たくさんのカプセルの中からお目当てのグッズが出てくるかどうかを楽しむ「ガチャ」が人気だ。
そのガチャで、誰かが書いた手紙が受け取れるとしたら……?
ある喫茶店が始め、話題を集めている「手紙ガチャ」を紹介しよう。
東京都世田谷区にあるレトロなたたずまいの喫茶店「便箋喫茶」は、ドアを開けると赤いガチャの機械が出迎えてくれる。コインを投入し、つまみをひねって出てきたカプセルには番号の書かれた紙が入っており、番号に対応した手紙を店舗スタッフから受け取る仕組みだ。
手紙をもらう人はもちろん、書いた人も便箋喫茶のお客である。見知らぬ人同士が手紙を通じてつながるこのサービスは、「手紙ガチャ 一期一会」の名前で2023年7月に始めて以来、非常に好評だという。
手紙を受け取った人は、希望すれば店舗を仲介にして一度だけ返信することができ、返信は店舗を介して最初の差出人に届けられる。お互い本名すら明かさない一往復限りのやりとりだが、多くの人は返信することを選ぶそうだ。
「手紙ガチャに参加する人は年齢・性別・仕事など幅広いので、普段の生活でなかなか出会わないタイプの人同士が手紙を通じて意思疎通できる面白さがあります。書かれた文字や絵、選んだ便箋のデザインから、書き手の人柄を想像するのも楽しいようです」と説明するのは、店長の谷川さん。
便箋喫茶は、メールやSNSが通信手段の主流となる中で、「手紙を書く文化を残したい」との思いを抱いた昭和生まれのオーナー・奥迫将司さんが立ち上げた。
店内に無料で使える便箋や封筒を用意して2021年初頭にオープンし、その後、スタッフとして入店した谷川さんが便箋喫茶のコンセプトをSNSで発信したところ、共感をもって訪れるお客が急増した。
「SNSに慣れていても、心のどこかに手書きの文字を求める気持ちがあるのでしょうね。何かきっかけがあれば手紙を書いてみたいんだなって」と、谷川さん。中学生の頃にスマートフォンが普及した世代として、谷川さん自身も手紙を書くことから遠ざかっていただけに、その反響は新鮮だった。
店内には「手紙を書くきっかけづくり」の一つとして、無料で使えるさまざまな文具を用意している。カラフルなペンやマスキングテープ、封かんに使うシーリングワックスなど珍しい道具もあり、手紙を書きたくなる気持ちを後押ししている。
種類を入れ替えながら常時40種類ほどを揃えた便箋は、一般の文具店ではあまり見かけない、味わいのあるものが多い。中には、便箋喫茶の存在を知った愛好家が寄付してくれたものや、アーティストが自作したものも含まれており、ここにしかないレターセットを使って手紙が書けるのも魅力だ。
「お客様が使う便箋や封筒を用意する中で、紙の種類の多さに改めて驚かされました。色の微妙な違いや手触り、書き心地、デザインとの相性などをよくよく考えて紙を選び、便箋や封筒がつくられているのだと。手紙に興味をもつ人は文具マニアであることも多いので、そういった人にも満足してもらえるように、レターセットや筆記用具を選んでいます」(谷川さん)
そうした努力の甲斐あってリピーターも増え、最近では席が予約で埋まることも多い。
「2〜3人で来店し、おしゃべりするでもなく黙々と手紙を書くお客様もいらっしゃいます。他の人が書いているから自分も集中して書ける。喫茶店に集まった人たちがそれぞれ手紙に熱中しているのは、他店ではあまり見かけない光景ですが、そこがいいと思われているのかもしれません」(谷川さん)
手紙に思い入れのある人が一つの場所に集まり、また散っていく。ガチャの手紙を通して見知らぬ人同士が一期一会のやりとりを楽しむ。紙に託されたメッセージは人と人との淡い関係を紡ぎ、ちょっとしたときめきをもたらすファンタジーなのかもしれない。
ライター 石田 純子
このコラムに掲載されている文章、画像の転用・複製はお断りしています。
なお、当ウェブサイト全体のご利用については、こちら をご覧ください。
OVOL LOOP記載の情報は、発表日現在の情報です。
予告なしに変更される可能性もありますので、あらかじめご了承ください
日本紙パルプ商事 広報室 TEL 03-5548-4026