ジュエリーの素材といえば、宝石や金属を思い浮かべるが、「紙でジュエリーを作る」挑戦が始まっている。
金箔を使って紙にきらめきを与え、紙の色合いや素材感と調和させる。
そんな紙のジュエリーには、かつて見たことのない新しい美しさが備わっている。
ピアスにカフスボタン、指輪など、硬質な輝きをもつこれらのジュエリーは、すべて紙で作られている。何十枚もの紙を貼り合わせてキューブ状にしたり、紙片の一辺だけを貼り合わせて放射状に開いてみたり。紙を素材にしているだけに、カットや糊付け、くり抜きなどの加工も容易で、形状のバリエーションは豊富だ。
ひときわ目を引くのが、ピアスなどに形作られた紙の断面が、メタリックに光り輝いていること。これは「三方金」という、金箔を用いて手帳や辞書などのページの断裁面に金付けする手法によるものだ。三方金には美粧性を高めるだけでなく、紙をホコリや変質から守り、保存性を高める機能がある。
このジュエリーに使われているのは三方金の中でもとくに精度が高い、書籍のページに金付けをする技法である。そのため長期使用の可能性が広がり、仕上がりもなめらかで美しいものとなった。重なり合う紙とその断面の金色が、光の当て方や見る角度によってさまざまに表情を変えるのも面白い。
これらのジュエリーをデザインしたのは、原田元輝さんと横山徳さんの2人である。原田さんはプロダクトデザイナー、横山さんはグラフィックデザイナーという、いずれもジュエリーとは異なる分野をバックグランドに持つ。
「最初はシンプルな発想でした。聖書に金付けをする工場を見学した際、聖書1ページ1ページの断面に付けられたゴールドのきらびやかさと、束になったときの重量感が魅力的で、それを身につけるものにデザインし直せないか、と思ったのが始まりです。金付けの技術自体は古くからありますが、それを使って何か新しいものが作れそうな予感もありました」と、原田さん。
その後2人でアイデアを出し合い、いったんはインテリア小物なども検討したが、最終的には装身具の分野に絞り、製品のデザインに落とし込んでいった。
そして東京都が主催するコンペ「東京ビジネスデザインアワード」に応募したところ、みごと2016年度の最優秀賞を受賞する。その際に高く評価された理由の一つが「日本らしさ」だったという。和紙文化を下敷きとする日本の伝統美を、海外に発信できるポテンシャルが、この紙のジュエリーに秘められているというのである。
それを受けて原田さんと横山さんは、当初Paper Jewelryに由来する「pijoux(ピジュー)」としていたブランド名を、日本語の意味をもつ「IKUE(幾重)」に改めた。何層にも重ねた紙から醸し出される美しさを意識してのネーミングである。
製品は今年中の発売を目標に、今は着々と準備を進めているが、いずれはジュエリーに留まらず、インテリア小物の分野でも、金付けした紙を主素材とした製品をラインアップしていきたいという。
「紙に金付けする技術は長い間、書物や手帳の分野だけで使われていたそうです。それをジュエリーやインテリアのようなまったく異なる分野で展開し、製品として通用するように磨き上げていけば、工芸としてもアクセサリーとしても、新しいジャンルが生まれるのではないか。そんな可能性も感じています」と横山さん。
金付けした紙を使うという温故知新のアイデアが、製品として流通するのもそう遠い日のことではなさそうだ。そのときはぜひ、光や角度によってさまざまに移り変わるこの紙の表情を、自分の目で確かめてみてほしい。
ライター 石田 純子
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