室内の壁に貼って楽しむステッカーが注目を集めている。
特別な道具やテクニックがいらず、
簡単に模様替えできるのが人気の理由のようだ。
その多くは樹脂製だが、素材に紙を使用したステッカーも現れている。
壁に貼るステッカーは手軽なインテリア用品として人気があり、ここ1、2年でサイズや色柄のバリエーションがぐっと豊富になった。場所を取らず、落下や破損の心配もないので、子どものいる家庭などでも安心して使える。
その多くはポリプロピレンなどの樹脂シートに図柄を印刷し、裏面をシールにして貼り付ける仕様だが、なかには紙を主素材とした製品もある。
オフィス・シード(東京都練馬区)で企画・販売している「五味太郎 ウォールデコ」シリーズがそうで、起毛紙という、植毛によってビロードのような風合いをもたせた特殊な紙を用い、絵本作家の五味太郎さんが描き下ろした絵をステッカーにした。裏は再剥離が可能な吸着シートになっているので、一度貼ったものを剥がして別の場所に貼り直すこともできる。
手軽で安全、貼り直しができるといった便利さもさることながら、その魅力はなんといっても、ペンの筆致をそのまま写し取ったような素朴な輪郭線だろう。原画のディテールを忠実に再現した形状が、柔らかな起毛紙の感触と相まって、有機的な表情を醸し出す。五味さんの絵を知り尽くすファンを満足させ、また、そうでない人にも絵の魅力を存分に伝えてくれるに違いない。
この製品の製造を担当した東京紙器株式会社(埼玉県新座市)は、紙の打ち抜き加工で定評があり、これまでにも繊細な打ち抜きを施した紙製品を次々と世に送り出してきた。この製品ではオフィス・シード代表の奥田一紀さんから相談を受けて、起毛紙をレーザーカッターで打ち抜くという製造方法を、東京紙器代表取締役の山田俊也さんが提案した。
もちろんそこには難しさもある。レーザーカッターは制御を適切に行うことで、極めて細かな図柄が打ち抜ける機械だが、熱で「焼き切る」という工程上、打ち抜く素材が溶けたり焦げ付いたりする場合がある。この製品では起毛紙の裏に吸着シートを貼り合わせているため、裏面の吸着シートに含まれる樹脂成分が溶けてベタついたところに、表面の起毛紙が焦げて生じるススが付着するという問題が生じた。レーザーカッターではなく金属の型を使って打ち抜く製造方法に変えれば解決するが、それでは輪郭線のディテールが損なわれてしまう。
この製品では一にも二にも原画の再現性を重視して、レーザーカッター使用という方針は変更せず、付着したススを手作業で一つ一つ拭き取るという手間をかけて、ようやく製品化にこぎ着けた。
このような過程を経て出来上がった「ウォールデコ」は、大型書店やネットショップなどで、2013年9月から販売されている。発売後はとくに20~30代の女性に好評で、味わいのある絵柄や起毛紙独特の温かみのある風合いにより、機械的な印象を与える他の壁用ステッカーとはまったく異なる、独自の市場で認知されている様子がうかがえる。今後は大型サイズの製品展開も予定されているという。
また、描き下ろした作品を東京紙器に託した五味さん自身もその仕上がりに満足し、アトリエの壁に貼っているそうだ。
ほんの一手間かけるだけで自分を取り巻く環境がみちがえ、楽しく豊かな気分になれる。さりげない紙のインテリアは、そんな満ち足りた時間を与えてくれそうだ。
ライター 石田 純子
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