OVOL Insight
プロジェクトストーリー

社会課題を解決する トイレトレーラー事業。 普及の“けん引役”として存在感を示していく

2024年1月1日 -- 石川県の能登半島を大地震が襲った。断水や停電などライフラインへの影響が続く中、日本紙パルプ商事のグループ会社で家庭紙・衛生用品等を販売する「JPホームサプライ株式会社」は、同社が保有するデモ用の「トイレトレーラー」を輪島市へ派遣し、併せて飲料水とトイレットロールを届けた。トイレトレーラーとは、災害時の利用を想定して企画・設計された移動設置型水洗トイレだ。JPホームサプライは、トイレトレーラー販売を社会課題の解決につながる事業の一つとして位置付け、全国への普及に向けて取り組んでいる。

長谷川 勝正
Katsumasa Hasegawa
JPホームサプライ株式会社
営業本部 グループマネージャー
※ 所属・役職名は取材時時点のものです

商品開発力をグループ内のシナジーで高め、社会課題の解決を目指す

JPホームサプライは、1985年に日本紙パルプ商事の一部門であった家庭紙の販売事業部門から独立した会社だ。JPホームサプライの特長の一つに、高い商品企画力がある。資源環境に配慮した芯のないトイレットペーパー「ノーコア」の開発で特許を取得して以来、環境に優しい紙製猫砂など家庭紙の枠にとらわれない独自の商品を企画し、その販売を展開している。同じく日本紙パルプ商事グループの一員である再生トイレットペーパーのメーカー「コアレックスグループ(関連記事:地域資源を生かした循環型社会の構築を目指し、共に歩む )」とタッグを組み、商品化したケースもある。

JPホームサプライの活動は、家庭紙関連にとどまらない。人々の暮らしに寄り添うため 、「いつも(日常)」と「もしも(災害時)」の両面において社会課題に対応した事業を行っている。例えば日常面では、化学物質過敏症や香害に悩む人々を支援する「化学物質過敏症支援センター」の活動をサポートするほか、病気や災害などで親を亡くした子どもたちや障がいなどで親が十分に働けない家庭の子どもたちを奨学金・教育支援・心のケアといった三本柱で支える「あしなが育英会」も支援している。そして災害発生時には、JPホームサプライが自社で保有するトイレトレーラーを「災害から命を守り、命をつなぐネットワークの移動式トイレ」として役立てるべく、被災地に派遣している。「震災トイレネットワーク」を構築して自治体が保有するトイレトレーラーの被災地派遣を支えることに加え、「備蓄用トイレットペーパー」の普及活動なども積極的に推進している。

「快適トイレ」として認定されたトイレトレーラー

トイレトレーラー事業は、グループ内の米国事業拠点から日本紙パルプ商事を通じJPホームサプライへ紹介があったことに端を発する。家庭紙関連の事業にJPホームサプライが深く携わっていたため、取り扱いが始まったという経緯だ。2016年に発生した熊本地震では、トイレが使えず困っている人々を支援すべく、同社はトイレトレーラーを現地へ派遣した。

トイレトレーラーは可動式である点が最大の特徴だ。けん引車によって移動させ、現場に着いてから約10分で使用できる。1台に標準で4つの個室を確保し、温水洗浄便座 や便座暖房が付いているものもある。車体上部に設置されたソーラーパネルから内蔵バッテリーに充電可能となっていることから夜も明るく、安心して利用できる。従来の仮設トイレにありがちなマイナスイメージが払拭されたというユーザーの声などが評価され、国土交通省から「快適トイレ」として認められた。

能登半島地震を受け、JPホームサプライは1月8日にトイレトレーラーを現地へ派遣したが、そこに同行したのが同社の長谷川だ。長谷川は2022年にJPホームサプライへ出向となり現在に至るが、同社に異動するまでトイレトレーラーの存在を知らなかったという。JPホームサプライは自治体向けにトイレトレーラーの販売を展開しているが、これまで民間企業との取引しか経験がなかった長谷川にとって、自治体との契約にまつわるさまざまな手続きに慣れる必要があった。無事に契約を結んでからもラッピングデザインの選定や車庫証明等登録の手続きなど、付帯業務がある。トイレトレーラー販売における一連の流れを一年かけて理解し、ペースをつかみかけたところで、能登半島地震が起きた。

