塗り絵といえば、一人で楽しむノートサイズのものを思い浮かべる。
それを思い切って大きくしてみたら……。
友だちや家族とにぎやかに楽しめる、
新しいコミュニケーションツールができあがった。
アーティストが描き出す壮大なイラストに、集まってきた子供たちが色鉛筆やクレヨンで思い思いの色を塗る。そんなエキサイティングなイベントが、都内のミュージアムショップで開催された。ショップの一隅にある壁に3m四方の大きな白い紙を貼り、それをキャンバス代わりに、アーティストの吉水卓さんが公開ライブ形式でイラストを描いたのである。
当初の予定では3日間にわたるイベント期間の初日に吉水さんが作画を行い、翌日から子供たちに色を塗ってもらう手はずだったが、吉水さんが描き出す、空想の動物や建物で埋め尽くされたファンタジーの世界に触発された子供たちが、たまらず色を塗り始めてしまい、同時進行のコラボが思いがけず実現したという。
イベントの主催元は株式会社マルアイという、和紙産地の山梨県市川三郷町に本社を置く紙製品のメーカーである。今年3月に吉水さんのイラストを使ったA0サイズ(1189×841ミリ)の超大型塗り絵「NuRIE(ヌーリエ)」を発売したことから、このイベントの実施に踏み切った。
マルアイは長年にわたり、祝儀袋やのし紙などを主力製品としてきた会社である。その会社がなぜ「塗り絵」を商品化したのか。同社マーケティング部部長の前橋隆さんは、理由を次のように説明する。
「わが社では贈答シーンで使う紙製品を多く扱っていることから、コーポレートスローガンを『こころコミュニケーション』と定めています。その『コミュニケーション』をキーワードに、取扱製品の一つである模造紙をアレンジして新しい製品が作れないかと考え、発展させたのが、大きな一枚紙を塗り絵にするというアイデアでした」
とはいえ、試作段階では満足のいく仕上がりを得るのに非常に手間取ったという。既存の塗り絵と似たようなタッチの原画では、大型化して実際に子供に塗ってもらうと、塗りの粗さが裏目に出て面白みのある仕上がりが得られなかったためだ。
そんな試行錯誤の中で出会った吉水さんの絵は違っていた。落書きの楽しさを感じさせる自由な絵柄に、子供ののびのびとした塗り方がマッチして、さながらアート作品のような塗り絵に仕上がる。子供が熱中するだけでなく、大人も思わず画材に手を伸ばしたくなる魅力があった。
その後は一気に構想がまとまり、「NuRIE」の製品化が決定する。図柄は3種類で、東京の名所を詰め込んだ「TOKYO TOKIO」、世界遺産に認定された富士山がテーマの「FUJI SUNSUN」、世界の名所と自然への興味をそそる「SEKAI CHEEZE」を、それぞれA0判の塗り絵で発売するに至った。
購入した家庭では、いずれもサイズが大きく一度で完成させるのが難しいため、壁に貼って毎日少しずつ塗るといった使い方もされているそう。塗りかけでもさまになり、ポスターのようにインテリアの一部として機能するのは、大型の塗り絵ならではの面白さだろう。
また子供だけでなく大人にも好評で、「NuRIEがあると家族の会話が弾む」といった声も寄せられている。そうした感想からは、塗る楽しさだけに留まらない価値を、この製品が提供していることが伝わってくる。
「NuRIEも、元をたどれば模造紙をどう面白くしようかと考えて生まれた製品です。そのままでは何の変哲もないただの紙も、少し手を加えれば人と人とのコミュニケーションを取り持つ存在に変わる。それを日々、実感しています」と前橋さん。
その言葉に、紙を扱うこと、紙に触れることの醍醐味が凝縮されている。
ライター 石田 純子
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