室内に安らぎとくつろぎをもたらす明かり。
その表情を豊かにするのはランプシェードの存在だ。
ここで紹介するランプシェードは、レースのように繊細な風合いをもつ「落水紙」という和紙から作られている。
日本の伝統技術にモダンデザインを組み合わせた、和洋いずれにも似合う明かりだ。
枝を広げた樹木の図柄が浮かび上がるランプシェードは「Mori Light」というシリーズだ。間近で見ると、柔らかな和紙に無数の小さな穴が開いていて、穴のない部分が樹木のシルエットをつくり出しているのがわかる。
森の中で木もれ陽が心地よく感じられるように、このシェードを通した光もまた、人の心の奥深くに安らぎと落ち着きを与えてくれる。
デザインしたのはプロダクトデザイナーの長谷川滋之さんだ。10年以上前に、世界中のインテリアが集まる国際家具見本市「ミラノサローネ」への出展品として、「Mori Light」を制作した。
米国ワシントン州立大学でインテリアデザインを学び、その後輸入家具の販売会社などに勤務して海外のインテリアに触れる機会が多かったという長谷川さんだが、出展品をデザインするにあたって重視したのは「日本の伝統的な工芸品にモダンなテイストを入れること」だった。
そこで思いついたのが、出身地の岐阜県の伝統工芸品である「提灯」の構造を取り入れ、同じく岐阜県産の「美濃和紙」を用いること。中でも長谷川さんの心をとらえたのが「落水紙」の技術だった。
和紙漉きの過程で、乾かす前の湿った和紙にシャワー状に水をかけると、小さな穴が無数に開いた紙ができあがる。それが落水紙だ。和紙の上に型を置けば、そこだけ水が通らず図柄として残るので、型を替えてさまざまな図柄の落水紙をつくることができる。
「2D(平面)のデザインを3D(立体)の中で活用するのが面白い」と考える長谷川さんにとって、絵を描くように図柄が作れる落水紙を用いて立体的なランプシェードを作るのは、興味深い試みだった。
制作期間中は東京の自宅を離れて岐阜に住まいを借り、和紙と提灯を製造する工房に通ったという。製造の現場を目の当たりにしながら、職人たちとともに1年ほどをかけて、自身が設計したペンダントライトや置き型ライトなど、さまざまなバリエーションのランプシェードを生み出した。
完成した「Mori Light」は和洋のどちらにもなじむ、味わい深い製品に仕上がった。シェードは二重構造で、内側は模様のない和紙、外側に落水紙を用いているが、これは外側の落水紙の図柄がくっきり見えるようにするための工夫だという。この二重構造によってまぶしさが抑えられ、落ち着いた光と美しい図柄が室内空間に豊かさをもたらす効果も生まれる。
「Mori Light」の制作を通じて落水紙の技術に魅了された長谷川さんだが、今後もまた機会さえあれば、落水紙を用いた製品作りにチャレンジしてみたいという。
「職人さんたちと交流するうちに、『Mori Light』で制作したものより、もっと微細な柄の落水紙がつくれることがわかりました。インテリア用の素材はいろいろありますが、落水紙のようにファジーな質感をもつ素材は珍しいので、一点物や受注生産も視野に入れて、また新しい製品をつくってみたいですね」(長谷川さん)
美しい落水紙はそれ自体が芸術品のようでもある。産地で受け継がれてきた高度な技術とモダンデザインが出合い、新しい「日本の美しさ」がつくられるなら、それは世界に誇れる存在になるだろう。
ライター 石田 純子
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