花を活ける器といえば、陶器やガラスの器を思い浮かべる。ところが紙でできた花器があるという。水を張るのが前提の花器に、紙を用いるというのも目新しいが、実物を目のあたりにすると、その完成された造形美に感嘆する。
この美しい紙の花器は、どのようにして作られたのだろうか。
株式会社 美の紙工房(岐阜県関市)が製造する紙の花器、「P-base」が注目を集め始めたのはおよそ3年前のこと。丸みのある形を、明るくクリアな色彩が引き立てている。
この斬新なデザインは、地元・岐阜ならではの技術を生かした結果だという。
その詳細について、美の紙工房代表取締役の澤村温也(さわむら・はるや)さんは、次のように語る。
「岐阜はかつて、オーディオのスピーカーホーンの製造が盛んでした。そこで用いられる成形技術を紙漉きと組み合わせて、新しいものを生み出せないかと。そこでまず紙を立体的に漉き、次にスピーカー成形の応用で、熱を加えてプレスします。このような手順で、P-baseの原形を作ったのです」
なるほど、言われてみればP-baseの丸い形は、スピーカーの部品を連想させる。
もっとも、この製造方法にたどり着くのは簡単ではなかった。ヨーロッパ市場を意識したデザインの作り込みや成形方法の開発に始まり、量産化に向けて生産体制を整えたりと、約5年の歳月を要したという。
このようにして作られた紙器は、緩衝剤や卵パックなどに利用されるパルプモールドなどとは、立体にする工程がまったく異なるのだという。パルプモールドとの違いは、紙の密度がより高いため変形しにくく、ある程度の耐水性を有するという点。さらにフッ素加工を施すことで耐水性を強化し、花器として使用できるようにしてある。
そうして出来上がったP-baseは、ドイツで開かれる生活用品の大規模な見本市「アンビエンテ」に出展、好評を博した。
紙を花器に使うという発想の新奇性、紙漉きという伝統技法にスピーカー成形という工業技術を融合させた面白さ、そしてエコロジー性が評価されたのだろうか。このP-baseはのちに、ドイツのデザイン賞である「デザイン・プラス」、および日本の経済産業省が主催する「グッドデザイン賞」を相次いで受賞した。
現在ではオーストラリアなどにも輸出されており、この紙の器は日本から世界へと広がりを見せている。
この実験的な「P-base」で成功を収めた美の紙工房では次に、和紙のような風合いで柔らかな色調の「F-base」を開発した。
「こちらは、より紙らしさを強調したいと思い、折り紙のような造形にしました。また花器としての機能を高めるため、いけばなに使う特大サイズの剣山が、底にぴったり収まる大きさです。もちろん、カットしたオアシス(水を含ませて草花を刺す、スポンジ状の素材)を入れて使ってもいいと思います」(澤村さん)
こちらのF-baseは、国内の大手生花販売チェーンで導入されている。
洋の表情を持つP-baseと、和のたたずまいのF-base。
それぞれがふさわしい用途と環境を見つけ、ゆるやかに広がり始めている。
ライター 石田 純子
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