役という肩書きをもつ一方で、マッチ箱の収集を趣味にしており、グッズとしてのマッチ箱の面白さに魅了されてもいた。 2011年の東日本大震災に見舞われてからは、多大な被害を受けた地域の復興に向け、マッチ箱の中に宮城県を紹介できるものを入れて商品化することを検討し始めた。それがこのマッチ箱マガジンである。 10種類の商品のデザインは県内在住のイラストレーター6人が手分けして担当し、一人一人が実際に各地へ出向いて、これはと思う情報をピックアップしてルポ風に綴っている。
「一般的なガイドブックには出ていないような、えっ、こんなところがあるの?という情報が載っていたりするんです」と佐々木さんが言うように、情報はピンポイントで深く掘り下げた感がある。書き手自身が体感し、心に残った出来事を取り上げているだけに、おのずと地域への愛着がにじみ出ているところが微笑ましい。
内容の執筆とイラストを各イラストレーターに託す一方で、全体の構成について佐々木さんが心がけたのが、「手作りのアナログ感を残すこと」だった。印刷には機械を使用しているが、ミニガイドのジャバラ折りやマッチ箱の組み立ては人の手で行っている。とくにファイバー素材の紙製クリップは、打ち抜きの柄が細かいため、レーザーカットを行った後に残る余分な紙片をようじで丁寧に取り除き、焼けこげを水で洗い落としてから乾燥させて、改めて検品するという手間のかかる工程を踏んでいる。
「何でもデジタルで制御するのが主流になっているなかで、時代に逆行するような製造法です。でもそこにアナログならではの良さを感じてもらえればうれしい」と佐々木さん。
その言葉通り、このマッチ箱マガジンからは、よくできた工作のような素朴さが感じられる。購入者は20~30代の女性が大半を占めるが、その風合いゆえか、「使うのがもったいない」という声も聞こえてくるそうだ。
また、第2弾の制作時には、とくに被害の大きかった沿岸部をテーマにしたこともあり、地域の観光協会や住民にも話を聞いて、地域の人々と一緒に内容を作り上げていくことを大切にしながら制作を進めた。完成後は仙台市内のショップをはじめ、現地の商店街や観光地などで販売されているが、注目度は高く、発売早々に初刷り分が完売した商品もある。
この一連の試みは「マッチ箱マガジンプロジェクト」として、日本の代表的なデザイン評価制度であるグッドデザイン賞に応募し、2013年度の受賞作品に選出された。制作や販売を通じて地域の住民や商店街などと交流し、協力しながら地域振興に向けて行動した結果が、栄誉ある賞の受賞に結びついた形だ。
「いちばんうれしいのは、こういった商品があることを知って、いろんな人が見に来てくれること。被害を受けた地域を、みなさんが気に掛けてくれている証しだと思います」と佐々木さん。
小さな紙の箱に入った地域ガイドが、遠く離れた人同士の意識をやわらかく結びつけている。
ライター 石田 純子
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