張り子は日本各地に古くから伝わる民芸品である。
紙を張り重ねることで生まれる素朴な風合いが特徴で、
だるまや赤べこのような縁起物や郷土玩具として親しまれてきた。
それを「寄せ書き用」にアレンジした、張り子のニューウェーブが登場した。
型に紙を張り重ねて作る「張り子」は、平安期に中国からその製法が伝来したと言われている。よく知られるのは、だるまや赤べこ、起き上がりこぼしなどだが、ほかにも地域の文化や言い伝えに根ざしたさまざまな民芸品があり、今も広く親しまれている。
製法は、竹や木を組んで作った骨組みに紙を張り重ねて成形する方法や、木や金属の型に紙を張り重ねて乾かしてから、一部を切り離して型を取り出し、再び継ぎ合わせる方法がある。大きな産地では伝統品だけでなく、新作も作られているという。
その製法上、中空なので非常に軽く、落としても割れたりすることはない。また、紙という入手しやすい素材を使用しているため、産地は全国各地に散在し、だるまに墨で目を入れる風習があることからもわかるように、完成した後に文字や模様を書き加えるのに向いている。
その特徴を活かして商品化されたのが、「よせがき張子」である。「犬張子」と「招き猫」の2種類があり、どちらも見覚えのある民芸品のようだが、実際に既存の品と比べてみると、随所に細かなアレンジが加えられていることに気がつく。
例えば、全体のフォルムはカーブを緩やかにして平らに近づけてあるが、これは描きやすさに配慮してのこと。また、柄は少なめにして白地を多くとり、寄せ書きスペースを広めに確保してある。さらに招き猫の顔つきも伝統品よりシンプルにして、現代的な表情になるよう細かな調整が加えられている。
「伝統品のエッセンスを残しつつも、エンターテインメントとして気軽に楽しめる、かわいい張り子にしたいと思いました」と説明するのは、製造元の株式会社グリーンフラッシュの入江翠さんだ。入江さんは、この商品のデザインを取りまとめたクリエイティブディレクターである。
文具メーカーの同社では、郷土玩具をモチーフにした雑貨ブランド「わをもん」シリーズをラインアップしているが、このよせがき張子もそのひとつ。張り子に寄せ書きするというアイデアは、社内のブレーンストーミングから生まれた。
「寄せ書き」という、使う人が手を加える形態から発想しているため、商品企画の段階では、どこまでを使う人の手にゆだねるかについて、細部に至るまで検討が重ねられたという。
「例えば犬や猫の顔を描き入れずに、白いままの商品にする可能性もあったわけです。顔があった方がよければ、使う人が自分で描くという考え方ですね。ほかにも手足の柄一つ一つを入れるか入れないか、形状のカーブをどこまで緩くするかなど、かわいらしさと使いやすさのバランスには気を遣いました」(入江さん)
犬張子も招き猫も、どちらも手のひらに載る小ぶりのサイズだが、それは5,6人が寄せ書きできて、かつ部屋やデスクの上に飾ったときに圧迫感がない大きさとして導き出されたという。
そうした企画の過程を聞くと、卒業や引っ越しを控え、友達同士の結びつきを「寄せ書き」という形で残そうとする、若い世代の微笑ましい姿が連想される。
「普段から文具を扱っていて感じることですが、カスタマイズできたり、デコったりできるものって面白いし、人気が衰えることがないですよね。このよせがき張子も、自分で手を加えられる面白さや、寄せ書きした人を思い出させる手書き文字の温かさを、見るたびに感じてもらえるのではないでしょうか」(入江さん)
古くから伝わる張り子も、現代の暮らしに合わせてアレンジすれば、新しい表情が生まれる。そこにある人の願いや思いを記して残すという機能は、時代を超えて求められる紙ならではの役目なのだろう。
ライター 石田 純子
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