紙を折ったり貼ったりしてつくるペーパークラフトは、
身近な素材と道具があれば手軽に楽しめるのが大きな魅力だ。
一般には装飾性を重視したカラフルなものが多いが、
大人心をもくすぐる仕掛けをもったペーパークラフトが現れた。
ペーパークラフトの設計・実作を仕事にしている坂啓典(さか・けいすけ)さんがデザインした作品の中には、真っ白な紙を素材に、ハンドルを回すとパーツが動く「からくり」を取り入れたシリーズがある。
一面がオープンになった四角い箱の中に、カム、ギア、クランクなどの動力をわるしくみが組み込まれており、横にあるハンドルを回すと、さまざまな機械に応用される動きのメカニズムが瞬時に理解できるというものだ。2007年にはこれらのペーパークラフトを展開図で収録した本『からくりの素 ペーパークラフトブック』(集文社)も刊行になり、収録作品の一部は海外でも展開図のキットが販売されるなど、反響を呼んでいる。
坂さんは、もともと「動かない」ペーパークラフトをデザインしていたが、90年代後半に3年間滞在したデンマークで見かけたオートマタ(機械仕掛けの人形)に影響を受け、自作にもからくり仕掛けを取り入れるようになった。
その最初の作品となったのは「ペンギンの見果てぬ夢」。ハンドルを回すとペンギンが羽ばたくというものだが、ハンドルの動きが直接伝わるのは羽根ではなく、台座の中にあるカムに連動した胴体のほう。羽根は内側で根元が固定され、胴体に設けたスリットから外に飛び出した構造になっている。そのためスリット部分を支点にしたシーソーのように、胴体が上がると羽根が下がり、胴体が下がると羽根が上がるという仕掛けだ。
このような仕掛けにすると、一つのアクションが羽根と胴体の両方に作用し、よりダイナミックな動きが作り出せるというメリットがある。
このようにして次々と作品をつくり出していく中で、新たに坂さんの心をとらえたのが、試作段階で発生するホワイトモデル(着彩する前の試作品)の美しさだった。それがデコレーションを排し、動きのしくみをそのまま見せるペーパークラフト作品の原型になったという。
以降は、それまで馴染みのなかった機械工学の本を参考にしながら、動きのメカニズムを取り入れたペーパークラフトの制作に力を入れるようになった。
ところで、坂さんのつくる作品はいずれも工作キットや雑誌の付録として、他の人がつくるという前提で設計されたものばかり。「そのため、展開図のパーツは極力少なくし、回転軸なども円柱ではなく角柱にして、つくりやすくすることを心がけています」と坂さん。
イラストレーターを目指した時期もあったが、結果的にペーパークラフトを仕事に選んだのは「イラストやデザインにコンピュータが導入されるにつれ、紙を切ったり貼ったりというバーチャルではない作業が不可欠なこの仕事の方が“つくる”楽しさがより深く味わえるような気がした」からだという。
ある高校ではこのからくり仕掛けのモデルを物理の授業で紹介し、生徒自らがパーツを組み立てるという試みがなされた。平面図などと比べ、動力が伝わるしくみを理解しやすく、また坂さんの設計したモデルをベースに生徒たちが自作の部品をプラスして、最終的にオリジナルのユニークなペーパークラフト作品をつくり上げている。これもホワイトモデルの発展性、そして自分で組み立てたものを動かす楽しさに誘発されてのことに違いない。
日本が得意とする「ものづくり」の精神を、今後どうやって次代へと伝えていくか。それは産業界、そして教育界にとっても大きな課題である。物理、機械工学、デザインという異分野をつなぐこのような試み、そして学んだ内容を元に自分の手で新しいものを生み出すという体験の中に、その問いに対するヒントがあるのではないだろうか。
ライター 石田 純子
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