出版物の発行、学習塾などの教育サービス、保育用品などの製作販売を行っている学研グループ。近年では、サービス付き高齢者向け住宅や認知症グループホームなどの介護施設・子育て支援施設運営にも事業領域を広げている。
その中にあって、学研プロダクツサポート(以下GPS)は「グループ各社へ良質なサービスを提供する」をミッションに、グループが扱う商品の製作マネジメント、著作権管理、経理、人事、総務、オフィス管理、情報システム、広報、法務他の業務の受託などを行っている。同社製作資材部は、用紙調達と印刷製本の進行管理が主な業務である。
このGPSに、日本紙パルプ商事は、グループの出版物、塾の教材、通販カタログなどで使用する王子製紙を筆頭とした各製紙メーカーの印刷用紙を販売している。
新聞・出版営業本部出版一部 部長
製作資材部副部長 業務課課長
実に日本紙パルプ商事らしい提案
2011年、学研グループは中期経営計画「GAKKEN2013」を打ち出した。そこには、従来の出版事業を軸としつつ、塾事業や介護事業などに経営資源を投入していくとある。「出版不況と言われる状況が続く中、出版用紙調達を主な機能とする製作資材部は危機感を持っていました(山口)」。何か新しいことをやらなければ。しかし、なかなか具体策が描けない。
日本紙パルプ商事から提案があったのはそんなときだ。王子製紙と同じグループである王子ネピアの紙おむつを、介護事業を行っている学研ココファンへ、GPS、王子ネピア、日本紙パルプ商事が一緒になって販売するというものである。
GPSにとって事業領域拡大につながることはもちろんだが、学研ココファンにとっては、王子ネピアの高品質の製品を入居者に提供することでサービス向上が実現する。王子ネピアも拡大しているサービス付き高齢者向け住宅でどのような製品、サービスが求められているか、包括的なマーケット調査や取組みが行える。「弊社としても、出版用紙以外の取引につながるメリットがありました(吉田)」。
まさに「四方よし」。製紙メーカーやユーザー企業などを結び、どの企業にもベネフィットをもたらす活動を担う、実に日本紙パルプ商事らしい提案である。
3社は「運命共同体」
しかし、すぐに事業化された訳ではなく、日本紙パルプ商事はGPSとともに方法を探り、提案し続けた。「紙おむつビジネスを知っていただくため、また、当社からのネピア製品購入の必要性を認識していただくため、王子ネピアの工場見学を実施したり、GPSの経営陣にも紙おむつを装着していただき、ご利用者の視点で製品を感じてもらいました(吉田)」。
印刷用紙の営業としては、GPSと王子ネピアを引き合わせるだけで手を引くこともできただろう。しかし、そうしなかった。「それじゃ面白くない。何より、GPSさんと一緒に始めたことですしね(吉田)」。新しい取組に前向きで、最後まで顧客に伴走する。この姿勢も、実に日本紙パルプ商事らしい。
これまで学研ココファンの介護施設で使用されるおむつは、利用者の家族が持ち込みで使用することが多く、当初、施設側は一括購入の必要性を感じていなかった。そこで、日本紙パルプ商事は、GPSや王子ネピアと日本全国の介護の現場を根気強く回り、王子ネピアの製品の品質、アフターサービスの充実などをていねいにアピールしていった。
「GPSは学研ココファンとの窓口、王子ネピアはメーカーとして情報や商品知識を提供、日本紙パルプ商事は提案の取りまとめと、一応、役割分担はあったものの、3社は『運命共同体』。一緒に営業をしていった感じです(山口)」。
成功のその先へ
2016年に15事業所、約150人への提供から始まったこの事業は、2020年1月時点では100事業所、約2,000人に製品を提供するビジネスへと成長している。
介護施設の入居者は、高品質の王子ネピア製品を使えるだけでなく、買い物に行く手間も省けるようになった。「品質がいい」「アフターサービスのスタッフ向け講習会がとても勉強になった」と介護現場の評価も高く、管理面や集中購買によるコスト削減という効果も生み出している。王子ホールディングスとしても、王子ネピアの販売増だけでなく、グループ全体の取引を拡大させることができ、より一層の関係強化が実現した。
GPSはグループへの貢献度向上が何よりの成果である。学研グループの展示会で、日本紙パルプ商事のブースを通じておむつやティッシュを展示すると、ほかの取引先に介護事業という新しい取組をアピールできた。
プロジェクトを通じて、GPSと日本紙パルプ商事の関係はより強固となった。それに伴い、日本紙パルプ商事がGPSにそれまで取引してきた印刷用紙での販売量も増加。日本紙パルプ商事は事業領域と販売量の拡大に成功した。
山口は言う。「お取引先様に日本紙パルプ商事様と今回の新規事業プロジェクトの話をすると、これまでのお取引内容を超えた新しいご提案をいただくことが多くあります」。これまでの紙業界のビジネスのやり方にも、一石を投じることになったようだ。
日本紙パルプ商事社内では成功事例として共有された。日本紙パルプ商事には、もともと新しいことを自由にやらせてみる風土がある。「刺激を受けた社員も多かったようです(吉田)」。また、新しいプロジェクトが始まるかもしれない。
山口も吉田も、そろそろ新しいことをしたいという想いを持っている。日本紙パルプ商事は、印刷用紙の供給という原点に返りつつ、新商品やPB開発などを模索している。GPSは、このプロジェクトで得たノウハウとスキームを横展開し、保育園や幼稚園など大人から子供へターゲットを広げていく予定だ。
成功のさらに先へ。GPSと日本紙パルプ商事の挑戦は続く。
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[掲載日] 2020年6月12日