トイレトレーラーの普及が、社会課題を解決する

能登半島地震を受けて各自治体が連携し、被災地へと向けて各地からトイレトレーラーは派遣された。同社保有のトイレトレーラーが最初に向かったのは、輪島市。長谷川も使用方法を説明するために、トイレトレーラーを追う形で一人現地入りすることになった。道路に亀裂や陥没があるため迂回を余儀なくされ、カーナビは全く通用しないという状況の中、案内標識を頼りにやっとのことで指定された避難所までたどり着いたが、既に設置されていた仮設トイレはほとんど和式で、「狭い」「暗い」「汚い」「臭い」という過酷な状態だった。トイレを我慢することで体調を崩して病気になり、ひいては災害関連死を招くおそれがあるだけに、トイレトレーラーが到着した際は被災者や支援者などに大変喜ばれたという。「それまで私は、マラソン大会などのイベントでトイレトレーラーを使った方々から『広い』『明るい』『キレイ』『臭くない』というたくさんの喜びの声を聞いていましたが、それ以上にトイレ問題は人命にまで直結することを強く実感しました。災害時のトイレ問題という社会課題の解決にトイレトレーラーが実際に役立つ姿を目の当たりにしたのは、これが初めてでした(長谷川)」。さらに、トイレトレーラーの個室は広い作りとなっていることから、介助を必要とする子どもやお年寄りでも安心して利用できることを長谷川は再認識した。

  • 能登半島地震に伴い、トレーラーに給水する自衛隊員

能登半島地震の被災地支援として、長谷川は3度足を運んだ。最初に輪島市に向かうことが決まった際は不安で眠れないこともあったと長谷川は語るが、その後に派遣が決定した七尾市や珠洲市へは、自らの意志で赴いた。「向かうたび『無事にお届けする!』という意識が強まりました。そして、現地でトイレトレーラーを待っていた皆さんの明るい笑顔に元気をいただくとともに、こちらが励まされる気持ちになりました。被災されたにもかかわらず、自らボランティアとして同じ地区の住人を世話する方々も見受けられ、そうした姿には本当に頭が下がりました(長谷川)」

七尾市へは、埼玉県朝霞市からトイレトレーラーが派遣された。朝霞市のトイレトレーラーは市内企業の「株式会社丸沼倉庫」が所有し、協定により朝霞市が運用している。朝霞市はこれまで、防災フェアなどの各種イベントでトイレトレーラーを展示することで非常時の備えについて啓発してきたが、今回初めてトイレトレーラーを被災地へ送り出すことになった。朝霞市危機管理室 副審議監兼危機管理室長 の小野澤氏はこう語る。「長谷川様から現地でトイレトレーラーの使用方法についてわかりやすいご説明をいただくことができたため、スムーズに対応することができました。実際に使用された方々からも好評で、『ありがとう』とおっしゃっていただいた時にトイレトレーラーを派遣して本当に良かったと感じました(小野澤)」

約3万人が身を寄せる能登地域の各避難所には、JPホームサプライを通じて各自治体に納入されたトイレトレーラーが全国各地から続々と派遣され、2月8日時点で計26台が支援に活用されている。こうしたことも、長谷川の意識に変化をもたらした。「私はこれまで、トイレトレーラーを滞りなく納車できた時に大きな達成感を得ていました。しかし、今回の被災地派遣を経験し、実際に皆さんのお役に立てたことを何よりのやりがいとして感じています(長谷川)」

  • 災害派遣出発式の様子。長谷川は右から2人目

経済価値と社会価値をともに実現するために

“災害時のトイレ” としてトイレトレーラーの認知度がさらに高まっていることも、長谷川は実感している。「問い合わせが増えつつあることを受け、年内にできるだけ多くの地域に届けたいという思いが強まりました。これまでは市町村単位での導入が中心でしたが、今後は、国・県レベルでの導入に期待しています(長谷川)」。JPホームサプライが目指すのは単に台数を増やし、全国に普及させるだけではない。トイレトレーラーを適時・適切な場所に派遣し、滞りなく運用させるスキームを構築することを視野に入れている。それには、自治体や諸団体との密な連携が欠かせない。また、台数が増えていけば当然、その分のメンテナンスも必要となる。点検や車検、整備などを全国でカバーできる体制づくりも整えていく方針だ。

トイレトレーラー事業に関連する自治体職員とのやり取りを通じ、長谷川は良い刺激を受けているようだ。「自助・共助を真剣に考える職員の皆さまとの会話を通して、トイレトレーラー事業こそ地域の自助・共助を支え、地域社会に貢献するビジネスであることを強く感じています。そして、JPホームサプライが注力するサステナビリティへの取り組みは、日本紙パルプ商事グループ全体としての活動につながるものと理解しています(長谷川)」。日本紙パルプ商事グループは経済価値と社会価値をともに両立し、持続可能な事業活動の実現に重大な影響を与える社内外の要因として12項目のマテリアリティを特定しているが、その中の一つ「地域社会」とトイレトレーラー事業はまさに合致している。

JPホームサプライは、トイレトレーラーの意匠権を取得していることから主導的地位にある。だが、本事業を拡大していく上で、競合が出てくるのは必至だ。その際に「選ばれる企業」となるためには、社会課題にも呼応している企業であることがより一層求められる。長谷川は熱を秘めながら締めくくった。「だからこそ、この事業の意義は大きく、社会に対してさらにアピールできればと考えています(長谷川)」






OVOL Insightの情報は、掲載日現在の情報です。
予告なしに変更される可能性もありますのであらかじめご了承ください。
[掲載日] 2024年5月29日