イベントなどで賑やかに打ち鳴らすクラッカーは
ヒモを引くとテープや紙吹雪が舞い散るものが多い。
その中身を桜の花びらや雨粒に変え、
情緒と優しさを感じさせるクラッカーが現れた。
白い外装の清楚な印象すら漂うクラッカーは「さくら」「あめ」「おちば」「ゆき」の4種類が揃う。ヒモを引っ張ると、クラッカー特有の弾けるような音とともに、それぞれ桜の花、雨粒、赤や黄色の枯葉、雪の結晶を模した紙吹雪がひらひらと舞い落ちる。
販売しているのは有限会社スピーカー(東京都北区)、デザインも6D(東京都港区)と共同で同社が手がけている。2008年の発売と共にミュージアムショップなどで取り扱いが始まり、10~12月のパーティーシーズンはとくに販売数が伸びるという。4種の中では「さくら」がいちばんの人気だ。
スピーカーの代表でこのクラッカーを考案した西山眞司さんは、きっかけを次のように説明する。
「クラッカーはもともと紙吹雪の舞うタイプのものが多かったと記憶しています。しかしそれがゴミになるからと、中身は巻き戻せる紙テープに変化し、さらには中身のない音だけのクラッカーまで出てきた。でもそれじゃ何かつまらない。中身がゴミにならなければいいんじゃないかと思ったんです」
実際にこのクラッカーを使用した場では、床に落ちた紙片の桜の花などを拾って持ち帰る人が続出し、ゴミが出にくいという。
「お花見から帰ってきて、何気なく靴の裏を見たら花びらがくっついている。それと同じような記憶の余韻を、人は求めているのかもしれませんね」と西山さん。
ところで発売元のスピーカーは、クラッカーや玩具を専門に扱う会社ではない。「生活を豊かにするもの」を追求しつつ、建築から小売業まで幅広く手がける中で、このクラッカーのアイデアが生まれた。
薄くて柔らかい紙も、折り曲げれば建築のように立体になって3次元の形を持つ。そんな特性も、建築の仕事に慣れた西山さんが「紙を使って新しいことができるのでは」と思い始めるきっかけになった。
製造は愛媛県内の花火やクラッカーを扱う職人に依頼している。しかし、新しいしくみをもったクラッカーであるがゆえに、初めはなかなか製造を引き受けてもらえず、頼み込んでようやく生産にこぎつけたという。
「このケースに限らず、どんな業界でも従来品と違うものや見たことのないものは、非常に警戒されます。だけどそれが暮らしを豊かにし、世の中をよくするものであれば、もっと前向きに取り組んでいってもいいのではないでしょうか。僕らは特定の業界に属しているわけではないので、業界の枠組みや慣習にとらわれず、自分があったらいいと思えるものを形にしていくことに力を入れていきたいのです」
この「四季のクラッカー」もそんな西山さんの思いが詰まった商品の一つ。「仕事を通じて何を実現すべきか」という命題を柔らかく受け止めて答えに導いたのが、紙という素材がもたらしたインスピレーションだった。
ライター 石田 純子
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