「貼箱」と呼ばれる箱がある。ボール紙などの芯材を美粧性の高い紙でくるんで仕上げる、丈夫で高級感のある箱を指す。その貼箱にゲームや物語を楽しめるカードを収めた新しい「紙のおもちゃ」が、子供たちを夢中にさせている。
紙のおもちゃは「ハコロポン!」という。しっかりとした造りの貼箱に、厚手のカード5枚とビー玉が収まり、遊ぶときはカードの溝に沿ってビー玉を「コロコロ」と転がす。このときビー玉には手を触れずに、「箱」を持って傾けながらビー玉を動かすのが基本ルール。溝の先端にある丸い穴にビー玉が「ポン!」と入れば、カードを1枚クリアしたことになるので、カードをめくって次の1枚へと進む。
ハコロポン!には、ウサギを主人公にした絵本のような「おつきさまがどこかにいっちゃった」と、スポーツゲーム感覚でカタカナの習得も期待できる「カタカナ スポーツ」の2タイプがある。いずれも4〜7歳くらいの子供向けだ。
実際にトライしてみると、曲線やジグザグの溝に合わせてビー玉を転がすのが案外難しく、だからこそゴールの穴にビー玉がポンと入ると嬉しい。同時に、小さな子供には大きく感じられる箱を、身体をうまく使ってバランスを取りながら動かすのがコツであると実感できる。
集中力も要するこの遊びは適度な没入感を誘い、子供が夢中になって遊ぶ様子が目に浮かぶ。2023年にオンラインサイトで発売してからは、アナログのおもちゃを求める人に好評で、甥や姪、あるいは孫へのプレゼントとして購入する人が目立つという。
高級感のある外見が「特別な贈り物」にふさわしいのに加え、身体感覚を大切にしながら遊べること、ストーリーに込められた情緒、愛着のわく貼箱の風合いなど、大人が子供に安心して与えられる条件が揃っているからだろう。
ハコロポン!を企画製造した株式会社泰清紙器製作所(東京都練馬区)は、貼箱の製造を得意とする老舗メーカーで、とりわけ学童用の「おどうぐばこ」製造では長い歴史がある。このハコロポン!も、過去に培ったノウハウを活かし、箱の角を面取りしたり、カードの角や断面を丸めて手触りをソフトにするなど、安全面に配慮している。
日頃は製品パッケージ用の貼箱を他社に供給することが多い泰清紙器製作所において、このハコロポン!は、一般消費者に向けた初めての自社製品となった。ビジネスマッチングのコンペを通じてデザイン会社の株式会社キュー(東京都渋谷区)と出合い、キューの提供するデザインやストーリーと、泰清紙器製作所の技術を組み合わせて実現したものだが、このアイデアがコンペで優秀賞を獲得し、その後クラウドファンディングを経て一般発売が叶ったことで社内は一気に活気づき、若手社員を中心に、新製品の提案が寄せられることが増えたという。
その様子に笑顔を見せるのは、ほかならぬ泰清紙器製作所社長の大木啓稔さんである。
「当社は1965年の創業以来、『紙の箱』というカテゴリーで伸びてきました。私自身も子供の頃から身近であった紙という素材には思い入れがあります。ですので、これからも『紙』を中心に据えた新しい展開を進めていきたいのです。
ハコロポン!はビー玉以外、すべて紙でできたおもちゃであることに個性があり、評価してくださる方もいます。まもなく仕様のディテールや価格帯を変えた別バージョンをリリースする予定もあるので、まずは、より多くの人々にハコロポン!を知ってもらい、広めていくことに注力していきたいですね」(大木さん)
日頃は菓子やジュエリー、スマートフォンなどのパッケージとして見かけることの多い貼箱に、「おもちゃ」という役割を与えたことで新しい魅力が備わった。包材としてだけではない、それ自体が主役となれる力が、この丈夫で美しい紙の箱に秘められている。
ライター 石田 純子
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