和紙に似たネパールの手漉き紙「ロクタ紙」は、素朴で温かみのある風合いと、防虫・防かび、耐久性という機能を併せ持ち、現地では公文書からインテリア、雑貨などに広く用いられている。
そのロクタ紙を素材としてネパールで生産し、日本で売るというスタイルを40年続けてきたカレンダーシリーズが、いま私たちに教えてくれることとは?
世界の民俗雑貨を取り扱う雑貨ブランド「チャイハネ」を展開する株式会社アミナコレクションは、毎年ネパールの伝統的な手漉き紙「ロクタ紙」でつくられたカレンダーを販売している。2023年用として発売したロクタ紙カレンダーは22種類、計5万部以上。中でも月の満ち欠けをモチーフにした「MOON」は、ロングセラーとして人気が高い。
1980年代に創業者の進藤幸彦さんが自らネパールの紙工房に足を運び、その場でカレンダーのデザイン案をひねり出して商品化を進め、現在のロクタ紙カレンダーシリーズの基礎を築いたことは、同社の歴史の一コマとして語り継がれている。
「ロクタ紙の良さは温かみのある素材感。本来の紙ってこうなんだな、と思わされます」と、その魅力を語るのは現・商品本部長の上原伸郎さんだ。
ロクタ紙はヒマラヤの標高1500〜2300m地帯に自生する低木・ロクタからつくられる。ロクタは刈り取っても根を残しておけば再び枝葉をつけて4年後に刈り取りが可能になる、まさに持続可能な樹木だ。その樹皮を木・灰または苛性ソーダを加えた水で煮込み、木槌で叩いてパルプ状にしてから網を張った木枠に張り、天日で乾かして紙にする。その工程のすべてが手作業で、ロクタの産地である山岳部の住民が、農閑期にあたる冬場に紙漉きを行って生活の糧にしているという。
「ロクタ紙をカレンダーに加工するのもネパール国内で行われ、小型の凸版印刷機で文字や線画を刷ってから手彩色を施し、製本も手で行うなど、ほとんどが手作業で進められます。ここまでハンドワークが徹底されている商品ってなかなかないですよね。当社では商いを通して世界各地の手づくりの良さを伝えることを大切にしているのですが、まさに手づくりの良さが凝縮されているのが、ロクタ紙のカレンダーなのです」(上原さん)
製造が手作業中心であることは「自宅で仕事ができる」ことにもつながる。小さな子供がいて定時で働けない女性が、家庭ですきま時間を使って仕事をするのにも向いており、実際そのような女性の就労も珍しくないという。
2015年には4月と5月に首都カトマンズを含む広い地域で2度にわたる大地震があり、生産地も多大な被害を受けた。2度目の地震の後、上原さんはすぐにネパールに飛び、食料や医薬品の調達に始まって仮設住宅の設営にも奔走したが、それらが一通り落ち着いた頃、以前から取引のある住民が口にしたのは「じゃんじゃん仕事を持ってきて。私たちやりますから」という前向きな言葉だった。2度目の地震からわずか2カ月後のことである。
「被災したからといって、与えられるだけの毎日は退屈なのでしょう。自分で稼ぐという当たり前の日常を取り戻し、フィジカル・メンタル・ファイナンシャルがバランスよく回っていくことを望んでいる。なんてたくましいんだろうと思わされました」(上原さん)
例年、カレンダーの彩色・製本は4〜9月に進められるため、被災による納品の遅れも覚悟したが、作業者の努力によって大幅な遅れは生じず、その年もシーズンに合わせて販売することができた。日本で1部800〜1500円ほどで販売されるカレンダーの仕事は、平均月収約1.8万円のネパールの人々にとって大切な収入源でもある。
SDGsという言葉のなかった時代から、森林保全への配慮や人々の就労支援を意識してつくられてきたロクタ紙のカレンダー。そこで実践されてきた「持続可能な開発」の手法には、いまこそ私たちが学ぶべきものがある。
ライター 石田 純子
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