私たちが幼い頃から慣れ親しんできた折り紙。
その折り紙を下敷きに、一枚の紙にハサミを入れて折るだけで驚くほど立体的で華麗な花を形づくる「折花(おりはな)」なるものが考案された。
伝統の良さを感じさせつつ、独自の感覚を取り入れて練り上げた「折花」の世界をここで紹介しよう。
一枚の紙を切って折る。ただそれだけのことなのに、そこから生まれる花々はいきいきとして美しく、触れてみたいという好奇心をかきたてる。
この紙の花を考案し、「折花(おりはな)」と名付けて展開しているのは三谷基さんだ。本業は建築設計を営んでおり、その一分野である景観デザインを通じて花々に親しむうちに、折花を思いついたという。
もともとはアロマオイルを垂らして香りを広げる、紙製のアロマディフューザーとして制作したのが始まり。そのため今も、ほとんどの折花は中央にオイルを垂らすくぼみが付いている。
その後パターンをどんどん増やし、一輪の花を表現するだけでなく、たくさんの折花を組み合わせてランプシェードのようなインテリア用品にしたり、建物のロビーに飾るアート作品に仕立てたりと、さまざまに発展させている。
近年、好評を博しているのは指輪型のもの。小さな折花の下部に十文字に交差したリングが付く構造だが、これもやはり一枚の紙からつくられている。
こうした複雑な構造は、「手でしか生み出せないデザイン」なのだと三谷さんは言う。
「普段の建築設計の仕事では、まず建物や景観のスケッチや図面を描いて、それを実体のあるものにするという手順を踏みます。だけど折花はスケッチを描こうとしてもなぜか描けないんですね。紙とハサミを持って、あとは手に任せるしかない。切り込みが1ミリずれると仕上がりはまったく違ってしまうので、一つの折花をつくるのに何度も試作して、これだと思うものを残すんです」
そう言いながら正方形の紙を四つ折りにしてスイスイとハサミを入れ、たちまち立体的な紙の花をつくり上げる三谷さんの手つきは、まるでマジックを見ているようだ。
「カフェで折花をつくることもあるのですが、周囲の人にしてみれば何をしているのか気になるのでしょう。チラチラと見たり、声を掛けてくる人もいます。そこで折花をつくって渡すと目を丸くして喜んでくれる。コミュニケーションの入り口になるんですね」(三谷さん)
折花の制作を始めたのは9年前。その翌年にはアロマテラピストの養成スクールから講座の依頼があり、自身がデザインした折花のテンプレートを用いて、生徒たちに制作方法を教えるようになった。
その教え子たちの中にはボランティアで病院や施設を訪れ、折花を作って見せたり、その場でワークショップを開催している人もいるそうだ。とくに病院では生花の持ち込みが制限されることもあるため、紙製の折花が好評だという。
「人を喜ばせたり癒やしたり。折花は人の思いをストレートに伝える格好のツールだと思うんです」と、三谷さん。
近年ではその良さが国内のみならず海外でも評価され、陶磁器の名品を生産していることで知られるフランスの国立セーヴル製陶所の招待作家に選ばれるという快挙を成し遂げた。折花をモチーフにした薄手の陶磁器を、同製陶所とコラボ制作するために、三谷さんは目下やりとりをしている。
「紙1枚、1分でつくれる強力なコミュニケーションツール」。
三谷さんは自らが生み出した折花をそんなふうに評する。手渡す相手への温かな思いを、紙の花がしっかりと伝えてくれるのを確信しているのだ。
ライター 石田 純子
このコラムに掲載されている文章、画像の転用・複製はお断りしています。
なお、当ウェブサイト全体のご利用については、こちら をご覧ください。
OVOL LOOP記載の情報は、発表日現在の情報です。
予告なしに変更される可能性もありますので、あらかじめご了承ください
日本紙パルプ商事 広報課 TEL 03-5548-4026