近年、出版業界では「嵩高紙」と呼ばれる用紙が注目を集めています。「嵩高紙」とは、ひとことで言うと、従来の紙と比較して、紙繊維の密度が低く、軽い割りに厚みのある紙です。なぜ「嵩高紙」が注目を集めているのか、今回はその背景についてまとめました。
昨今、生活スタイルの多様化による読書時間の減少や、インターネットや携帯電話の出現・普及によって、リーズナブルにさまざまな情報を入手できるようになったことなどの理由により、出版市場は縮小を続けています。書籍・雑誌の推定販売金額は、1996年をピークに右肩下がりで推移しており、出版業界を取り巻く経営環境はきわめて厳しくなっています。
こうした状況のなかで、より多くの読者に快適な読書を楽しんで欲しい、書籍や雑誌のボリューム感を落とさずにコストダウンを図りたいという版元のニーズから誕生したのが「嵩高紙」です。紙は、通常、重量(キログラム)単価で取引されるため、同じ数量の紙を購入するのであれば、紙繊維の密度が低くて軽いほうが、購入コストは低く済みます。「嵩高紙」は、読者が電車の中でも、片手で疲労感なく持てる軽さを実現し、かつ版元のコストダウンのニーズにも応えた紙なのです。
製紙各社は、こうした出版界の現状を踏まえて、そのニーズに応えるべく研究を重ね、数年前から、抄紙過程で嵩高剤を使用したいわゆる「嵩高紙」を書籍用紙の分野で開発し、販売を開始しました。その後、今日までに、ムック(雑誌と書籍の特徴を併せ持った刊行物)や雑誌などに使用される塗工紙など、さまざまな品種で「嵩高紙」が開発され、現在では、刊行物の種類や判型、ボリューム、内容に即して、最も適した重量・厚みの用紙を選択できるよう、幅広い製品がラインナップされています。
では、書籍や雑誌を購読する読者にとっては、「嵩高紙」はどのような特長を持つのでしょうか。
「嵩高紙」は、軽くて厚みがあるので、携帯するのに便利な上、読み終わった時の達成感や満足感も味わうことができます。
また、製紙各社の研究開発努力により、紙繊維の密度が低くても、ページをめくる時のしなやかさを維持し、また印刷した文字や写真などが裏抜けせず、かつ印刷再現性が高い、という出版印刷用途の紙として不可欠な品質要求が高い水準で実現された用紙です。
日本人特有の繊細な感性に訴求する「嵩高紙」。その製紙技術は、突出しており、日本の「嵩高紙」は世界的に見ても大変優れています。
IT化により、情報伝達の手段が、多様化、高機能化する中で、従来から私たちの身の回りに存在する紙も、時代環境やユーザーニーズに応じて、進化を続けています。
(2006年11月)
書籍・雑誌・ムックなど、さまざまな出版物に嵩高紙が使われている