今日もどこかで開かれているであろう見本市。
出展に際して当事者は入念な準備をし、自信作を携えて臨む。
世界中からバイヤーの集まる家具見本市に、
芸術大学に通う学生がデザインした紙製の椅子が出展された。
毎年4月にイタリアで開催されるミラノサローネは、家具とインテリアの大規模な見本市。その会場で老舗企業や新進気鋭のクリエイターが発表する新作は、世界中のバイヤーから注目を浴びる。
会場はいくつかの部門に分かれており、若手クリエイターの登竜門といわれる部門「サローネサテリテ」には、学生が制作した作品も出展される。その場合は事前に学校単位の選抜があり、当然ながら出展は容易ではない。今年、日本からは大阪芸術大学と愛知県立芸術大学の2校のみが出展を認められた。
各校で選りすぐった展示品は力作ぞろい。斬新で柔軟な発想で作られた照明器具、椅子、テーブルなどが会場のブースを埋めた。
その中で来場者の注目を集めた作品の一つが、紙を素材とする椅子「BUNDLE」である。これはカットした紙管を革製のベルトで束ね、一人掛けのソファにしたもの。座面や肘掛け部分の紙管の断面には、布製の小さなクッションが詰められている。実際に腰を下ろしてみると、適度な硬さと安定感があって座り心地も上々だ。
制作したのは大阪芸術大学の岩崎芽輪(いわさきめり)さん。プロダクトデザインを専攻する3年生である。素材となった紙管は株式会社昭和丸筒から提供を受け、ベルト部分は革加工会社のpointureの加工機器を使わせてもらい、制作を進めた。
アイデアの源は、「紙を巻き取る」という役目を果たした後、不要になってしまう紙管を生かそうと思ったこと。当初は、径の大きな紙管の中に細い紙管をいくつも詰めたユニットで構成される椅子をイメージしていたが、組み立てと分解のしやすさなどを考慮してデザインを変更、実物大のモデルだけで3回制作したりと、試行錯誤を繰り返して今の形に落ち着いた。
紙管をカットする工程では、学校の木材加工用の機材を調整して自分でカットしたが、本来は90度カット用の機械であったため、背もたれ部分の斜めカットの、機械の角度調整に苦心した。また、安全性を期して切断面にはやすりをかけて面取りをしている。
その初披露となるミラノサローネの開催時には、岩崎さん自身も会場に足を運び、来場者の反応を目の当たりにした。
「会場では『cute!』という反応が多かったですね。作っている最中は大変で、とにかく完成させて出展することだけを考えていましたが、相応の反響があったことで努力が報われた気がしました。ミラノサローネ自体、刺激的な経験でしたが、終了した後もほかの展覧会への出展の話があったり、製品化のオファーをいただいたりと、サローネをきっかけにしたチャンスの広がりを実感しています」と、岩崎さん。
海外での作品発表が、いかに鮮烈な経験であったかは想像に難くない。来場者にとっても、木と紙でできた家に住む国の民が考えた「紙の椅子」に「カワイイ」味付けがなされた作品は新鮮だっただろう。
これまでも段ボールなどを利用した紙製の家具は、国内外で多数制作されてきた。それらが運搬や廃棄時の利便性重視でデザインされたカジュアルな印象が強かったのに対し、BUNDLEは利便性を残しつつも、インテリアの主役になりうる存在感が備わっている。若いクリエイターの発想が、今後の紙製家具の新たな可能性を示したといえるのではないだろうか。
ライター 石田 純子
このコラムに掲載されている文章、画像の転用・複製はお断りしています。
なお、当ウェブサイト全体のご利用については、こちら をご覧ください。
OVOL LOOP記載の情報は、発表日現在の情報です。予告なしに変更される可能性もありますので、あらかじめご了承ください
日本紙パルプ商事 広報課 TEL 03-5548-4026