繊細なレースを思わせる紙の「お箸飾り」。
思わず歓声を上げたくなるほど美しいたたずまいは、食卓を引き立てる。
その小ぶりながら際立つ存在感は、「紙だからこその良さ」に支えられていた。
一枚の紙を三角に折ってつくる「お箸飾り」は、「cohana」のブランド名で販売されている。cohanaは「暮らしの小さな華」を意味し、小ぶりな存在ながら心地よい華やぎをもたらしてくれるこのお箸飾りに、ぴったりなネーミングだ。
お箸飾りを考案したのはスワ ミヤさん。国内外のさまざまな企業から依頼を受けて、デザインやアートディレクションの仕事をしているデザイナーである。お箸飾りは8年近く前に、「箸置き」をテーマにした展覧会を開きたいという知人の誘いを受けて、スワさんが制作し出品したのが始まりだった。
「お店で食事をするとき、箸袋に入ったお箸が箸置きにセットされていることがあります。食事が始まると箸袋は不要になって捨てることになるのですが、そこにちょっとした違和感があって。そこでこの機会に、箸袋と箸置きを兼ねる新しい『お箸飾り』をつくろうと思ったのです」(スワさん)
小さな正方形の紙が、2回折るだけで実用品にも食卓の彩りにもなる立体に変身するのは、経験豊富なデザイナーであるスワさんにとっても、新しい発見だったようだ。
そのとき制作した繊細なレース風のお箸飾りは、ギャラリーでの展示会で好感触を得ることができ、その後まもなくホーショー株式会社(東京都千代田区)による商品化が実現する。展示会に出品した「透かし」のほかに、折り方を変えて幾何学的な表情をもたせた「鉱石」や、丼物のような気取らない食事にも似合う「染付」などがバリエーションに加わり、使う人の好みや使用場面に合わせて選べるようになった。
特に「透かし」と「鉱石」は、紙の種類や色によって表情が変わるため、紅白や金彩を用いて祝い膳用にアレンジしたり、特定の用途に合わせたコラボ商品に展開するなど、さまざまな広がりをみせている。
その中のひとつ、「透かし」と同型の紙の裏側に金彩を施し、組み立てたときにキラキラと光がこぼれる「透かし金彩」は、日本製の逸品を集め、伊勢神宮に奉納することでその価値を確かなものにするブランド「イセミタテ」に選定されるなど、伝統と現代性を併せ持つ、優れた「ものづくり」としての評価も受けることになった。
このようなバリエーションを生み出す過程で、「たくさんの種類の紙の中から目的に合うものを選んだり、色の組み合わせや加工に悩むのはとても楽しい過程でした」と、スワさん。ときには同じフォルムの箸飾りを、紙ではなくプラスチックや金属で、という話も持ち込まれるが、断っているという。
「紙は軽量のお箸に充分耐えられる素材で、かつ気軽に色や素材、印刷で表情を変えられることがメリットなので、他の素材に置き換える必要がないのです。『お箸飾り』を見た人が自分でもつくってみようという気持ちになり、ご家庭に普通にある小さな紙で折り紙をするようにお箸飾りをつくって、手づくりの良さや美しさを実感していただければ嬉しいです」(スワさん)
晴れがましい特別な時間を盛り上げてくれるだけでなく、普段の食卓にも気軽に取り入れ、楽しめる。紙のお箸飾りはそんなふうに「ハレとケ」をつなぎ、一日一日を慈しみながら暮らしていく大切さを教えてくれる。
ライター 石田 純子
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