「折り紙工学」という学術領域があるのをご存じだろうか。折り紙に数理の知見を融合させて、事業や製品づくりに応用する考え方である。それを設計に取り込んで、人が宇宙空間に居住するための建築の実現を目指しつつ、地に足のついたものづくりを進める企業があった。
「折り紙工学」が世の中に広まったのは、1995年に打ち上げられた人工衛星に、折り紙の要領で収納された太陽光パネルが搭載されたのがきっかけである。輸送時は小さく畳め、使用時に簡単に大きく開けることから採用され、日本の折り紙の技法が宇宙空間で活用されたと話題になった。
株式会社OUTSENSE(東京都大田区)はその折り紙工学を事業の主軸に据え、設計から製造までを一気通貫で行う企業として、唯一無二の存在感を放っている。
同社の創業は2018年。学生時代に月面の居住や宇宙エレベーターなどに代表される「宇宙建築」に没頭し、大学をまたいだサークルを結成したメンバーが集まって起業したのが始まりだ。
宇宙開発に長期インターンとして従事した経験をもつメンバーがいるなど、夢物語ではない、具体的な目標として宇宙建築の実現を目指す中、構造物の収納や輸送を効率化する研究開発のために、折り紙工学を設計に取り入れるようになった。
転機となったのは、折りを活用した宇宙建築を米国・テキサスの展示会で発表したときである。同社が展示した、月面に人が居住するための建築モデルを見た来場者が、「この折り方は、跳ね橋の構造やボートの帆の折り畳みにも応用できるのではないか」と話したことが、折りの新たな可能性をメンバーに気づかせることになった。
以来、同社では「折り工学」による設計を、紙をはじめ布、樹脂シート、金属などのさまざまな素材に展開し、製品の設計から製造までを手掛けるようになった。扱う製品もディスプレイや建材、インテリア用品、小物など多種多様で、その多彩さが、折り紙から生まれた工学に汎用性があることを饒舌に語っている。なお、同社では展開する素材が紙だけではないことから、自社の設計思想については「折り工学」と称している。
実際に設計を進める上では、作図やシミュレーションのためにパソコンを用いる過程も多いが、それでも紙を手にして折ったり開いたりを繰り返すうちに、新たなアイデアを得ることが少なくないという。
「パソコンに取り込んだ設計図を紙にプリントし、試作した紙モデルを触りながら設計をブラッシュアップすることがあるのはもちろんですが、そのほかに紙をクシャッと潰してから広げ、どんなふうに紙が折れているかを観察して、設計に反映していくこともあります」と語るのは、同社の創業メンバーでCOOの堀井柊我さんである。実体をもった紙のふるまいが、意外なヒントを与えてくれるという。
折り工学を展開した製品は、小さく畳め、大きく開けることから、輸送や保管を効率化し、さらに紙製の場合は、環境負荷の低減もメリットと捉えられることが多い。
しかし中には、折りのメリットをまったく別の観点から活用したケースもある。例えば腕時計のベルトの設計では、大きな文字盤が手首から浮かないように、フィット感を持たせる目的で折り工学を取り入れた。
「折る」「開く」という行為自体が好評を博した例としては、蝶の形のうちわが挙げられる。プラスチックなどの骨を使わず、折り線を折るだけで簡単につくれる紙製うちわは、適度な強度もあり、畳むとスマホサイズに収まる。これは折ったり開いたりするときの形の変化が楽しく、テレビ局が主催するイベントで配布したところ、子どもたちに大人気だったという。
事業の目標である宇宙建築と同一線上に「子どもが楽しめるうちわ」があるのは、折り工学の幅広さと深さを表しているように思える。「折り工学を軸として、今までになかった新しい市場を切り拓いていきたい」と語る堀井さんの声は、明るく頼もしい。
「宇宙事業への参加」についても、すでに「黒子のような役割で」参加しており、いずれはそれを自社が表に出る形で関わるべく、日々の仕事に邁進しているという。「宇宙建築」という大きな目標に対し、その設計思想の大元に、折り紙という日本ならではの紙の文化が深く関わっているのが感慨深い。
ライター/石田 純子 著書に『デザイナー・編集者のための紙の見本帳』(エムディエヌコーポレーション)ほか
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