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紙流通を支える卸商が抱える課題に、「Paper, and beyond」な取り組みで挑む

紙流通のビジネスにあって、印刷会社、出版社、一般企業、官公庁など紙のユーザーへ、印刷用紙、板紙、情報用紙などを販売しているのが、「卸商」と呼ばれる二次卸である。
印刷会社や出版社などが扱う紙は用途や体裁がさまざまであり、日本紙パルプ商事などの代理店(一次卸)が製紙メーカーから大ロットで仕入れた荷姿のままでは、納入できないケースが多い。そこで、卸商が顧客の用途に合わせ、断裁加工、小ロットでの搬送などきめ細かいサービスを行うのだ。
都内、関東圏の卸商向けに、紙を提供しているのが卸商営業本部である。卸商部部長の古川に、紙卸売ビジネスの基本から、課題、その解決に向け日本紙パルプ商事が取り組んでいることなどを聞いた。

古川拓央
Takuo Furukawa
日本紙パルプ商事株式会社
卸商営業本部 卸商部 部長

入社数年後に卸商部に異動し、営業担当から管理職までを経験。卸商部に14年間在籍した後、当時連結子会社であった卸商へ出向、再建に携わる。帰任後は経営企画部へ。経営企画在籍中の6年間、印刷・情報用紙需要の漸減傾向は続き、「今後一番苦しくなる部門は国内卸売部門」と、ずっと古巣を気にかけてきた。2018年、卸商部の部長として営業の現場に復帰。

※ 所属・役職名は取材時時点のものです

確実に紙を流通させるため、
卸商をバックアップ

紙の代理店の機能は、何より、製紙メーカーが製造した紙を確実に流通させることにあり、そのための流通体制を構築、維持するため、代理店は、顧客である卸商をさまざまな面からサポート、バックアップしている。

もちろん日本紙パルプ商事グループも例外ではない。システム子会社であるJP情報センターを通じ、卸商の経営をサポートする紙流通に特化した基幹システムを構築、提供しているのはその一例だ。

「こうした取り組みを実現できるのも、卸商と関係の深い当社ならではでしょう」と古川は言う。卸商との歴史ある取引は、今も日本紙パルプ商事の売上の多くを支えている。携わる社員は社内でも比較的多く、きめ細かな営業活動で信頼を積み重ねている。

安定的に紙を仕入れ、供給し続ける責務

代理店は、製紙メーカーと、卸商の顧客である印刷会社や出版社をつなぐ役割も担う。「卸商と代理店の相互関係により紙の安定供給が実現するといえます」。印刷会社や出版社に対しては、製紙メーカーの生産計画や業界トレンドなどを伝え、製紙メーカーには、印刷会社や出版社の紙の使用予定や在庫状況の情報を提供する。近年多発している自然災害や突発的な事故などで紙の供給不安が起こった際には、あらゆる手段を尽くして印刷物や出版物の発行が止まらないようにする。

「やっているビジネス自体は、昔も今も大きくは変わりません」と古川。ただ、近年の少子化や電子化などの要因に加え、昨今のコロナ禍で、他の産業と同様に紙業界も苦戦を強いられている。働き方の変化や新しい生活様式により、印刷物の使われ方が変わってきている。今後は、さらなる需要の縮小も予想され、製紙メーカーのマシン停機や銘柄の統廃合が進んでいる。そのような状況でも、代理店は安定的に紙を卸商に供給する責務を負い続ける。「それを果たし、販売先を確保しなければ、私たちは生き残っていけないと思います」。

コロナ禍で顕在化した卸商の課題

紙の使われ方において多品種少ロットが主流となる中、断裁加工、配送など顧客に合わせてきめ細かい対応を行う卸商の機能は、今後も必要とされると古川は言う。

しかし、世の中全体のコストダウン要求が厳しくなる中で競争は激化し、卸商の経営環境は厳しい。また、紙流通に限った問題ではないが、日本の物流網を支えるドライバーの不足は年々深刻化する一方だ。
そこに、コロナ禍による需要の激減が重なった。「物流の課題を指摘する声は以前からありましたが、都内だけでも100社近くが競合する環境ということもあって、どの卸商も改善に向けて動き出せなかった。それが、このコロナ禍で一気に顕在化した感じです」。

また、物流の課題もさることながら、首都圏における卸商業界では、多くの会社で事業継承や事業としての収益性の低さに悩まされていた。後継者不足も加わって、事業の継承・継続を如何に進めていくか課題を抱えている。収益性の低さについては、マーケットに対してプレイヤーが多いことで競争が激化したことが原因であると考えられるが、得意先ごとの取引の採算性が把握しにくい仕組みにあったことも理由の一つだ。それは、卸商に出向し、その課題に真っ先に取り組んだ古川だからこそわかることである。

卸商の付加価値向上、物流の効率化に取り組む

「需要構造が劇的に変化している今だからこそ、新たな価値の創出や、さらなる合理化に取り組む必要があります」。急激な需要減によって、残念ながら事業継続をあきらめる卸商も少なからずあるだろうと覚悟はしている。事業統合や大幅なリストラを検討する経営者も出てくるだろう。頑張っている人が損をするような業界にしたくない。そう話す古川を始め、日本紙パルプ商事は動き出した。
これまでに、日本紙パルプ商事は、卸商が個社で行っていた物流、保管、断裁加工などを共同で行う「JP共同物流」を立ち上げ、物流サービスを担うグループ会社のJPロジネットとともに、卸商の業務効率化をサポートしてきた。最近は、さらなる合理化を進める手段を、JP情報センターとともに情報技術の観点から模索している。また、卸商とは、紙の付加価値を向上させる方法をともに探ると同時に、卸商の持つ物流、保管、断裁加工機能の価値を、卸商自身が見直すことを話し合う。「卸商の経営者の皆さまには、『あらためて紙を丁寧に売っていきませんか』と声をかけています」。卸商の機能や内情を知る古川だからこそ、卸商各社の企業体質の強化を目指し発信するのは自分の使命だと強く感じている。

「Paper, and beyondとなる武器」を提供し、顧客をサポート

別の取り組みも加速させようとしている。卸商に、厳しいビジネス状況の突破口となる「Paper, and beyondとなる武器」、即ち紙以外の商品も提案するというものだ。

例えば、官庁の事務処理作業を自動化するパッケージソフト。あるいは、減プラ・脱プラに貢献する素材でつくられた食品・化粧品トレー。そして、印刷工場や倉庫の水銀灯に替わる無電極ランプなどなど。日本紙パルプ商事グループの総合力を活かし、国内外の商材やサービスを幅広く提供する。紙にこだわることなく、卸商のビジネスを拡大させる可能性のあるものなら何でもありだ。

「私たちは、以前から先輩に『紙じゃないことでも、困ったときに最初に声をかけてもらえる人になれ』と言われてきました。当社には、それにお応えするだけの事業の幅と奥深さがあります」。

厳しい状況は続く。「お取引先様に『大変ですね』と声をかけるより、何か新しい提案をし続けることが大事だと思っています」。古川が再び卸商部に戻ったのは2018年。その矢先のコロナ禍。未曽有の状況に、最初は頭を抱えたと言う。「けれど最近では、この局面、この立場で卸商部に戻ったのは運命だと思うようにしています」。だって、これを乗り切ったら、きっといい業界に変わっていますよと笑う古川。最近、少しずつだが、前向きな自分に気づき始めた。

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[掲載日] 2021年1月4日