多くの人でにぎわう展示会やイベントで、紐付きのビニールケースに入れた入場証を受け取り、首に掛けて入場したことはないだろうか。その入場証にケースを使わず、紐も含めすべて紙でつくり上げた製品が現れた。
紙だけでつくられた入場証「かみのぱす」は、2025年1月にリリースされた。QRコードや本人の肩書をプリントする入場カードはFSC認証紙、首から提げる紐はマニラ麻を原料とする紙糸、カードと紐をつなぐクリップは木材パルプ100%の生分解性素材でできている。
紙糸の原料となるマニラ麻は生長時に二酸化炭素を吸収する力が高く、紙のクリップ部分は弾力性と耐衝撃性に富み、使いやすさと環境への配慮を両立した仕様だ。
この「かみのぱす」を開発したのは株式会社システムフォワード(福島県いわき市)である。同社はクラウドシステムの構築を得意とするIT企業で、以前から主力製品の展示会受付システムとともに、来場者が身につける入場証を顧客に提供してきた。
そこで顧客、つまり展示会の主催者より数年前から寄せられていた要望が「SDGsを踏まえ、入場証を環境に配慮した仕様に変更してほしい」というものだった。
「そこでビニールケースをやめ、入場証をすべて紙でつくることを思いつきました。はじめは穴を開けた入場カードに必要事項をプリントして紐を通すスタイルを考えましたが、試しにやってみると、穴がプリンターに引っかかってプリントしづらかったり、紐を通すのに手間がかかることがわかりました。それでは列に並んだ来場者を待たせてしまうので、そうならないよう別の案を考えなくてはなりませんでした」(システムフォワード社長・大内一也さん)
入場証は来場者が持参したデータを元に、受付時にプリントする必要がある。混み合う受付カウンターで、手間をかけず「スピーディーに入場証を発行できる」のは、はずせない条件だった。
そこで思いついたのが、入場カードにあらかじめミシン目を入れ、プリント後に切り取って穴をつくり、紐付きのクリップを差し込む形だった。クリップに適した紙素材は難なく見つかり、「紙だけでできた入場証」は実現に一歩近づく。
しかし、意外に難航したのが首に掛ける「紙製の紐」であった。
「まず、和紙でできた紐を試してみましたが、思ったよりも硬く、首から提げるには不向きでした。その後に見つけた麻の紙糸は、ハリとコシがあり手触りもよかったのですが、ちょうど良い太さのものが見つかりませんでした。最終的に、紙糸の製造会社から提案された、マニラ麻の紙糸を3本撚り合わせた紐を採用することにしました」(大内さん)
その紐を採用して完成させた「かみのぱす」は非常に好評で、もともとの目的であった「環境負荷の低減」を達成しただけでなく、事後に回収した入場証の分別処理を容易にするという副次効果も生んだ。
というのも、入場カードは個人情報が含まれるため、本来は本人が持ち帰り、ビニールケースだけを会場に置かれた回収ボックスに戻すことが推奨されているが、入場カードが入ったままのビニールケースを回収ボックスに戻す来場者が少なくないため、主催者側でケースと入場カードを分別し、個人情報保護のために使用済みの入場カードを溶解処理していたという事情がある。
入場証をすべて紙にしたことで、主催者側はこうした手間から解放されたというわけだ。
紙だけでつくられた入場証はたたずまいが自然で、来場者も違和感なく使用できているようだ。その様子を目にした大内さんは「そこはかとないスマートさを感じました。ぜひ『かみのぱす』を、今後の入場証のスタンダードにしていきたい」と、力を込める。
ユーザーが違和感なく使用でき、スマートに見えるのなら、製品デザインとしては大成功といえる。製品コストが従来のビニールケース仕様の入場証と同等であるというのも頼もしい。
現状では、受付スタッフがカードのミシン目を切り取るひと手間が課題となっており、受付作業の一層の短縮化が求められているが、それもいずれ解決されていくだろう。大内さんが望むように、『かみのぱす』が入場証のスタンダードになる日はそう遠くないのかもしれない。
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