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紙が塗り替える風景

自動車部品用の機能紙を再生する試み

2026.05.01

自動車のエンジンなどに使われる「ガスケット」と呼ばれる部品がある。配管の継ぎ目などに配置して液体や気体のもれを防ぐ、パッキンと似た部品だが、その素材は木材パルプ等を原料とする機能紙である。ガスケット紙のトップメーカーとして、作るだけでなく、再生と循環に責任を持って挑んだ企業の試みを紹介しよう。

  • コラム

ガスケット紙の再生品を「循環」の入り口に

2026年2月に発売された「KAMIKA BIN」は、「ゴミから生まれたゴミ箱」のシリーズである。

素材となっているのは、自動車部品などに使われる機能紙「ガスケット紙」を再生した紙。厚手のシート状で筒状に丸めると自立し、柔軟性があるので、軽くつぶして狭い場所に設置したり、複数のゴミ箱をロープなどで束ね、分別をしやすくするといった使い方ができる。

フェルトに似た質感はシンプルなインテリアと相性が良く、発売直後からさまざまなメディアで取り上げられて話題を呼んだ。

KAMIKA BINの製造・販売を行っているのは、ガスケット紙のトップメーカーであるセキネシール工業株式会社(埼玉県小川町)だ。もともとはガスケット紙の製造工程で生じる廃材の再生法を試行錯誤していたのが、企画した発端だという。


KAMIKA BINの使用例。柔らかみのある素材で3サイズが揃い、使い方のバリエーションが広がる


抄造されたガスケット紙。これは新品で、このあと型抜きして自動車の部品などとして利用される

ガスケット紙は木材パルプなどの繊維と填料、ゴムなどを混合して抄くことで完成するが、製紙の途上で切り落とす紙の「耳」や、部品の形に型抜きした際に端材が発生する。一口にガスケット紙といっても、原料の組成は種類によって異なり、端材が一種類でまとまる場合はそのまま溶解して再製品化できるが、異なる種類の廃材が混じった場合は品質が不安定になるため、部品に再生することはできず、廃棄せざるを得なかったという。

「ガスケット紙に由来する廃材は年間80トンにものぼります。先代社長の頃にも土壌改良材などへの再利用を試みていましたが、うまくいかず、廃棄費用がかさむのが悩みでした」と語るのは、2024年に社長に就任した関根俊直さん。

流れを変えたのは、自治体が主催するBtoC事業の創出を目的とした、デザイナーと企業とのマッチングだった。そこで、インダストリアルデザイナーのNAO IWAMATSUさんと出会ったことで、ゴミ箱への再生という実現可能なアイデアが生まれた。ゴミ箱のような日用品であれば、混合ガスケット廃材の再生紙であっても使用に差し支えない。

完成したKAMIKA BINは、購入者へのフォローもユニークだ。購入後の消耗によって買い換えが必要になったら、手元にある品をセキネシール工業まで返送すれば、新品の購入に使用できる割引クーポンが付与される。

使用後のKAMIKA BINは同社において粉砕し、繊維となって、新しいゴミ箱に再生される。製造・使用・回収・再生の流れを作り、資源の循環を使い手と共有しようというのが、その意図である。


自動車部品などに使用するガスケット紙。さまざまな種類があり、それぞれ原料の組成も異なる

「当社が立地する小川町は、古くから地元の自然の恵みを利用した和紙製造や養蚕、酒造が盛んで、経済も資源も地域の中で循環させてきた歴史があります。私もこの地に生まれ育った者として、『循環』を事業に取り込んでいきたい。KAMIKA BINにしても、循環に関心のある個人や企業のほか、教育機関などに導入してもらい、子供たちに物や資源の循環について考えてもらうきっかけになれば嬉しいです」と、関根さん。

そのために工場見学の受け入れなども行って、子供たちに将来もここで生活したい、働きたいと思える町にしていきたいという。

関根さんの先祖は江戸時代に和紙製造を始め、戦後まもない1946年に祖父の関根照夫さんが抄造の技術を活かして、国内初となる木材パルプ由来のガスケット紙を製造した。その後、自動車の普及とともに事業が発展していったことは想像に難くない。

時代に即した新しい紙の開発は、高度経済成長期を生きた照夫さんに新しい夢を見せてくれた。その孫となる俊直さんには、「紙の循環」の実践を第一歩とする「循環経済」、あるいは「地域共生」という別の夢を見せてくれるだろう。

組成の異なるガスケット紙が混じり合った廃材(左)と、そこから再生されたガスケット紙


ライター/石田 純子 著書に『デザイナー・編集者のための紙の見本帳』(エムディエヌコーポレーション)ほか
Photo by Ryoukan Abe

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