災害や停電の備えで真っ先にリストアップされるのが、懐中電灯に代表される「明かり」である。ここで紹介する紙製のランタンは、手持ちの懐中電灯を非常時の実状に即した明かりに変えようというもの。構造体を紙にすることで、持ち出しやすさなどさまざまなメリットが備わった。
このところの自然災害や停電の多発は「災害への備え」を否が応でも意識させる。防災グッズの筆頭に挙げられる懐中電灯は、LED光の直進性が強く、ろうそくやランタンのように周囲を照らすのには不向きで使いづらい場合があることが、被災経験者から指摘されている。
その使いづらさを克服し、拡散性のあるやわらかい光源をつくるのが「TOMORI AID」である。段ボール製の構造体に手持ちの懐中電灯をセットして、ポリプロピレン製のシェードと反射板を取り付けて使用する。上向きにした懐中電灯の光が反射板とシェードを透過する際に拡散し、ランタンのようなやわらかな光に変わるというものだ。
非常時だけでなく、アウトドアや日常の明かりとしても使えるこの紙製ランタンは、開発者自身の避難経験をもとにつくられた。
開発者でデザイナーの柳沢祐治さんは、東京と神奈川の境を流れる多摩川が2019年に氾濫した際、自宅からの避難を余儀なくされた。身を寄せた避難所で困ったのが、消灯後のトイレなどへの移動時に使用する明かりだった。持参したLEDの懐中電灯は照らす範囲が狭いわりにまぶしく、周囲に迷惑をかけるのではないかと気になったという。
「自宅にはランタンもありましたが、かさばるので持参しませんでした。懐中電灯を利用して簡易的に光を拡散させ、まぶしさを軽減してやわらかな光に変えられれば、ストレスなく明かりが使えるのに、と夜間の避難所で思いました」と、柳沢さん。
以前から、簡易ベッドに代表される災害用品と段ボール素材の相性の良さに着目していた柳沢さんは、自宅に戻るなり、さっそく段ボール製のランタンのデザインに着手する。市販の懐中電灯を段ボールのパーツで支える構造を基本として、アイデアをブラッシュアップしていく過程では、パートナーとなった加工会社のアドバイスが大いに参考になった。
当初は3ミリ厚で考えていた段ボールを1.5ミリ厚のものへと変更したのも、その加工会社のアドバイスによる。段ボールを薄くした方が中芯(波形の部分)の密度が高くなるので強度が増し、ぶつけたりしてもダメージを受けにくい。結果的に全体の形状もよりシャープに仕上がった。
デザインは配色やシェードの柄が異なる3パターンを揃え、使う人が好みに合わせて選び、非常時だけでなく日常でも使いやすいようにした。また、非常時の持ち出しやすさを考慮して、畳めばA4サイズの平面状におさまる設計とした。
完成したランタンは「TOMORI AID」と命名し、2020年3月にクラウドファンディングを通じて発売。その後も大手セレクトショップやオンラインショップなどでコンスタントに売り上げている。
2022年8月には、新たな試みとしてシェードを厚手のトレーシングペーパーに変えた製品もラインアップに加えた。使い手がシェードにクレヨンやマーカーで絵を描き、カスタマイズすることを想定している。
「実際に子供たちに絵を描いてもらったのですが、そのときのテンションの上がり具合がすごくて。好きな絵を描いてそれが明かりになることが楽しいんですね。楽しい経験が防災をについて考えるきっかけにもつながるので、トレーシングペーパータイプを加えたことで、また新しい可能性が開けていくと思います」(柳沢さん)
「防災」はもはや老若男女を問わず、日頃から心がけなくてはならないものとなった。やわらかな光を放つ紙のランタンは、日常と非常時をゆるくつなぎながら、防災意識を高めることにも役立っている。
ライター 石田 純子
このコラムに掲載されている文章、画像の転用・複製はお断りしています。
なお、当ウェブサイト全体のご利用については、こちらをご覧ください。
OVOL LOOP記載の情報は、発表日現在の情報です。
予告なしに変更される可能性もありますので、あらかじめご了承ください
日本紙パルプ商事 広報室 TEL 03-5548-4026