紙製のマドラーやストローに慣れた私たちも、たまたま訪れたホテルや温泉のアメニティが紙でできていたら、驚くのではないだろうか。その驚きの紙製アメニティに、ひょっとしたらこの夏、出合えるかもしれない。
歯ブラシやコームなど、ホテルや温泉に用意されたアメニティは、多くがプラスチック製である。コームは滅菌して再利用されることもあるが、歯ブラシは衛生上、使い捨てとなるため、捨てるときに小さな罪悪感をおぼえる人も少なくないのではないか。
そこにひとつの解決をもたらしたのが、紙製のアメニティである。歯ブラシ、コーム、靴べらがあり、歯ブラシのブラシ部分はヒマシ油を原料とする生分解性のバイオマス素材、他は個包装に至るまですべて紙でできている。紙でできた歯ブラシが製品として出回るのはこれが世界初だという。
いずれも使用するのに充分な硬さがあり、紙だからといって力加減を気にする必要はない。靴べらやコームは何度も使え、水に濡れる歯ブラシも3、4回は使える。素材は水に強い種類の紙を合紙したもので、ラミネートなどはされてなく、石油由来の樹脂は一切含まれていない。
紙製アメニティの開発・製造を行ったのは株式会社エステック(埼玉県和光市)である。宿泊施設やゴルフ場での使用を想定して開発し、量産体制が整ったのが2024年4月。それとほぼ同時に、歯ブラシは日本航空のラウンジで採用された。日本航空では2025年までに新規石油由来のプラスチック使用を全廃するという目標を掲げており、その目標に合致したためである。
「歯ブラシ自体はラウンジや機内の必需品として、廃止するわけにはいかず、竹製歯ブラシなども検討されたようです。しかし、結果的には私たちの紙製歯ブラシが採用されました」と説明するのは、エステックの代表取締役・坂本学さんである。
もともと同社には紙製品などの高度な加工技術と設備があり、アメニティ製造にもそれが活かされた。例えば歯ブラシの植毛時に許容される型抜きの精度誤差は±0.2ミリ以内。また、口内に触れるので、安全性の高い原紙を使用するのはもちろん、製造は個包装を終えるまで自社のクリーンルーム内で行う。さらに切断面のエッジが極力鋭くならないカット法を用いるなど、安全への配慮は万全だ。
「紙製アメニティはいずれも4月から各所に提供を開始しましたが、今のところノークレームです」と、坂本さんは胸を張る。さらに反響が予想以上に大きかったことから、製造機械を増設し、生産量を当初計画の10倍に増強した。
現在は北米、ヨーロッパ、オーストラリアをはじめ海外への展開を計画中で、サンプルを提供しつつ商談を進めている。これらはすべてコンポスト化(土中に埋めて土に還す)が可能なため、ごみ処理をコンポストで行うことの多い欧米では特に興味を持たれるという。
「まず、紙製であることに驚かれ、次にコンポスト化が可能かどうかを聞かれるのですが、その際に『一部を除けばできる』といった条件つきの答えではダメなんですね。『100%できる』と言えなければそこで終わり。その点、このアメニティなら、個包装も含めて紙とバイオマス素材だけでできているので、自信をもって『コンポスト化できる』と言えるのです」(坂本さん)
紙であることの良さを最大限に活かし、アピール材料にして海外展開を目指すため、交通の便のよいマレーシアに拠点を置いて販売網を広げる計画も着々と進めているという。日本発の紙製アメニティが海を渡り、世界へ広がっていく様子は、想像するだけでワクワクさせられる。
ライター 石田 純子
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