「地産地消」は食べ物に限った話ではない。
地域で発生した古紙を回収し、再生紙に仕立てて使う試みが、石川県内で進められている。
紙と石川県にゆかりのある各社が集い、現在進行形で取り組んでいるプロジェクトを紹介しよう。
「そもそもの発端は店舗サービスで発生するミスコピーなどの紙です。それを見るたびにもったいないと思い、モヤモヤしていました」と語るのは、松本由美子さん。キンコーズ・ジャパン株式会社事業推進グループの担当マネージャーである。
同社は都市部を中心とした国内各地に店舗を構え、顧客のビジネスニーズに即したサービスを展開している。中でもオンデマンド印刷サービスは需要が多く、そこでやむなく発生する反故紙は、顧客のビジネス文書という性質上、秘匿性を保ちながら処理する必要があるが、同社が付き合いのある再生紙工場(製紙工場)がある大阪近辺を除き、リサイクルできるルートが確立されていなかった。
かといって、各地の店舗でストックした古紙を大阪まで運ぶのは、輸送過程のCO2排出が懸念され、有効な手立てとはいえない。リサイクルルートの距離を縮めるには、地域ごとに古紙を回収し、その地で再生紙にして活用するルートを新たに作ればいいのではないか。
そのような「紙の地産地消」を構想し、条件に合う地域として松本さんが白羽の矢を立てたのが、石川県だった。
石川県にはキンコーズ・金沢尾山神社前店(金沢市)があるだけでなく、江戸末期創業で県内に幅広いネットワークをもつ紙卸商・株式会社中島商店(金沢市)、再生紙を得意とする製紙会社の中川製紙株式会社(白山市)がある。
さっそく松本さんは中島商店に声をかけ、環境事業部マネージャーの松田修さんに「紙の地産地消という夢物語」を語った。すると石川県内にオフィス用紙を対象にした、プロジェクトにうってつけの古紙回収ルートが確立していることが判明した。
古紙回収のルート、再生紙を製造できる製紙会社、県内屈指の紙卸商が揃い、松本さんが思い描く「夢物語」は一気に現実に近づく。
3社による「石川県 紙の地産地消プロジェクト」と称するこの試みは順調に進行し、石川県内の古紙を原料とするオリジナル再生紙が2023年11月に完成した。お披露目を兼ねて再生紙の名称の公募も行い、12月下旬に締め切った時点では全国から364点ものネーミング案が寄せられていた。
ところが2024年元日に能登半島地震が発生。多大な被害が発生する中、石川県内の各企業は地震の影響による混乱を免れることはできなかったが、「むしろこんなときだからこそ、プロジェクトを進めて地域経済の復興に貢献しよう」と、関係者は思いを新たにしたという。
1月に行われたオリジナル再生紙の名称選考では、伝統工芸品の「加賀八幡起上り」にちなんだ「おきあがみ」のネーミング案が、地震復興の願いに通じるとして注目を集め、満場一致で決定した。
この「おきあがみ」はキンコーズ・金沢尾山神社前店の印刷サービスに使用するほか、中島商店が中心となって販売会社を探し、情報用紙やパッケージ用紙として活用していくことが想定されている。また、売上金の一部を能登半島地震の被災地支援の義援金として寄付することも決定した。
「石川県は和菓子づくりの伝統があるので、菓子箱に『おきあがみ』を使用してもいいと思います。お土産などのインバウンド需要を通じて海外にも広めることができればいいですね」(松本さん)
「『おきあがみ』のロゴをつくろうという案も上がっています。ロゴと合わせて『石川県の古紙で作られたおきあがみです』の一文が用紙や紙製品に入っていれば、紙の成り立ちや紙に託した思いを知ってもらうことにつながりますから。今はデジタル化の時代ですが、五感で楽しめる紙の良さを改めて伝えることで、紙に触れる機会を増やし、素材としての良さに気づいてもらえればうれしいです。
今後は当社が主催する金沢ペーパーショウでも『おきあがみ』を展示するとともに、このような紙の持つチカラを発信していきたいと思います」(松田さん)
「おきあがみ」を手にし、その由来を知った人々はさまざまな思いを巡らせるだろう。
資源の循環、CO2排出抑制、地域への愛着、そして、予期せず起こった災害への支援……。
紙を通じたSDGsの実践が、いま新たな一歩を踏み出した。
ライター 石田 純子
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